丸の内は「ただいま進化中」

M.Hiramoto

M.Hiramoto

平本 真樹

 私が働く、東京駅と皇居にはさまれた大丸有(だいまるゆう)エリア、大手町・丸の内・有楽町の地域の総称ですが、このエリアにどんなイメージをお持ちでしょうか。ビル街、ビジネス、サラリーマン、おしゃれ、整然としている、堅苦しい、ちょっと古くさい…。

 では街を歩いてみましょう。12月のこの時期は、丸の内仲通りがイルミネーションできらめき、丸ビル1Fでは、フィギュアスケートの羽生結弦選手とコラボしたアイススケート場が出現。毎週金曜日は、東京駅と皇居をつなぐ行幸通りの地下通路では、マルシェが開かれています。働きに行く街だけでなく、楽しみに行く街、という個性が、ますます増えていることに驚かされるでしょう。

 街歩きでは見えない変化も、進んでいます。楽しむ側が楽しませる側に回るプロジェクトが、働く人たちのコミュニティから生まれてきています。大丸有やその周辺地域で働く人たちが、仕事を持ちながら毎週決まった曜日の朝に、早起きして教室へ。会社も仕事内容も違うビジネスパーソンが、「同じ思い」で集まるコミュニティ。ニックネームで呼びあい、名刺交換なんてしたことない、なんて参加者も多いようです。

 この進化が、最近の大丸有エリアのキーワードになっており、活発な動きが出てきています。このような動きは、大丸有エリアの地権者・ビルオーナー、たとえば三菱地所、東京国際フォーラム、サンケイビルといった主体の努力もありますが、ビジネスパーソンの交流や創発をより促進するため、ビル・施設をより有機的に活用するための「まちづくり団体」の活躍が、不可欠になっています。
その具体的な事例を幾つかご紹介しましょう。

 

朝活のはしり「丸の内朝大学」

 

 丸の内朝大学。早起きして朝の時間を有効に使う「朝活」のはしりとしてすっかり定着した、ビジネスタウンのビジネスパーソン向け市民大学です。
もともとは、エコなライフスタイル推進の一つとして、自分磨きのために早寝・早起きすることで、楽しみながら夜のエネルギー消費を減らそう、という趣旨提案のもと、大丸有エリアの環境推進を手掛けるエコッツェリア協会がプロデュースして2009年春からスタートしました。

 春、夏、秋の3学期開講され、基本は各学期に7~8回の朝、出勤前の時間の講座に通います。学費(1学期、標準で3万~4万円台)は参加者が払います。各講座は、参加者が学期が終わっても大丸有でコミュニティ活動が定着していくことを狙い、各講座を主催する企業・団体と、朝大学全体の主催である丸の内朝大学企画委員会が企画を練り上げて実施されます。

 関係者のこうした準備を背景に、参加したくなる、参加して楽しい、終わった後も継続して活動していきたい、そんな思いを、参加者と講座主催者がともにつくりあげていく活動になっています。当初はエコッツェリア(新丸ビル10F…現在は閉鎖)で週5回=5講座実施されていましたが、朝活に参加したいというビジネスパーソンの声が大きくなってきたため、エリア内の会議室やカフェ・レストラン、コミュニティルーム等に協力を依頼し、ニッポン放送イマジンスタジオ、皇居外苑・楠公レストハウス等、キャンパスが増えていきました。ちなみに2015年秋学期は、11キャンパス、30クラスが開講されました。

 1クラスの参加者は最大40名程度となっています。一方的に講師が生徒に教えるだけでなく、学びながら一緒に成長し、一緒に新しい企画をつくるメンバーになっていくことを目指しており、顔が見える関係がつくれる規模感を大事にしたいからです。

 講座の内容も変化を見せてきました。2009年春からスタートして7年目に入った市民大学は、ヨガや書道と言った自分磨きのコースや、歌舞伎、日本酒など日本文化を体感するコース、さらには、地域の課題を解決するため地元視点の専門家を養成する地域プロデューサークラスや、キリン株式会社との連携による東北復興を支援する「農業復興プロデューサーカリキュラム」等が実施されています。

朝大学・復興

東北と東京の人材がチームを組んで、地域課題を解決していく

 

