パリ・バルセロナ・家族

Kazu Shimura

Kazu Shimura

志村一隆

 パリの知人は、モロッコ出身。「フランスに住んで後悔している」と自分に言った。「若気の至りだった」「あの頃はフランスが素敵と思っていたんだ」

 彼はフランスの大学を出て、3年間ビザが取れず違法にパリで過ごした。「どうやって国籍を取ったの」「結婚だよ」フランス人と結婚し、現在は12歳の男の子と8歳の女の子がいる。

 仕事はバカロレア試験向けの先生。フランス文法・歴史・倫理・哲学みたいなことを教えている。だが、生徒はまったくやる気がない。

 「モロッコに戻らないのか」と聞くと、「もう50歳だ。。公共の仕事は年齢制限があるので帰っても仕事がない」「民間の仕事はないのか?」「あるわけない」と首を振る。彼は現政府の移民政策に怒っている。フランスを出たいが、出る場所がない。

Paris

 父と息子はアラビア語で会話する。父は息子にフランス語の文法を教え、さらに学校で英語を習い、それにドイツ語も話せる。それでも、この家族は経済的にまったく恵まれていない。食事はパンにチョコを塗り、ミルクだけ。

 息子は街のチームでサッカーをしてから帰ってくる。好きなチームはバルサ、選手はネイマール。マンガも大好き。ナルトもワンピースも大好き。ストリートファイターも好き。なのでSENSEIって単語は知っている。だが、中国人と日本人、韓国人の区別はつかない。ジャッキー・チェンとブルース・リーは何人かは知らない。

 息子と話していたら「友達が銃も見せてくれた。フェイクのガンだけど、撃つと衝撃がすごい」と屈託なく話しかけてくる。まさか、なにかの勧誘じゃなかろうか。だが、その話題は出すのはやめた。

 バルセロナの知人は、旦那と離婚し14歳の息子を一人で育てている。彼女はあまり教育熱心でない。息子は英語を話せない。彼女の仕事は古本のネット販売など決まったものはない。スペイン人のファッションジャーナリストが毎日家に来る。彼はとても優しい人物である。彼の原稿も95%が英語である。ジャーナリストにとって、Facebook、Twitter、Instagramは必須。記事を書いたらその3つで告知しないと広まらないという。どこも事情は同じか。

BCN

 もう一人のバルセロナの友人は、医者の妻と息子が2人いる。将来仕事の都合でドイツに住むかもしれないので、フランス系の学校に通わせている。フランスの学校は、どこの国にいっても一貫性があるので転勤族には便利なそうだ。

 息子は毎日習い事をしている。月曜はピアノ、火曜テニス、水曜は英語、木曜サッカー、週末もサッカー。彼も多国語を話す。スペイン語、カタラン語、フランス語、英語、そのうちドイツ語も習うらしい。

 バルセロナの友人たちは同じ地区に住んでいるが、片方はボロボロの古い家である。もう一方の友人はおそらく裕福な方だろう。双方は知り合いではない。おそらく階層が違うんだろう。

 ただ2人に共通しているのは、カタルーニャ独立絶対支持なところだ。2人ともスペインが大嫌いである。バルセロナの税金で他の地域の財政が成り立っているのがとにかく許せないらしい。バルセロナの高速道路は有料だが、ほかの地域は無料。バルセロナの通行料でほかの地域の道路を作っているが、その地域は貧しいので料金は取れない。(ホントかどうかは知らないが)

 バルセロナとパリの家族たちをみて、読者はどう感じるだろうか。自分は多言語を操る息子たちをみて、日本はあと30年勝てないんじゃないかと思った。機械の付加価値がダラダラと下がり続け、コミュニケーションで稼がなければならない環境にあるいま、語学力を身につけさせることは国作りの基礎だと思うがどうだろう。それでも「別に言葉が話せればいいわけじゃない」と思う人が大多数だろうが。

Paris2

 パリからバルセロナの電車で米国人家族と一緒になった。電車に乗り込むときに、奥さんと少し会話を交わした。たまたま席が一緒だったのだが、後から来た旦那にまず言った「He speaks English by the way」何気ない言葉だが「変なことを言うな」って念押しじゃないか。かなり意地悪くとると、いつもはアジア人がいてもわからんと思って好きなこと言ってるんではないか。

 言葉は話せなくてもいいかもしれないが、話せたほうがいいことが多い。