キューバ人の「プライド」とメディアの「偏見」 ~ハバナ現地レポート

M. Saito

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斉藤 真紀子(フリーランスライター)

 これほどまでにスポットライトを浴びたのは、もしかすると「革命」のとき以来ではないのか。そう思うほどに、3月下旬は世界のメディアでキューバのニュースが取り上げられた。

 オバマ米大統領の訪問、米大リーグの親善試合、ローリング・ストーンズの野外無料公演……。米キューバ国交回復に伴う、「雪解け」を象徴するような出来事が続くなか、私は首都ハバナに飛んだ。歴史が動く。そのときを、目撃したいという意図だった。しかし現地の反応は意外なほどに落ち着いていた。スクリーンショット 2016-04-22 10.31.33

 「キューバがいい国だという宣伝になってうれしい」

 ハバナに住む30代女性は、そう言って、オバマ米大統領の訪問を喜んでいた。

 

独裁政治からの「解放」?

 

 キューバの俗語をまじえたスペイン語であいさつし、地元のレストランでごはんを食べ、にこやかに市民とふれあう機会を持ったオバマ氏。地元の人たちが歓迎したのは、オバマ米大統領の礼儀正しさや謙虚さだったようだ。

 一方で、海外のメディアはこの歓迎の様子を、キューバの共産主義や独裁政治からの「解放」の象徴として、センセーショナルに取り上げる向きが多かった。

  • 「カストロよりオバマを議長に」とハバナ市民はラブコール(産経ニュース)
  • 「Obama’s visit will hasten freedom in Cuba」(オバマ訪問でキューバの自由化が加速)(ワシントンポスト)

 オバマ米大統領は経済制裁緩和の条件として、人権問題の解決をつきつける場面もあったが、ハバナ市内で感想を聞くと、「余計なお世話」とばかり、迷惑顔をする人たちが多かった。「アメリカには反カストロ派も多く、外交上のポーズとして仕方がないのでは」というふうに、オバマ米大統領に「同情」するキューバ人(30代男性)もいた。

 米国との国交回復は、歓迎すべき出来事ではあるけれど、オバマ米大統領が「救い主」であるかのような見方とは、大きなずれがある。

 

大統領にキューバのよさを発信する期待

 

 オバマ米大統領が「キューバのよさ」を発信してくれるのではないか。現地の人びとの期待からににじむのは、キューバ人のプライドやしたたかさだ。

(C) Miguel Angel Meana Coronado

(C) Miguel Angel Meana Coronado

 時を同じくして、キューバを訪れたローリング・ストーンズの「熱狂」も、海外メディアに大きく報じられたが、ここでも現地との温度差を感じた。ハバナで開かれた、野外の無料コンサート。50万人以上の観客を揺らす、ど迫力のライブで、ミック・ジャガーがスペイン語でMCをはさみながら、華やかなステージを繰り広げた。

 「ロックが禁じられてきたキューバで、歴史的なコンサートに市民が熱狂した」

 翌日以降、こんなふうに、キューバの音楽がストーンズによって「解放」されたという海外メディアのレポートを複数見かけたのだが、その報道にも違和感が残った。

 

ロックだって聴いている

 

IMG_6973 たしかに、キューバ革命直後、60年代はロックやポップ音楽が禁じられた時期もあった。ところが、いまや、キューバに住む人びとは、伝統音楽ばかり聴いているわけではない。欧米のロックやポップはもちろん、多岐にわたるジャンルの音楽を、自分の好みで楽しんでいる。

 だから、コンサート会場はロックファンもいれば、海外の観光客も、ピクニック気分の人も、ストーンズを知らない若者もいて、楽しみ方もいろいろだった。叫んでいる人、踊っている人、立ち尽くしている人、ピクニックをしている人・・・。

 これはまさに、娯楽の少ないキューバの人たちが週末に屋外で集まって、音楽をかけながら盛り上がっているふだんの光景と重なる。

 キューバは外国に行く自由が限られていることもあり、海外のアーティストが無料でライブをするとなれば、「この機会を逃してはいけない」と、なおさら多くの人が押し寄せる。ライブ会場でのありあまる情熱は確かに本物だったけれど、このお祭りムードを「ロック解禁ゆえ」としてしまうと、ずれが生じてしまうのだ。

 「ローリング・ストーンズ、次はキューバで150万人規模のコンサートを開くらしいね」

 あるキューバ人の若者は、嘘か真かわからないような情報をささやいていた。キューバ人からみたら、これほど多くの観客が集まり、これほど盛り上がる場は、「ミュージシャンにとってもコンサートの開きがいがあるのではないか」というわけだ。

 明るい未来は、「救い主」を待つのではなく、自分たちで切り開く。オバマ米大統領の訪問、ローリング・ストーンズの野外無料コンサートへの淡々とした反応に、キューバ人の「プライド」を垣間見たようだった。

ローリング・ストーンズコンサート

ローリング・ストーンズコンサート