 海や山、カキやカニ、能登の塩づくり、輪島塗など、名勝・名産は色々とありながら、2015年の北陸新幹線開通や、能登空港の搭乗率保証(航空会社と地元が航空便を維持するために目標を定め、目標に向けた利用促進の努力等を行うことを謳った制度)等、課題も多い石川・能登エリアの課題を、自分だったらどんなコンテンツで能登に足を運ぶか、という目線で企画・提案する内容でした。観光客が、オプションツアーに参加するのでは飽き足らず、行きたい観光プランを、地元の人たちと一緒につくっちゃおう! というイメージですね。

 8回の座学の途中で、フィールドワークがあります。これは、クラスで学んだ地元の課題を、実際に自分たちで体感し、課題解決の企画を机上のものに終わらせないようにするためのものです。でも、それだけじゃなく、1泊で行って地元の方々と語り、飲んで、本音で交流し、課題をより自分ごとにする点も重要視しています。それを、ビジネススクールの研修のように堅苦しくせず、「オトナの修学旅行」のノリも、丸の内朝大学が大事にしているコンセプトです。石川県庁と朝大学事務局が、クラスが終わった後も双方にコミュニティを残し、思いを行き来させる交流が続くようにと頭をひねって、企画のプログラム化を進めてきました。真剣かつざっくばらんな地元の方々と東京の朝大学生のつながりが、「奥能登酒蔵学校」「輪島塗おもてなしバトン」などのコミュニティプロジェクトを生み出しました。

 

「大丸有」とローカルが結びつく

 

 大丸有から生み出されたプロジェクト、奥能登酒蔵学校を、もう少しみてみましょう。

 クラスが実施された翌年の2014年4月から、奥能登の酒造メーカー6社と受講生が協働して全10回で行われた企画です。東京では能登の日本酒の造りや文化・歴史などの座学を6回。能登では、酒蔵見学に始まり、酒米の稲刈り体験など4回の授業を受けました。20~30人の参加者たちは酒蔵を通じて能登の人や文化に愛着を持ち、酒蔵側は単なる消費者ではなく、造り手の思いを共感し、課題を一緒に考えてくれる人を得ることになりました。数量だけからすれば、日本酒の売り上げも、現地の観光消費も大したことはないかもしれませんが、一過性でない関係ができ、今でもメンバーで参加者を募って能登に旅行に訪れたり、能登の関係者が東京へ来る際には、情報交換や懇親会の開催も行われ、「能登は第2のふるさと」と語る参加者もいるほどです。

 こんな関係は、朝大学と青森でも。2015年から始まったシズル・クリエイタークラスは、プロのカメラマンから「シズル感」ある写真の撮り方や、コピーのつけ方を学ぶもの。しかし、通常はシズルとは、「おいしそうな」「そそられる」飲食関係のブツを撮影するのに使いますが、このクラスは、行った先の光景や人を、自分なりの視点で魅力を発掘し、自分らしいシズル感で撮ってみよう、というもの。青森駅周辺の中心市街地の活性化に取り組む青森商工会議所のサポートで、現地の観光案内には載らない路地やお店を訪ね、東京人視点での青森市街の魅力を、それぞれの視点で撮影し、WEBサイトにアップ。写真を厳選して青森を紹介するフリーペーパーとして、東京や青森で配布されました。WEBサイトは、クラス終了後に有志で青森を訪れたりしているメンバーからもアップが続き、ロングテールな情報発信活動になっています。
シズル・クリエイタークラス〜地域の魅力を発信!-青森編-〜

 さらに青森クラスでは、8月のねぶたまつりに大挙して青森を訪れ、ねぶたの踊り手「跳人」(はねと)として参加させてもらうなどのサプライズも! 加えて9月下旬に東京で実施された旅の祭典「ツーリズムEXPOジャパン」の丸の内レセプションでは、新作のねぶたが登場し、運営する青森県側から朝大学の青森関係のクラス参加者にも跳人のお声がかかり、20名近くが、プロの跳人のみなさんにまじって、丸の内の行幸通りを跳ねていました。

丸の内で行われた青森ねぶたに朝大学生も笑顔で参加

丸の内で行われた青森ねぶたに朝大学生も笑顔で参加

 

