志村一隆
先日、就活・転職本を出したからか、マスコミ志望の就活生の前で話をする機会があった。よく言われるが、いまの学生はよく研究している。もはやアナリストやコンサルタントは必要ないのではないかと思うくらい研究している。
質問も専門的。「有料のNetflixは日本のテレビ業界にどう影響するのか?」「デジタルに力を入れている新聞社と紙を大事にするところと、どう評価するか?」「本なんてなくなると主張する人になんて言うか?」「紀伊国屋書店の書籍買取に対し賛成か?」などなど。そのまま調査・研究や雑誌のテーマに使えそうである。
衝動
ただ、業界研究は投資のためにやるもので、いくら分析しても自分の仕事を見つけられるわけではない。投資と労働とはちょっと違う。それよりも、メディアは表現に直結できる仕事ができるのだから、好奇心とか伝えたい衝動に突き動かされてる感がほしい。
自分も最初の本「明日のテレビ」を書いたのは、米国に行って「この現状を伝えなければ」と衝撃を受けたからだった。WOWOWにいた頃、海外のメディア事情を調べてたのだが、どこにもそんなニュースがなく困っていた。CESのようなイベントのニュースは、製品の品番とスペックばかりなテッキーな情報か、日系メーカーのことばかり。自分が知りたかったのは、海外のメディアビジネスの話だった。ところがそんな情報を拾っている人が誰もいない。だったら、自分でやってみよう。ということでとある研究所に入ってみた。
(参考)新聞社やアナウンサー試験でどんな志望動機が心に残るのかは、下記センパイの寄稿を参考。
旅をし未来を語る
メディアに書くようになって、あってよかったと思うスキルは語学力か。よくグローバル化だ、インターネットが国境を超えると言いながら、発信してるほうが英語ができなきゃしょうがない。なんでもそうだが、お客さんや読者のほうが進んでいるのが世の常だ。デジタル以降新しいことは米国で起きる。そのたびに、いままでよりひとつ大きな視点でみないと新しい出来事の意味が理解できない。それはテクノロジーだけでなく政治でも安全保障でも同じだろう。とにかく世界のなかの日本という視点が大事。そんな肌感覚は旅をして海外の人たちと議論やインタビューできなければ養われないと思う。(これからジャーナリストを目指す人にはそんな記事でウェブを満載にしてほしいです。)
もうひとつ学生との話で気になったのは、情報源がインターネットなのか、知識が最近のトピックに偏っていること。アップデートされ続けるネットメディアで過去を辿るのはちょっと難しい。なぜいまこんな現状なのか?ネット以前時代のことも含め歴史を理解しないと、未来も予想できない。この混沌とした時代にジャーナリストに求められるのは、未来への展望だと思う。なにか事件が起きて報道するリアクション型ではなく、世間より一歩進んだことを紹介する道しるべこそ、メディアが尊敬され信用を増すもとだろう。それに、過去データ比較だけの単純な記事はこれから機械が作ることになるだろうし、キュレーションもしかり。メディア業界で人間がやることは結局、自分の経験を踏まえた主観しか残らないのではないか。(参考:2016年2月号 米国NBCのCEOはネットメディアの若い視点も大事だと述べていた。また、2008年に聞いたアルビン&ハイジ・トフラー夫妻の講演メモのリンクも貼っておく)
メディア業界のセンパイ
最後に自分が衝撃を受けた本や、メディア業界の大センパイから聞いていまでも頭に残っている言葉をここにメモしておこう。新聞読まないのに新聞社入るのは、お酒飲めないのにビール会社に入るようなもの。テレビ見ないのもまぁいいとして、メディア界の先人が書いた本くらいは読んでおいて損はないだろう。
(言葉)
- 「初期のテレビ局では『NHKは国に縛られて信用できないから、民放のオレたちがちゃんとした報道をやるんだ』ってことを言っていた。NHKのほうが信用度が高い今と逆」
- 「バラエティ番組制作の局長が『オレたちが金を稼ぐからオマエらはいい報道をしてくれ』と報道局の局長に言っていたの見たことがある。昔はそんないい関係性があった」
- 「テレビは毎分視聴率が出るようになってからツマラナクなった。みんな視聴率の高かったコーナーを真似るようになる。研究するほど同じような番組が増える」
- 「視聴率30%取った番組でも、10年経って誰も覚えてないものとみんなの記憶に残っているものがある」
- 「権力が巨悪という思い込みは古い」
- 「人の不幸を探せというが、そればかりではこちらが疲弊する」
- 「釣りのタイトルをつけざるを得ないが、そういった記事に踊らされてしまう人もいることを考えるとツラい」
(本)
- 衝撃を受けた本をひとつ。「お前はただの現在にすぎない(荻元晴彦、村木良彦、今野勉、朝日文庫)」
- 上記本に関する参考資料。
今野勉氏のインタビュー(NHK文研)
前川英樹氏(元TBSメディア総研社長)のメモ
(ウェブ)
- 君和田正夫独立メディア塾長の「塾長室」:新聞・テレビメディア、ジャーナリズムについて必読の論考。
- 関口宏「コラム」:「テレビとはなにか?」を考えるうえで貴重な読み物。
- 前川英樹「放送人日記」「TBSメディア総研 Maekawa Memo」
- 「あやとりブログ」 2010-2012年頃の投稿群がオススメ。
(映像)
- TBS名作ドキュメンタリー特選 (「あなたは・・・」「わたしの火山」など1960年代に制作されたテレビドキュメンタリーが見られる)
こうした原点を踏まえながら、自分の立ち位置、受け継ぐモノ、次世代に伝えるモノを考えるとより仕事が楽しくなるのではないか。ともかく、書いたり映像を撮ったりする仕事ほど、資本効率性の悪い商売はない。コンテンツと資本主義という永遠のテーマを打ち破るには、給料やお金のことを考えない「狂気」を持った人だろう。そういえば、この「狂」という言葉も、15年前日本テレビ「電波少年」T部長の講演で学んだ。もちろん、この前の就活セミナーの会場は「狂」的な空気で満ちていた気がする。