ポケモンGOとIoT、そこに宿るローカル性

Kazu Shimura

Kazu Shimura

志村一隆

 7月22日金曜、ポケモンGOが日本で始まったその日、自分が目にしたことを記録しておこう。午後、新宿の花園神社や歌舞伎町界隈を歩いてみると、ちょうどスレ違った小学生らしき2人の男の子たちが「新宿はズバット(ポケモンに出てくるモンスターの名前)だらけだな」と話している。夕方、紀伊国屋の地下のカレー屋に入ると、女性2人がスマホを見せあいながら、自分が捕まえたモンスターの話をしてる。東京駅では「スマホのゲームをやりながら歩かないでください」というアナウンスをしていた。帰宅後、近所の千葉公園や千葉県護国神社に行くと、普段の夜では考えられないくらいの人がいた。高校生や大学生、留学生のグループや、それにカップルで来てる人。田舎はスポットが離れているので、自転車を使っている。

 

ポケモンGOの仕組み

 

Pokemon go

 

 ポケモンGOはスマホの地図を見ながら、リアルに外を歩き回ってモンスターを捕まえたり、陣取りをするゲームである。小学生の頃、「紙」の地図を見ながらコンパスとか定規を使って森の中のスポットを巡る「オリエンテーリング」という遊びがあったが、ポケモンGOは、そんな宝探しと陣取りを「スマホ」でやったらどうなるの?というゲームだ。

 ポケモンGOのスポットやモンスターや陣地は「スマホ」の地図に出てくるだけで、ゲームをやっていない人には、何も見えない。モンスターの発生場所も常時変化している。それに釣られて、朝も早よから深夜まで、老若男女が徘徊するわけである。

 普段と変わらない公園や神社に、突然たくさんの人が徘徊する。ポケモンGOを知らない人にとっては不思議な光景だろう。自分は、ゾンビが廃墟に大量発生する米国のドラマ「ウォーキングデッド」を思い出してしまった。

 

ご利益もないのになぜゲームをやるのか

 

ポケモンGO ピカチュウ

 

 でも、イイ大人を含めなんでこれほどポケモンGOに熱狂するのか。ご利益もなく食欲も満たされないのに、モチベーションが維持されるのは、平和な証拠か。みんながやってるからやってるってだけだろうか。人間はそんな意志のないゾンビみたいになっちゃったのだろうか。

 米国ワイヤード誌の編集者だったフランク・ローズ氏の著書「のめりこませる技術- 誰が物語を操るのか」に、「予測不可能な見返り以上に報酬を求める心を刺激するものはない」とある。「動物の学習機能は”今度はうまくいくかもしれない”という可能性により導かれ」るそうだ。それこそが、探餌本能を刺激するという。

 常に変化するモンスターの出現場所や、次は勝てるかもしれないと挑むモンスター同士を戦わせる場など、ポケモンGOにはこうしたドーパミンが放出され続ける仕掛けがテンコ盛りだ。普通の人間なら、普通にのめり込んでしまうのだろう。

 それにちょっとした新しさも組み込まれている。外を歩くとスマホの地図上の分身も同じように移動したり、AR(拡張現実)機能も付いている。リアルとデジタルが混じった感覚がとても未来的。スクリーンを飛び超える空間的広がりがこのゲームの表現の特徴である。

 

Internet of ThingsとしてのポケモンGO

 

ポケモンGO ヒトデマン

 

 あらゆる機器がインターネットで繋がるIoT(Internet of Things)の世界は、デジタル空間でリアルな出来事がそのまま再現される。ポケモンGOは、そんなIoTを気軽に経験できるゲームとして位置付けられる。ポケモンGOを応用すれば、地域のゆるキャラを集める「ゆるキャラGO」とか、四国お遍路の八十八ヶ所お札を集めるとか、奥の細道のような歴史モノとか。「GO」特区を作り、その街全体でモンスター探しをするとか、そんなことがスグ思い浮かぶ。街角の屋外看板(デジタルサイネージ)をスポットにして、その場所に行けば、ポイントがもらえる仕組みとか。

 こうした発想には、場所に紐付いたローカル性や小さなコミュニティといったキーワードが自ずから宿っている。ポケモンGOは地元で遊んでも楽しい。マスメディアは同じ情報を遠い場所に運んだが、スマホのスクリーンはローカルな情報を映し出す方が得意だ。

 このゲームのおかげで、近所の人通りが増えて「こんな人いたんだ」と顔がわかったし、「ポケモンGOやってるの?」と話しかけられる共通の話題が持てた。ポケモンGOのような仕組みは、都会より田舎のコミュニティの方が相性がいいのかもしれない。

 「フラット化される社会」という言葉が示すように、インターネットは効率性・便利さの追求で発展し、IoTもその文脈上にある。しかし、人間にはフワっとしたローカルな空気感も必要だろう。フラット化されるものとされないものを楽しめるポケモンGOは、これからの未来を先取りしている。

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(その後:千葉公園でのモンスター出現日記)

8月2日:ピカチュウはすっかり出なくなってしまった。その代わりというか、スリープ、カイリウを大賀蓮近くで捕獲。
8月8日:アーボ、ヒトデマン、フシギダネ、ナゾノハナを捕獲。綿打池の中にコイキングが表示されるようになったw
8月9日:コダック、アーボ、コイキング、オニスズメ、コラッコなど、自然に多いキャラを捕獲。特に、アーボ多数。プレイする人数は少し減った。
8月11日:大賀蓮でコダック、コイキング。ラッコでピーピ、スピアーに遭遇。アーボ、ポッポ、コラッコ多数。プレイ人数多し。
9月2日:綿打池周辺ではコダック、コイキング、コラッコ、ポッポ。遊技具がある辺りでアーボが特に増えた。レアキャラは見かけず。プレイ人数は相変わらず。荒木山前の照明灯に多い。
9月18日:出現キャラは相変わらず。人数もだいぶ減ってきた。ポケジムに参加する人も結構固定化している。松波郵便局付近でもモンスターが出るようになった。

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