鍵の不安とエレベータ – #MWC17

Kazu Shimura

Kazu Shimura

志村一隆

 今回のスペインは、イベリア航空に乗った。土曜の朝11時40分に乗ると、同じ日の夕方マドリードに着く。14時間かかるが乗り継ぎがないのがとてもいい。

 マドリードの宿はAirBnBを利用した。大通りに面したバルコニー付きのアパート。映画でよく見かける石造りの建物に黒い鉄扉、そこに部屋ごとの呼び鈴が並んでる。AirBnBが楽しいのは、こうした地元の家に入って、地元の人と話せることだ。

 家主はサンドラというアーティスト。挨拶代わりにいきなりハグされビビる。それも頬を右、左と2回。さらに右頬が加わり、3回されると違う意味になるらしい。

 サンドラの生業はタトゥー彫りだが、それは将来の創作活動のためだという。貸している家と自分の家と2つを所有しているのだから、結構なお金持ちなのだろうか。宿泊客は合計4人。中国、スペインなど、自分以外は女性ばかりである。全部で5部屋あり、シャワールームは2つ。キッチンや洗濯機もある。シャワーは水圧もあるし、お湯も出る。シャンプーも完備。

スペインの鍵

 AirBnBの唯一の不安(特にこうした古い建物)は扉の「カギ」である。建物が古いからか、中世の城塞のような長く大きな鍵を渡される。それが、全く鍵穴と噛み合わない。決して右に回すなと言われるのだが、オートロックな鍵に慣れている身としては、つい右に回してしまう。すると、もう右にも左にもユルユル何回転もして、全く開かなくなる。暗い廊下で、一人寂しく、何十分も格闘することになる。

 その格闘の不安をさらに増すのが、廊下が真っ暗なことだ。外出から帰って、まず通りに面した鉄扉を開けると、階段か小さいエレベータで部屋の階までいく。その階段が真っ暗で何も見えない。何しろ石造りで窓もない完全密閉な建物なので、足元の階段すら見えないくらい暗いのである。

 それでも、最初から暗ければ覚悟ができているのだが、突然電灯が消えるパターンもある。電灯は何秒かで自動で消えるらしく、所々にスイッチがあって、それを付けながら歩いていくシステムらしい。真っ暗になるのが怖いので、次からはエレベータを利用した。

スペインのエレベータ

 このエレベータも特殊である。外扉と内扉があるが、それはまぁ大丈夫。2階が「1階」という表記も何回か経験ある。問題は、自動で閉まる内扉が、動き出すまでに時間がかかることだ。階数ボタンを押すと、しばらく何の反応もないのだが、突然ものすごいスピードで閉まる。

 最初乗った時、何の反応もないので、無理やり扉を閉めようとした。すると、狂ったように元の位置(つまり開いてる状態)に戻ろうとする。扉が閉まらないのでエレベータが動かない。どうしたものか困っていると、突然内扉がガガーと閉まった。

 日本のエレベータは人間がアクションを起こすと機械が反応する。反応がないときは、手動の合図である。しかし、同じコミュニケーションは、スペインのエレベータには通じない。ボタンを押しても、いちいち反応なんかしないのだ。無言ながらにエレベータにも意地がある。言葉は話せないが意思はある赤ちゃんのようで面白かった。

 ということで、旅に出ると、言葉だけでなく、機械とのコミュニケーションもお国柄を感じられて楽しい。(続く