再選への道を固めるトランプ大統領

K.Takekuma

テレビ朝日アメリカ社社長
武隈 喜一

 
 「壁を作る予算をよこさなければ連邦政府を閉鎖する」、「中国の製品には25%の関税をかける」――閣僚は次つぎと辞任し、北朝鮮の金正恩委員長との二度目のトップ会談も成果はゼロ。かつての側近や顧問弁護士は有罪判決を受け、ロシア疑惑を追及され、物議をかもす発言が毎日のように飛びだす。ホワイトハウスの現状は、政権の末期症状のように見えるだろうか。

 
共和党支持者は85%以上が支持
 

 たしかにギャロップによる2月の調査でも、支持率は43%、不支持率は54%だ。だが平均してしまっては、「トランプの米国」の本当の姿は見えてこない。内容をみると、共和党支持者のトランプ支持率はこの一年半、ほとんど85%を切ったことがなく、民主党支持者の支持率はつねにヒト桁で、8%を超えることはまずない。2月の調査でも共和党支持者からは90%の支持を受け、民主党支持者では6%にすぎない。
 米国の中にはまるで二つの国があるようだ。それほど違った価値観と、違った「社会像」をもつ人びとが歴史の中でかたち作られ、21世紀の米国政治はその裂け目を埋めることに失敗しつづけてきた。
 そしてその裂け目を修復するのではなく、徹底的に分断し、再選のために利用する選挙運動を、トランプ陣営はスタートさせた。

 
トランプ以外いない共和党
 

 スローガンは「メイク・アメリカ・グレート・アゲイン!」を進化させた「キープ・アメリカ・グレート!」(Keep America Great!)だ。去年の中間選挙で民主党に下院を握られたが、組織選挙のエンジンである共和党全国委員会(RNC)は、今回は全面的にトランプ再選を支援している。かつては共和党議員のなかにも「ネヴァー・トランプ」と言われる「トランプ拒否派」がかなりいたが、中間選挙以降、共和党の中から「ネヴァー・トランプ」の声は聞こえない。共和党が今後も政権を担い続けるには、トランプ再選以外、道はないからだ。

 
中国一人勝ちに立ちはだかる
 

 トランプ自身も、中間選挙で移民問題と壁の建設にこだわりすぎたことを反省し、まだ壁の建設が手付かずにもかかわらず、「フィニッシュ・ザ・ウォール!」(Finish the Wall!)を掲げて、今後はこれまでになく低くなった失業率と順調な経済をアピールし、中国への対抗姿勢に重点を置く方針だ。
 ことに中国を経済冷戦ともいえる貿易戦争に引き込んで、これ以上の無法な一人勝ちを防ぐことは、地域安全保障ともからめたトランプ政権の一貫した政策だ。対中強硬策と貿易圧力は、2016年の選挙運動中からスティーヴ・バノン元首席戦略官が強く提唱してきた政策だが、かつては一般的な奇襲的サイバー攻撃を指して使われてきた「サイバー・パール・ハーバー」という言葉も、最近ではファーウェイの5G戦略など、もっぱら中国に向けて発せられるようになってきている。
 対中貿易不振によって米国民の不満がたかまっても、中国を野放しにしてきたオバマ前民主党政権にその責任を転嫁し続けるだろう。また多くの米国民はICBMさえ飛んでこなければ北朝鮮の核にはほとんど関心がなく、米朝会談の成否は次の大統領選挙の行方にはほとんど影響を与えそうもない。さらにムラー特別検察官が進めるロシア疑惑捜査は、たとえその報告内容が重大であろうが、トランプ陣営も共和党も、「民主党の陰謀論」との主張を絶え間なく繰り返していくだろう。たとえ弾劾の声が大きく起こっても、民主党には大統領弾劾プロセスを進めながら、1年半後に迫った次期大統領選挙を戦うという両面作戦を遂行できるだけの決定的な支持と力はない。

 
1億ドルを超える選挙資金
 

 政権奪回をめざす民主党では、15人以上が大統領候補に名乗りを上げているが、リベラルであればあるほど、「国民医療制度」と「グリーン・ニューディール」、企業コントロールの強化、超富裕層への重点課税など、前回善戦したサンダース候補以上に左よりの政策をアピールしている。これに対しトランプ大統領は各地の集会で、「ソーシャリズムは米国の価値観とは相いれない。米国をソーシャリストには渡さない。米国をベネズエラのようにしてはならない!」と、その内実はともなく、民主党候補に「ソーシャリスト」という、米国では「呪われたレッテル」を貼りつけている。中間層や貧困層の連帯にくさびを打ち込むのはトランプ大統領が得意とする方策だ。
 トランプ陣営はすでに1億ドル(約110億円)を超える選挙資金を集めたと言われているが、米政治の宿痾(しゅくあ)ともいえる集金マシーン、スーパーPACがトランプ再選に向けて稼働を始めている。共和党陣営は2016年で勝利したものの、中間選挙では敗北したミシガン州、ウィスコンシン州、ペンシルバニア州を重点州と見ており、豊富な資金で集めたビッグデータを独自のアルゴリズムで分析し、民主党を切り崩すターゲッタブル選挙を繰り広げる予定だ。
 トランプ大統領は着々と再選への道を歩んでいると言えよう。

註 スーパーPAC (Super Political Action Committee) 特別政治行動委員会
米国では企業や団体の直接献金が禁止されていたため、政治献金の受け皿となるPACが選挙運動の資金を調達してきたが、2010年以降、事実上献金の上限がなくなり、「スーパーPAC」と呼ばれるようになった。これによって対立候補へのネガティブTVキャンペーンなどに巨額の資金が使われるようになり、問題視されている。