米国メディアの再編と中国テクノロジーのメディアへの影響

ディズニー アイガーCEO 2009

志村一隆

 ディズニーがFOXを524億ドルで買収するそうです。ディズニーの2016年度売上は551億ドル。21世紀FOXの売上は285億ドル。この買収で、彼らはFOXの映画スタジオ、有料ケーブルチャンネル、衛星放送のSky、テレビ番組の配給会社Endemolなどを得ることになります。地上波テレビ局は規制があるため、その対象から外れます。

 ディズニーは2009年にアヴェンジャーズやスパイダーマンの権利を持っているMarvel、2012年にはルーカス・フィルム(スター・ウォーズ)を買収しています。メディア市場の投資対象は、こうしたコンテンツの権利を持った企業となっています。というのも、映画であれゲームであれ、人気コンテンツの権利を持っていれば、その時代にあったメディアに合わせたビジネスが展開できます。ゼロからコンテンツをクリエイティブするよりも、人気コンテンツを新しいテクノロジーで料理する方がリスクが少ないのでしょう。特に、米国コンテンツは世界で一番競争力がありますから、こうしたディズニーの買収戦略はとても理に適っていると言えます。

 インターネットが登場した1990年代半ば以降、広告ビジネスやコンテンツ流通、それに情報発信や受信への消費者の行動が変容しました。とくに、米国のメディア市場は、2008年のリーマンショック以降、インフラや流通といった下位レイヤーの企業がコンテンツなどの上位レイヤーに進出しようとする動きが目立ちます。たとえば、2011年ケーブルテレビ会社コムキャストがNBCユニバーサルを買収しました。また、通信会社AT&Tは、2015年衛星放送DIRECTVを買収しています。AT&Tは、さらにタイム・ワーナーの買収も画策しています。

 ケーブルテレビや通信会社といった市場の下位レイヤー企業は、ダムパイプと呼ばれ、その収益性・成長性に限界が来ていました。次なる成長に必要なピースとして、コンテンツやメディア企業を考えたのでしょう。コンテンツとインフラを統合する垂直統合する戦略です。これは、考えてみれば、日本のテレビ局と同じ戦略です。

 さて、ディズニーは、2018年には傘下のスポーツチャンネルESPNのネット有料配信を開始します。(そのために、2016年にBAM Techという企業を買収したことは、2016年8月号で書きました。コチラを参照)FOXが保有する米国ローカルスポーツの権利と合わせれば、米国スポーツ配信のトッププレイヤーになるでしょう。そもそも、ディズニーの収益の半分は、スポーツケーブルチャンネルESPNによるもの。そのコンテンツをネット配信に移行しても、ビジネスは成立するのではないでしょうか。

 また、2019年には、映画やドラマを含めた独自のネット配信プラットフォームを立ち上げ、Netflixから自社コンテンツを引き上げると言われています。ディズニーは、昔から自社コンテンツを体験させるプラットフォームは独自なものにこだわります。その最たるものがディズニーランドですが、デジタル時代も、子ども向けのソーシャルサイト「Club Penguin」や英国で始めた「Disney Life」、Appleとやっていた「KeyChest」などなど。他のハリウッドスタジオとは違う独自路線を取りたがります。そのどれもが、上手くいってないのですが。。今回の動きもそうした歴史の背景があるのでしょうか。

 こうした米国メディアの合従連衡の動き。現代は社会が分断され、格差が広がる方向性にありますが、メディアも同じ動きをしているとみてもいいでしょう。ハリウッドスタジオを頂点とするメディアコングロマリットは、巨大化し、そのいっぽうで情報発信の手段も担い手も分散化される。ただ、巨大メディアがさらに大きくなったとしても、ビジネスモデルや情報発信の方法論がいまと同じでは生き残れるかはわかりません。

 無数のコンテンツを無数の人たちに、個人の嗜好に合わせて配信することをビジネスで成立させようとすれば、自動化するしかありません。このパーソナライズ分野は中国が強い。中国の「今日頭条」は、個人の好みのニュースをアルゴリズムで集めて配信するサービスですが、2012年に設立後、いままでで31億ドルの投資を集めています。

 「想像の共同体」を作ってきたマスメディア。そのお手本は米国でした。インターネット以降よく語られる分散化、分断、パーソナライズといった概念は、そうした大きな共同体を壊していくでしょう。そして、これからの、新たなテクノロジー時代のメディアの姿は、中国から生まれるのかもしれません。