健康過敏症

定期検診の待合室

関口 宏

 ぐわん!ぐわん!ぐわん!ぐわん!、ガッ!ガッ!ガッ!ガッ!、キーン!キーン!キーン!キーン!・・・・・・・

 

 手足を固定され、狭いカプセルの中に入れられ、ヘッドホンから工事現場さながらの大音量を1時間も聞かされて、「これは拷問だ!」と叫んだ人は私だけではないと思います。(勿論、担当の方は私のために一所懸命やって下さっているのですが・・・・)

 

 医者嫌いの私が、ここ数年仕方なく続けている定期検診。
採血に始まり様々なことを調べて頂くことに感謝しながらも、どうもこの「MRI」と呼ばれる腹部の検査には閉口しています。
手には非常用のボタンを持たされ、それを何度も「押してしまおうか」と思いながらも、押してしまえばそれまで。
そこまで我慢してきたデーターがパーになってしまうことを考えると、そんな愚挙にも出られず、悶絶の中の1時間を今年も経験してきました。

 

MRI

 

 それにしても最近の医学の進歩には驚くばかりです。
「オプジーボ」とか「キートルーダ」という驚異的な薬が開発され、20世紀には不治の病と思われていた「癌」も、21世紀、人類は克服してしまう勢いです。

 

 そしてそれに加えて一般人の健康への関心度も急激に高まっているような時代になりました。

 

 昔から、年寄りが集まると「孫の自慢」か「病気話」と言われてきましたが、特に「病気話」が始まると、糖尿・血圧・肝臓の数値から、血液サラサラ、コレステロールとキリがありません。
またテレビの影響でしょうか、「炭水化物の取り過ぎに気をつけよ」とか「先ずは、たっぷり野菜から食え」とか、「わたしゃウサギじゃないんだから・・・」と茶々を入れたくもなりますが、最近は皆さん、細かなことにも詳しくなっています。

 

 次には自分の飲んでいる「サプリメント」の効能に話が進み、「これは良いよ。お前もやってみろ」と勧められる。
私なんぞは、「サプリ」と「薬」の違いも良くわかっていないものですから、「良い」と言われれば、「やってみようか」ということになり、朝など、「サプリ」だけで腹が一杯になりそうです。

 

 

 それにしましても、テレビは勿論、新聞・雑誌・週刊誌。
「病気」「長生き」「老後」の記事満載のこの頃、それだけ高齢化社会になったことの証拠なのでしょうが、ちょっと、日本人全体が『健康過敏症』に陥ってやしないかと心配にもなるのです。
「なににはこれ」「あれにはこれ」「今なら通常の△%引き!」そんなCMが1日中流れています。

 

 それでも、医学の進歩と人々の高い関心度が、日本人の「寿命」を伸ばしていることと無関係ではないと思いながら、医者嫌いの私も拷問、いや大事な検査覚悟で定期検診を受けるようになったのですが、今回は「胃カメラ」も飲まされ、いや、飲ませていただき、終了と同時に映像を見せられながら、「キレイですよ。異常はありません。」と言われた時の、あの何とも言えない安堵感!。
病院の門を出るやいなや、プワーーッと一服したタバコの旨さはこたえられませんでした。(お医者さんからは止めるように言われてはいるのですが・・・・・)

 

 矢張り私も心のどこかで、「健康で長生きを望んでいるのだな」と改めて自覚したのですが・・・・・・・さて、健康で長生きして、そしてそこから「何を為すべきなのか?」。

 

 日々、世の中の混沌とした状態を見ながら時々浮かぶこの「問い」には、確たる答えも見つからぬもどかしさの中でプワーーッともう一服、どんよりとした梅雨空を眺めていました。

テレビ屋  関口 宏