米国テレビ局規制の動向 – オークションなど

Kazu Shimura

Kazu Shimura

志村一隆

 メディア規制は、いつの時代も経済合理性と多様性のせめぎ合いである。米国で同一地域でテレビ局を2つ保有してはいけないという規制ができたのは1964年。新聞とテレビ局の双方を保有してはいけないという規制ができたのは1975年。1960年代テレビは黄金期を迎え、70年代には新聞の発行部数がピークを迎えた。(参照:「テクノロジーと民主主義」)

Newyork post

 

 70年代はケーブルテレビ・多チャンネル時代前夜でもある。録画機も代替メディアもまだ無い。選択肢の少ない中で、新聞社とテレビ局の所有は市場プレイヤーが減る。その結果生まれる余剰利潤をニュースに投資するという資本側の論理と、ローカル意見を表明する場が失われ、その結果民主主義が衰退する、という市民目線な考え方。どちらかというと、規制側は市民目線が強かっただろうか。

 それから、40年。

 新聞やテレビメディアの力は相対的に失われた。この時代に、メディアの保有制限を声高に主張するのは、衰退産業を守るためにニュースの多様性という論理を濫用しているようにも見える。メディアがビジネスと結びかざるを得ない以上、多様性は規制でしか守れないと自分も思うが、とにかく40年前とは、少し局面が違っている。

FCC

 

 米国で放送規制を担当するのは連邦通信委員会( Federal  communication CommissionFCC。規制緩和派のAjit Pai委員やMichael O’Reily委員の主張は、インターネットOnlyのメディアもローカルニュースの作り手になっている時代に、40年前のルールを変えないのはおかしいというものだ。一方、規制維持派のMigno Clyburn委員は、ローカルニュースはローカル新聞とテレビ局が存在しなければ成立しない、と言う。

 FCCは4年毎に規制ルールの見直しを行う。FCCが規制緩和の方針を打ち出したのは2002年。しかし、プロメテウスラジオプロジェクトという市民グループから反対運動を起こされ、結局裁判所から差し戻し決定を受けた。さらに、2010年と2014年版も差し戻されたまま、FCC側が何のアクションも取っていない。したがって、新聞とテレビの複数保有は禁止されたままであるとの、Tom Wheeler委員長のメモが公開されている。

 

インセンティブ・オークション

 

 現在、米国ではテレビ局が自社が保有する周波数を手放し、通信会社に買ってもらうオークションが行われている。しかし、放送局側が付けた値段に対し、通信会社側の値付けが低く、売りに出ている全ての周波数で成立するか微妙になっている。電波を手放すテレビ局は、そのまま廃業するか、違う帯域に移動する。規制維持派のClyburn委員は、いま規制緩和してしまいテレビ局の複数保有が進めば、オークションに参加するテレビ局が減る、つまりこれからのモバイル時代の電波が確保できなくなるという懸念を示す。

Digital TV

 

 放送局の電波といえば、2009年の地デジ移行を思い出す。移行後スグに、当時のJulius Genakowsiki委員長がインセンティブ・オークションを打ち出した。放送局側は、長年親しんだ周波数帯から移行した後に、また電波をよこせというのは受け入れられないという雰囲気だった。とにかく、この5-6年はモバイル時代への変化が急激すぎて、規制緩和か維持か、その前提が1-2年で変わってしまう。”Localism, competition, diversity”のために最善の策はなんなのか。その策自体の寿命が短いのだ。前回書いたインターネットの「流れ=FLOW」ではないが、FCCが規制ルールの見直しを固定化出来ないのも、そんな背景があるのだろう。

(参考)

  • 米国の通信・放送規制は、政府から独立した行政組織であるFCCが担当する。スタッフは1,688人。意思決定は5名の委員が行う。全員大統領が任命するが、3人以上は同じ政党から選べない。任期は5年。規制法は、Communications Act of 1934(1934情報通信法)と、クリントン政権時代に成立した Telecommunications Act of 1996(1996電気通信法)。
  • 先日書いたテレビ局の合併などメディアの再編もFCC規制の影響を受ける。テレビ局保有に関する主な規制は以下の通り。
  1. テレビ・新聞クロスオーナーシップ:日刊(週4日以上)新聞を発行する法人が、エリア内の放送局を保有することを禁止。
  2. 全国放送:1ネットワークがカバーする視聴者数は、全体の39%を超えてはいけない。ただし、UHF局は視聴者数を半分にしてカウントできる。
  3. デュアルネットワーク:ABC、CBS、Fox、NBCは各々合併できない。
  4. ローカルテレビの複数保有:次の2要件を満たせば、1法人で2テレビ局を保有しても良い。1)サービスエリアが重複しない。2)保有テレビ局の1つはエリアの視聴数(9時-0時までの視聴者数;ニールセン測定)シェア上位4局ではない。3)該当エリアのテレビ局が独立した8つ以上の系列に分散されている。
  5. ローカルラジオ・テレビ保有:20以上のメディア(テレビ、ラジオ、新聞、ケーブルテレビ)があるエリアでは、1法人で2つのテレビ局、6つのラジオ局を保有できる。10以上では、2つのテレビ局と4つのラジオ局。それ未満の地域は2つのテレビ局と1つのラジオ局を保有できる。他に、当該エリアで週4日以上、その地域の主要な言語で発行される新聞が世帯5%以上の発行部数を持つ。
  6. 外資規制:外国籍を持つ法人(個人)は、放送局株式を直接保有で25%以上、間接で20%以上保有できない。
  7. 多様性:放送局オーナー(議決権50%以上)の男女比、人種なども論点に上がっている。因みにアジア人オーナーのテレビ局は、全体の1.4%。白人は77.2%。
  • 米国の「ニュースを何で知るか?」「若者の40%はインターネットと答えている」といった調査は、規制緩和の根拠に利用される。
  • インセンティブオークション:今年の4月から開始、8月に第1回目が終了した。放送局側が示した126Mhz分を880億ドルには及ばない230億ドル入札で終わった。現在は第2回目が行われている。
  • 参考:ロックメディア 規制に関するセッションメモ