アナウンサーやキャスターを目指すあなたに

N.Hashitani

N.Hashitani

橋谷 能理子

 この4月から7月まで、立教大学において「キャスターが教える“伝える力”」と題して週1回の授業を受け持った。
大学で教えるのは初めて。しかも、300人を超えるという大勢の履修者の前で毎週90分をこなすのは、なかなか骨の折れる仕事ではあった。
 メディアに就職を考えている学生もいれば、特にそうは考えていない学生も、また下は2年生から上は55歳以上の社会人枠の学生までと年齢も幅広く、すべての人に役立つスキルは何か、毎回ああでもないこうでもないと頭を悩ませた。
 しかしこの4カ月間は、私自身にとっても大きな収穫となる経験であった。

 

DMJNHOpt2016081

 

 全14回の授業のうち半分は、私が身を置くテレビというメディアを考える内容だったが、残りの半分では「話す」「伝える」スキルを様々な角度からとらえ、実践練習も多く入れとにかく「伝わる」話し方を学んでもらった。
では、「伝わる話し方」とは何か。発声や滑舌から始まる聴きやすい声はもちろん大前提。
ボキャブラリーを豊富にすること、わかりやすい構成、その場に応じた要約力も必要だ。
説明する時には、相手のタイプを心理学的に読み取ってそれに応じたことば選びをし、相手の心をつかむ話法が有効だし、プレゼンテーションを行う際には、人前で話す上で重要となるボディランゲージや間のとり方、声のトーンやスピードの調節にも挑戦してもらった。

 みんな苦戦しながらも果敢にワークを積み重ね、その上達ぶりに私も心でガッツポーズをしていた。

kadasfdadkfkasafdka

 しかし、彼らから一番大きな反響をもらったのは、「傾聴」ということを取り入れた回だった。
「聴く」というと、一見受動的な作業で「伝える」こととはあまり関係ないように思えるかもしれない。しかし、実は「喋る仕事はここから始まる」と言っても過言ではない。
授業内では、傾聴をする際に必要なスキル、たとえば「ミラーリング」(相手と同じ姿勢や動作をすること)「ペーシング」(相手の声のトーンやスピード、できれば心情にも近づけること)そして、適切にあいづちを打つということに神経を使って聴いてもらった。
グループごとのワークで最初に、目を見ない、相づちを打たない、スマホをいじりながら聴くなどの「悪い聴き方」をしてもらい、その後、ミラーリングなどのスキルを駆使して「良い聴き方」をしてもらい、その差を体感してもらった。

 

DMJNHOpt2016082

 すると、「悪い聴き方」をされた時には、「心が折れそうになった」「もう話したくなくなった」などの感想が出たが、「良い聴き方」をされると「もっと話したくなった」「聴き手への信頼感が高まった」という声が上がった。
当たり前と言えば当たり前の話だが、その違いに学生自身が驚いていた。
 そして、課題として生活の中で意識して「傾聴」を行ってもらったところ、
「就活のグループディスカッションで採用担当者に『全体が見えていてコミュニケーション能力が高い』と褒められた」
「アルバイト先で売り上げをぐんと伸ばせた」
「これまでバラバラだったサークルをまとめることができた」
「苦手だと思っていた人との関係が良くなった」
などの驚きの声がレポートを埋め尽くした。私の予想をもはるかに上回るものだった。

 アナウンサーという仕事を30年間やってきて、うまいMC、うまいキャスターというのは、聴く能力にたけている人だということを今更ながら実感している。
「伝える」というのは決して一方向の作業ではない。
こちらが話し、相手がそれを受け止め、リアクションが返ってきて、さらにこちらが言葉を重ねていくという一連の輪が「伝える」「伝わる」ということだ。

 うまく聴くと、「この人になら話してもいいかな」という気持ちがわき、信頼関係が増し、より良い言葉が返ってくる。多くの情報が出てくる。するとこちらも良い質問ができて、その「場」がどんどんより良いものになっていく。
これは何も報道番組におけるインタビューや対談だけではない。バラエティなどでも、うまい司会者は傾聴力に優れ、ゲストをより輝かせて番組を面白くしていく。
表には出にくいが、重要な、そして高度な技だ。

 自分自身を振り返ってみても、新人アナ時代、先輩からまず叩き込まれたのは傾聴だった。
「お前は喋るのはまだ全然ダメなんだから、とにかくインタビューで人の話をきちんと聴け」と。
そしてその教えは今ももちろん生きている。

 アナウンサーやキャスターに求められるスキルとは、「うまくペラペラ話すこと」とお思いの方もいるかもしれない。しかし、立て板に水で自分だけ悦に入って喋り続ける人と、あなたは話をしたいだろうか?
おそらくそういう人とは距離を置きたくなるのがふつうだろう。
相手の話を傾聴し、番組全体を面白くするために「場」をうまく作り上げられる人、それが“できるアナウンサー”だと思う。

SMATop

 私自身が指導を行っているアナウンサー、キャスター養成講座であるSankei Media Academyでも、この傾聴のスキルは重点的に指導している。
今後アナウンサーやキャスターを目指したいという方は、ぜひ、「人の話をきちんと聴く」スキルも磨いてもらいたい。それは他の出演者だけでなく、結果的にあなた自身をも輝かせることにつながるだろうから。

(独立メディア塾からお知らせ)

新人女子アナが先輩に聞く「女子アナを目指すあなたへ」を毎日配信しています。興味のある方はコチラをクリックしてみてください。橋谷さんも出演しています。