世襲議員に相性がいい小選挙区制

M. Kimiwada

M. Kimiwada

君和田 正夫

 安倍首相は9月28日、臨時国会の冒頭で衆議院の解散を表明しました。第三次安倍内閣が内閣改造を行ったのは前月の8月3日でした。「結果本位の仕事人内閣」と「国民に丁寧に説明する内閣」が触れ込みでしたが、その仕事師たちは国会が一回も開かれないうちに解散になったため、腕の見せどころがないまま、総選挙に突入することになりました。二か月に満たない「仕事人内閣」とは、なんとももったいない話です。

 

「仕事人内閣」は世襲議員が売り物?

 

 首相は記者会見(25日)で、選挙の争点として消費税の使途変更、北朝鮮への圧力などを挙げています。「大義なき解散」とか「森友・加計隠し」とかの批判が出ていますが、当然でしょう。消費税の使い道の変更で選挙をするのなら、10%への引き上げを見送った時こそ、国民の信を問うべきだったでしょう。支持率の回復や野党の混乱をチャンスととらえた、党利党略の選挙としか思えません。

 選挙の度、組閣の度に思うことがあります。政界の「人材不足」です。

 腕を振るえなかった「仕事人内閣」を見てみましょう。二世・三世依存が明快です。菅官房長官を除く19人の大臣のうち、なんと10人がいわゆる「世襲議員」でした。そのうち総理大臣を父親、祖父に持つ人は安倍首相を含めて3人です。解散前の肩書で見てみましょう。

  1. 安倍晋三首相はご存じの通り、華やかな政治家の家系です。母方の祖父は歴代の首相の中で56,57代首相を務めた岸信介氏です。信介氏の弟が61,62,63代首相の佐藤栄作氏。晋三氏の父親は外務大臣、通産大臣などを務めた安倍晋太郎氏。実弟の岸信夫氏も衆議院議員です。
  2. 麻生太郎副総理・財務、金融担当大臣も母方の祖父が、吉田茂氏(45、48~51代首相)です。第二次世界大戦後の混乱した時代でした。
  3. 鈴木俊一五輪担当の父親は70代首相の鈴木善幸氏。
  4. 河野太郎外務大臣の場合は父親の河野洋平氏が自民党総裁でしたが、総理大臣に就任しなかった初の総裁、ということになりました。祖父の一郎氏も建設大臣などを務めて“大物議員”と言われていました。

閣僚ではありませんが、自民党執行部でも竹下亘総務会長は竹下登元首相(74代)の異母兄弟です。

 

まるで家業のような政治家

 河野氏のように父親または祖父が大臣経験者という議員はぐんと増えます。野田聖子総務・女性活躍担当大臣の祖父は、大蔵次官、建設大臣などを歴任した野田卯一氏。

 河野氏のように父親または祖父が大臣経験者という議員はぐんと増えます。野田聖子総務・女性活躍担当大臣の祖父は、大蔵次官、建設大臣などを歴任した野田卯一氏。

 小此木八郎国家公安・防災担当大臣の父親は通産、建設大臣などを務めた彦三郎氏。祖父歌冶氏も衆院議員。「役人が書いた原稿を朗読する」と言ってひんしゅくを買った江崎鉄麿沖縄・北方・消費者担当大臣の父親は江崎真澄氏で、通産大臣、自治大臣、防衛庁長官などを歴任しました。梶山弘志地方創生・行政改革担当大臣の父親は自民党幹事長や法務大臣を務めた梶山静六氏。

 大臣でない議員にまで対象を広げれば、さらに増え、世襲議員がこんなに多くていいのか。と思わざるを得ません。まるで家業のようです。二代も三代も続く背景には、昔から地元の名家、旧家、地方財閥だった、という事情もあるでしょう。公職選挙に不可欠な要素としてよく言う「3バン」のうち地盤(地元の後援組織)と看板(知名度)は既に用意され、鞄(資金)もおのずから付いてくる、ということでしょうか。私は神奈川件で育ちましたが、以前から「河野王国」という言葉を知っていました。社会人になって最初の赴任地、山口県は岸・佐藤一族の天下でした。

 

地元の名家、権力者、財閥

 

 世襲議員を有利にしているもう一つの理由は1994年に導入された小選挙区制度でしょう。一つの選挙区ごとに一人の議員を選ぶ制度です。これによって政治に関わっていない人が「三バン」の候補者に勝つことは大変難しくなりました。少しくらい出来に問題があっても、世襲の有利さは、選挙制度によって担保されてしまっているように思えます。

 今度の総選挙ではまた世襲が幅を利かすでしょう。小泉進次郎氏が早くも何代か後の総理大臣などと言われていますが、御本人にとっても迷惑な話でしょうし、有権者を馬鹿にした話でもあります。親が引退を表明したと思ったら子供が後を継ぐ。「高齢者の死は最後の社会貢献」という皮肉めいた言葉を言った人がおりますが、こんな縮小再生産を続けていたら、日本の政治は地に堕ちるでしょう。

 小選挙区制度は死に票が多いなどの弊害が指摘されています。その点でもっと本格的に投票制度について議論し直すべきです。世襲についても併せて改革したら、選挙はもっと民意を反映したものになるでしょう。

安倍政権は「人材革命」をうたい文句にするならば、まず国会議員の人材育成に革命を起こすべきです。野党を含めてあまりに「自分ファースト」になっているとしか思えません。

小池都知事率いる「希望」は排除の論理が明白になってきました。安倍政権の「一強」に、もう一つ強権的な保守政党が生まれることになります。強権から多様性は生まれません。このような選挙を続けていけば、日本の政治は地に堕ちるでしょう。