 このクラスは参加者だけでなく講師からも好評で、2015年秋は、熊本編のクラスも開講されています。熊本市街でのフィールドワークは11月27日、28日に開催されます。食・観光・人……どんな魅力が掘り起こされるのでしょうか。
シズル・クリエイタークラス〜地域の魅力を発信!-熊本編-〜

 

企業を越え、地域を越え、新たなコミュニティーへ

 

 このように朝大学は、企業人ながらも企業の属性を見せないで参加する、大丸有のコミュニティ活動です。一方で、企業人が連携して社会課題を解決するようなプロジェクトやビジネスを生み出そう、と取り組む動きもあります。例えば、CSV経営サロンがそれです。CSVは Creating Shared Value(共通価値の創造)の意味です。
CSV経営サロン(エコッツェリア協会イベント)

CSV経営サロン

CSV経営サロン

 現代は、なかなか1企業で継続性ある新事業の開発・実行が難しい時代です。様々な企業や人・コミュニティと話をしてきましたが、オープンイノベーションといった掛け声はいいものの、どんなテーマを、どんな部署、どんな人材が手掛ければいいか、方程式もない時代と肌で感じています。

 先ほどの丸の内朝大学をプロデュースしていた「エコッツェリア協会」は、一方で大丸有エリアの環境まちづくりを推進する一般社団法人です。環境・経済・社会の鼎立や、企業と社会のサステナビリティ(持続可能性)を高める趣旨に共感する企業が会員となり、エネルギー問題や省資源等を、それぞれの企業が得意とする分野を持ち寄りながら情報交換、研究開発を進めています。ちなみに、エコッツェリアとは、エコをつくる場、という造語。まさに、企業がエコな未来をつくるために集う拠点やシーンを表現しています。

 上記のCSV経営サロンでは、個別で企業が蓄積したこれまでの知見を活かすため、エコッツェリア協会の会員企業が集い、事例を学びながら組織論、人材育成論を共有し、顧客、ビジネスパートナー、地域社会、自然社会などとともに意味ある価値を創出する研究会を行っています。CSV経営サロンでは、企業同士の連携の仕方、企業と地域自治体・NPOとの連携の仕方、そうしたオープンイノベーションでのアイデアの作り方、企業内でのプロデューサー人材の作り方等を、先進事例や、取組みながら課題にぶつかっている事例をシェアしながら、次なる一手を模索する情報交換やワークショップが行われています。

 この流れをさらに推進するため、東京の大企業だけでなく、地方の中小企業や自治体、NPO等がコラボレーションしながら、CSVビジネスを創発し、価値を関わる企業、地域等でシェアしていくための「場」が、2016年4月に大手町の一角に登場します。その名は「3×3 Lab Future」(さんさんらぼふゅーちゃー)。経済・社会・環境という3つのギアがかみ合いながら未来の価値を生み出していく3rdプレイス。単なる貸し会議室・貸しホールでも、シェアオフィスでも、コワーキングスペースでもなく、社会のさまざまなレイヤー(重層的・階層的)な主体がコミュニティを形成して、企業の持つ良さを活かしながら都市や地方の社会課題を解決する。そんな拠点も、集う人のアイデアと気持ちが集まってこそ、意義が高まっていきます。大丸有の企業、ビジネスパーソンだけでなく、社会課題の解決アイデアをどんどん提案していきたい企業・人たちにも、ウェルカムな活動を増やしていく予定です。

 

次世代につなげたい「大丸有」の挑戦

 

 4000事業所、就業者23万人が集う大丸有にはもちろん、丸の内朝大学や、CSV経営サロン、3×3 Lab Futureだけでなく、各所で新時代のヒントが生まれ、動いています。東京オリンピック・パラリンピックに向けて、という視点だけでなく、自分の子ども世代、孫世代に受け渡したい都市、働き方、ビジネスを作り出していく。

 地方創生や、新産業創出等、日本全体での課題を、個別で解決していくだけでなく、都市が持つネットワーク力とコミュニティ力で取り組んでいく。打てば響くような、参加すると参加した以上の価値が発掘されるような街に、丸の内はいま、進化しつつあります。あなたの気持ちとアイデアを、丸の内にぶつけてみませんか?