政界は人材不足なのか、人事が問題なのか

M. Kimiwada

M. Kimiwada

君和田 正夫

 社長業をしている時の話です。ある有名企業の会長から電話をいただきました。「親戚の子どもが受験するのでよろしくお願いしたい」。有力スポンサーの企業であり、会長もよく存じ上げている方でしたので、慎重な対応が求めらる場面でした。

 社長になってからずっと考えてきたことがあったので、それをお伝えしました。

 「会長も体験されておいでだろうと思いますが、いわゆる縁故採用をしていることが外部に伝わると、スポンサー企業などから採用要請が増える恐れがあり、断れなくなります。それは結果として社員の士気に影響しますし、企業の体力を落とすことになります」。

 分かっていただけそうなお人柄の会長でしたので、はっきり申し上げました。ただし、次のようなことも言い添えました。「弊社も優秀な人材が欲しいので、縁故と言うだけでお断りするつもりはありません。まず、面接まで残るように頑張れ、と言ってください。面接に残れば複数の受験生の中で、甲乙つけがたい、と迷った時に選ばせていただく、という選択肢が出てきます」。

 

「お仲間人事」の排除には透明性を

 

 結局、受験生は落ちました。テレビ局は縁故採用やコネ入社が多い、と新聞社時代から聞いていました。テレビが創業間もない時期は、許認可権を握る政治家からの推薦入社も多かったそうです。その後も広告代理店の子弟などを優先的に採用した時期もありました。

 そうしたことが背景にあって、お断りのセリフを考えていたのですが、もう一つ、採用に厳しく臨もう、と考えた理由があります。初めての社長経験だったからです。「社長の仕事って何だろう」と自問自答を繰り返していました。IT化に伴うテレビの将来像、そのための投資など重要なテーマはたくさんありましたが、「人事がすべて」という結論に達しました。

 人事については多くの人が立派なことを書かれたり話されたりしていますが、分かりやすいのは「してはいけないこと」「避けたほうがいいこと」です。「縁故(コネ)入社」「お仲間・お友達人事・好き嫌い人事」「地縁・血縁人事」などなどです。それを避ける効果的な方法は透明性を高めることだ、ということも分かりました。多くの企業がこの点には気を付けているので、コネ入社などは少なくなったと聞きますが、気を緩めると、同郷とか同じ学校とか、かつての部下とかを重用する動きがすぐ顔を出し、不透明感を増すものです。

 

「気に入った人」「従順な人」

 

 国だって同じでしょう。人事の原則は、企業だけのものではなく、すべての組織に当てはまる、と言っていいでしょう。公的な色彩が強まるほど透明性が求められるはずですが、最近の米国と日本の政権人事を見ると、無残なものに思えてなりません。「適材適所」というよりも大統領や首相が気に入った人や逆らわない人などが優先されているように見えます。

 日本の場合は金田勝年法務大臣や稲田朋美防衛大臣が典型例でしょうか。金田法相は「共謀罪」「テロ等準備罪」という日本の将来を左右する問題の担当大臣であるにもかかわらず、十分に国会審議に答えることができません。長い間議員をしているけれど大臣を経験していないので在庫一掃の人事ではないか、とも言われています。稲田防衛相も南スーダンの「戦闘」を巡る答弁などは「子どもの答弁」の域を出ません。こちらも安倍首相の「お気に入り人事」と言われています。そう言えば前NHK会長人事も奇妙な人事でした。どうしてこのような人事が行われるのでしょう。

 ある政界通と言われる人に聞いてみました。答は簡単で「人材の層が薄くなっているから」でした。どうして人材不足になっているのでしょう。

 「いい内閣を作る」ことは、国の経営者である安倍首相の仕事です。しかしそのための人材を国会に送り込むことは、私たち「国民」の責任です。私たちが責任を果たしていないから、おかしな国会議員が生まれ、おかしな大臣が誕生する、というのも一理あります。でもそれだけでしょうか。

 

政権交代しても「世襲議員が首相」の不思議

 

 先ほど「してはいけない人事」「避けたい人事」に「地縁・血縁」も入れましたが、政治家の「世襲」はその代表例です。

 歴代の首相を思い浮かべてみましょう。平成になって29年間で16人の首相が誕生していますが、半分の8人が二世あるいはそれ以上の世襲です。古い順で宮澤喜一氏、羽田孜氏、小渕恵三氏、小泉純一郎氏、安部晋三氏(一回目)、福田康夫氏、麻生太郎氏、鳩山由紀夫氏、そして現在の安倍首相は二回目です。(人数は内閣が二次、三次まで続いても一人とした)

 残りの8人のうち自民党が政権を失った時代の村山富一氏、管直人氏、野田佳彦氏の3人は世襲ではありませんでした。

 私ががっかりしたのは民主党(当時)が政権を獲って(2009年)最初の首相に鳩山氏がなったことです。せっかく新しい政治を始めようという時に、なぜ世襲の首相なのか、と思ったものです。世襲と言っても鳩山一族は別格の世襲です。19世紀末に衆議院議長を務めた和夫氏、その息子で総理大臣になった一郎氏。その一郎氏の息子で外務大臣を務めた威一郎氏。由紀夫氏はその威一郎氏の息子です。四代も続く世襲一家なのです。現在の政治家で鳩山家に並ぶ名門は竹内綱・吉田茂の一族、麻生太郎氏くらいです。政権が変わったら政治が変わる、と多くの人は期待したのでしょうが、残念ながら、政治が「家業」のようになってしまっては無理な期待と言っていいでしょう。

 現内閣の中枢も世襲の議員が占めています。副総理・財務大臣の麻生氏、外務大臣の岸田文夫氏、厚生労働大臣の塩崎泰久氏らです。石原伸晃内閣府特命担当大臣、加藤勝信内閣府特命大臣そして副大臣クラスになると、安倍首相の弟、橋本竜太郎氏の息子などが控えていて、「世襲」の継続には困らないようです。

 「世襲議員」は長い間問題視されているのに手を打たれていない問題です。もっと幅広く人材を求める制度・仕組みを考えないと人材はさらに枯渇していくでしょう。