君和田 正夫
「花見酒の経済」(笠信太郎)を読み返す必要のある時代に入っているのでしょうか。義父からもらった古書を読み返しました。昭和37年(1962年)発行とありますから、半世紀も前、私が大学生のころに書かれたものです。その一部を紹介します。
売ろうと思ったら酒がなかった
昭和30年代の地価高騰と通貨・金融の関係がテーマになっています。「花見酒」というのはある年齢以上の人には懐かしい言葉だろうと思いますが、若い人にはなじみが薄いかもしれません。落語の噺(はなし)です。
酒好きの二人が花見に行くことになったのですが、花見につきものの酒を買うお金がない。そこで花見客にコップ一杯の酒を10銭で売って、儲けながら花見をしようというムシのいいことを考えました。酒屋と掛け合って酒と20銭銀貨用の釣銭10銭を借りました。ここまではいいのですが、花見会場に行く途中で我慢できなくなった一人が釣銭用の10銭を相方に払って一杯買って飲んでしまった。これがつまずきの始まりです。10銭をもらった相方も、では俺もと、もらった10銭を相方に払って一杯。こうなると、もう止まらない。「一杯」を代わる代わる繰り返しために、花見会場に着いて売ろうとしたら、灘生一本の酒樽は空になってしまっていた、という噺です。
この「釣銭」「ふいご」に代わる現代の役者は、赤字国債とそれを大量に引き受けている日本銀行ではないか、と思えてなりません。
日本の国債発行残高は現在、1000兆円規模です。国民一人当たりにすると借金は700万~ 800万円に当たりります。「いや赤字国債は国民にとって借金ではない、資産だ」という議論も行われています。資産だとすれば、どんどん増えてもらいたい、と思いますが、いずれ我々の税金で返さなければいけないわけですから、財政の健全化というような難しいことを言わなくても、減らした方がいいことは、はっきりしています。
半分に迫る日銀の赤字国債保有高
誰が国債を買っているのでしょう。日銀が政府から直接買うことは、直接引き受けと言って財政法で禁じられています。そこで日銀は市場を通して買うことになります。民間の金融機関などが持っている国債を買い続けた結果、17年度末の保有額は416兆円にも達しています。発行残高の半分に迫る勢いです。2013年から始まった金融緩和政策で利回りが大幅に低下したため、民間銀行から見れば、国債は魅力ある商品でなくなりました。やむなく日銀が前面に出て買う、という状況が続いています。
2018年度(平成30年度)予算を見てみましょう。予算はざっと100兆円です。6年連続で過去最大になりました。その予算の国債依存度は34.5%。三分の一が赤字国債で賄われているのです。先進国の中では最悪と言っていい水準です。
直接引き受けを認めないのは、財源補てんとして使われて、財政の健全性が損なわれる恐れがあるからです。あくまでも金融政策としての日銀引き受け、ということになりますが、禁止されているはずの直接引き受けとどこが違うのか、という声が聞こえそうです。
「国家財政の75%が軍事費」という時代
抑制の利かなくなった軍事費は膨れ上がりました。第二次世界大戦が始まった昭和16年以降の国家財政(一般会計)に占める軍事費の割合は次の通りです。
16年75.7%、17年77.2%、18年78.5%、19年85.5%、20年72.6%(帝国書院統計資料・歴史統計=大蔵省決算書)経済活動が停滞する中で、国家予算のおよそ4分の3が戦争に使用されたわけです。しかもその財源のほとんどを赤字国債で賄っていたのです。
現在の国防予算は5兆円、4年連続で過去最大の規模んあっています。予算100兆円の5%だからまだ少ない、という声が聞こえてきそうですが、防衛関係の予算は増え始めると抑えることが難しくなるのは、歴史が証明しているところです。米国からは「私が『巨額の貿易赤字は嫌だ』と言うと、日本はすごい量の防衛装備品を買うことになった」というトランプ大統領の記者会見も聞こえてきたばかりです。米国に“いい顔”ばかりしている結果と言っていいでしょう。財政規律が緩みっぱなしの日本、一強政治の日本では、抑え役がいなくなる恐れがあります。
財政再建と消費税
あちこちに笑顔を振りまくとバラマキ財政が待ち構えていて、必ず財源問題が起きてきます。2019年10月、今度は本当に消費税を上げることができるのでしょうか。現行の8%を10%に上げた分について、安倍首相は2017年の総選挙の前に、教育無償化など人づくりに多くを回すと明言しました。財政赤字の削減に回る分が少なくなります。財政再建はどうなるのでしょう。高齢化社会への対応、保育対策も大きな課題です。しきりに防衛費を増やしたがっているように見えますが、さらに増やすのでしょうか。補正予算に目立たないように滑り込ませたにしても財源には限りがあります。
「花見酒」の酔いが回る前に、財政政策を見直していいのではないかと考えます。