関口 宏
♫ウィスキーーがお好きでしょッ♫
なんて歌声が聞こえてくると、つい「好きだよ!」と返したくなる私なのですが、ウイスキーにそれほど詳しいわけではありません。
学生時代、徳用サイズの安い大瓶を手に入れ、コーラで割った「コークハイ」でひたすら酔っぱらう訓練をした日々。その後「水割り」「ハイボール」「オンザロック」と、人並みに嗜んではきましたが、ウイスキーの『ブレンド』の何たるかなど気にもせず、ただただ良い気分を求め続けて来たのです。
それが先日、呑み仲間に誘われるまま、「山崎蒸溜所」(新幹線で京都から大阪に向かうと、右手に見えるあそこです)に行くことになりました。
そこでお目にかかった名誉チーフブレンダーの輿水さん(日本酒の杜氏のような立場で、サントリーウイスキーを仕切ってこられた方)にお話を伺うことができました。
「“まっさん”もここにおられたんですよ」と言われて「ああ・・・・そうでしたか」とNHKのテレビ小説を思い出しました。
そして数種の原酒の試飲、水で割っての変化、ブレンドの妙味等、ウイスキーの奥深さ、面白さを教えていただきました。
そのお話の中で、私が最も惹かれたのは・・・
「ウイスキーの原酒つくりは、常にすべての出来が良いわけではないのですよ」
「へぇー」
「たまに出来の悪いものが出てくることもありましてね」
「へぇー、で、そいつはどうなさるんですか?捨てちゃうんですか?」
「いえいえ、それはそれで大切にとっておいて、出来の良いものに僅かばかり混ぜてやるのですよ。」
「へぇー!」
「すると、出来の良いものが更に良くなって、絶妙な味になるのです」
「へぇー!へぇー!へぇー!」・・・・・とこんな感じだったでしょうか。
以前、「香水」でも同じような話しを聞いたことがあるのを思い出しました。
「香水」も最後の最後で、ひとが嫌がるような匂い物質(例えば動物臭のようなもの)を少量混ぜることによって高級感を醸し出すのだそうです。
そしてもうひとつ、最近、北海道大学が発表した「怠けアリの理論」。
蟻の集団をよーく観察していると、必ず2割程度の蟻がなまけているそうで、その2割の怠け者を取り除くと、残りの集団からまた2割の怠け者が現れるという、簡単に言ってしまえばそういうことなのですが、これは昔から、仕事をしない社員を抱える組織の笑い話として、信憑性はともかく、面白可笑しく語られてはいたのです。
それを動物生態学の長谷川准教授のグループが立証してみせたわけですが、研究はさらに奥深いもののようで、その2割の存在価値は決して無駄なものではなく、その集団に緊急事態が発生した時(例えば巣穴が病原菌にやられそうになるなど・・・・・)、俄然、怠け者達が働き出すのだそうです。
専門的にはもっと深い理論なのでしょうが、聞きかじった者にも興味の尽きない話です。
「自然界に無駄なものなし」「自然は多様を好む」
やっぱりそうなんですね。一見、仕事をしていなさそうに見える人にも、なにか「働きどころ」があるのでしょう。
しかしややもすると、人は異質なものを受け入れない方向に走りがちです。
アメリカの大統領選挙にしても、ヨーロッパの難民問題にしても、またヘイトスピーチにもその傾向を感じます。
そして毎度登場の我が業界。
「同じような番組ばかりで、つまらん!」と視聴者のお叱りが聞こえて来そうで申し訳ないのですが、テレビには今のテレビの複雑な事情(視聴率、サラリーマン組織、プロダクション行政、スポンサーの意向等々)が絡み合っての事なのですが、結果的には同じようなものばかりになってしまい、「多様性」を失いかねない状況に陥っています。
そして7月には参議院議員選挙が控えています。
そこではメディアの「政治的平等性」が強く求められる事でしょう。
それはそれで大切なことではありますが、一方では、どこでも同じような話しばかりという、メディアにとっても大切な「多様性」が失われることにならないかの心配が始まっています。
テレビ屋 関口 宏