りんなとコルタナとホロレンズ 日本マイクロソフト de:code 2016より

J. Yamashita

J. Yamashita

山下潤一郎
ブライター・レイター

 日本マイクロソフトのITエンジニア向けイベント”de:code 2016”が5月24日、25日の両日開かれた。同社が力を入れて紹介した技術の中に、「りんな」「Cortana(コルタナ)」という2人の人工知能、そして「HoloLens(ホロレンズ)」を使ったMR(ミクストリアリティ, 複合現実)があった。

 志村一隆さんによるGoogle IOやFacebookのイベントについての記事によれば、GoogleやFacebookも注力分野として人工知能を挙げている。GoogleやFacebookは人工知能の使い道として効率化や便利さ向上を訴求しており、この分野向けにマイクロソフトは「コルタナ」を提供する。ただ、マイクロソフトはさらに、Emotional AI(感情的な人工知能)を持つ「りんな」も開発している。

 

女子高生AI「りんな」

女子高生AI「りんな」

 

 また、GoogleやFacebookがAR(オーギュメンテッドリアリティ、拡張現実)やVR(バーチャルリアリティ, 仮想現実)を推進しているのに対して、マイクロソフトはホロレンズを使ったMR(ミクストリアリティ, 複合現実)への取り組みを強めている。こうした動きから、マイクロソフトは「WindowsやOfficeの会社からの脱却」を進め、GoogleやFacebookと競合する企業へと進化していることが伺える。

 

MS_ホロ

 

「りんな」には340万人のお友達

 

りんなとの会話例

りんなとの会話例

 「りんな」は昨年8月にデビューした女子高生AIで、現在およそ340万人のお友達がLINEとTwitterにいる。そして、「コルタナ」はWindows10に標準搭載されているパーソナルアシスタントである。「マイクロソフトのSiri」と説明する人もいる。

 りんなとコルタナは、質問への答え方も違う。例えば、「明日晴れるかな」とコルタナに話しかけると、「明日の東京の天気は晴れ。降水確率は終日0%です」などと答える。一方、りんなは「何か用事でもあるの?」といった返事をする。コルタナが役に立つことを目指すのに対して、りんなは感情的につながることを目指している。

 “de:code2016”では、りんなのナイスな会話を支える「Rinna Conversation Services(beta)をユーザー自身のTwitterアカウントで活用できる券」を50枚限定で配布した。これは、ユーザーのアカウントへの@ツイートに対して「rinna」(注:りんなとは別の人格)が返信するというサービスである。幸運にも、私もこの券を入手することができた。rinnaの働き具合は、機会があったらまた報告したい。

Rinna Conversation Services

Rinna Conversation Services

 

ホロレンズを使ったMRは楽しそう!だけど・・・

 

 マイクロソフトによれば、MRはARとVRの良いところを組み合わせたものである。MRは、VRと違って現実空間に仮想空間を組み合わせることができ、ARと違ってインタラクティブ性(双方向性)が高い、といった特徴を持つ。

 マイクロソフトが開発するホロレンズは、MRを体験するためのヘッドマウントディスプレイである。ホロレンズを装着すると、例えば、自分の部屋でお気に入りのキャラクターが走り回っているのを楽しめる。ホロレンズに人工知能を持ったBot(AI Bot)を組み合わせれば、キャラクターと自宅のソファに一緒に座って会話することもできる。

ホロデモ

 マイクロソフトは、ホロレンズの法人利用も進めている。会場では、日本航空と共同開発した訓練システムが動画で紹介された。これは、パイロット向けにはボーイング737-800のコクピットを再現、整備士向けには787のエンジンを再現したものである。

日本航空と開発した訓練システム

日本航空と開発した訓練システム

 ただ、ホロレンズを使ったMRサービスが広まる可能性やそのタイミングを、現時点で予測するのは難しい。今年3月に米国でホロレンズの開発者バージョン(価格はUS$3,000)の出荷が始まったばかりで、日本国内にはまだ10台程度しか輸入されていないと推定される。また、ホロレンズに関するセッションでは、マイクロソフトも日本国内でこの分野の事業計画を明確に描いていない印象を受けた。

 

AI Bot教育という新領域を制するのは!?

 

 ホロレンズを活用したMRサービスの実用化はまだ見えないが、人工知能を持ったBot(AI Bot)は近い将来様々なサービスで広く使われるようになりそう – これが、“de:cpde 2016”で私が受けた印象である。そして、AI Botをサービスが広く使われる際には、それを学習させるための「教育」が大きな課題、つまり大きなビジネスチャンスになることが想定される。

 AI Botベースのサービスでは、AIの質 = 学習度合いが競争力の重要なカギとなる。新規参入企業が先行企業に追い付き・追い越すためには、素早く学習できる「スピードラーニング」的な発想が求められよう。また、特定の専門分野を深く学習するための専門教育あるいは高等教育も必要となろう。配置転換により、再教育が必要になるAI Botも出てくるかもしれない。AI Bot教育の可能性は非常に大きそうである。

 では、こうしたAI Botの教育という新たな分野は、誰が切り拓くのだろう?GoogleやFacebook、マイクロソフトといった現在のIT業界の巨人たちが引き続きリードするのか。あるいは、新興企業が颯爽と現れて、この分野で大きな存在感を示すようになるのか。ぜひ、皆様にも注目していただきたい。もちろん、自らがこの分野に飛び込んで開拓するのも、とても刺激的なのでオススメである。

(参考)
人工知能とバーチャルリアリティ – Goole IOより(志村一隆)
VRやAIの未来 – Facebookの未来戦略(志村一隆)