Alphabetとトロント市のスマートシティ構想

志村一隆
 先日、京都へ行ったら駅前のタクシー乗り場に長い列ができていました。乗車場からスグの場所に信号があるので、タクシーがスムーズに流れないのです。やっと乗り込んだタクシーの運転手も「綺麗になったけど、机上の空論で作っとるんやろね」と言っていました。クルマだけでなく四条大橋も人が溢れていて前に進みません。京都の観光客といえば、修学旅行の学生さんというイメージはすでに無く、着物を着て桜をバックに自撮りをしている女性はほぼ外国の方でした。修学旅行生が年間180万人やって来るのに対して、海外からの旅行者は630万人。こんな時代がくるなんて誰も想像出来なかったのではないでしょうか。

 京都は想定以上の観光客でパンクしてますが、インターネットもこれから想定以上に利用人口が増えます。とある調査によると、この5年で新たに10億人増えるそうです。現在は世界人口の半分、30億人が利用していますが、もっと増えるのです。

 海賊版、フェイクニュース、サイバーテロなどなど、いまでも色々なことが起きていますが、さらに利用人口が増えたらどうなるのでしょうか。30億人のときの常識は、40億人でも常識であり続けるでしょうか。そんなことはないでしょう。新たなテクノロジーがどんどん生まれる環境では、現状を念頭において、未来を考えると見誤ってしまいます。それよりも、頭をまっさらにしてゼロから考えたほうがワクワクできるでしょう。

グーグルとトロントのスマートシティ構想

 そんな意味で、自分がいま一番面白そうと思っているのは、グーグル(Alphabet)がやっているスマートシティ作りです。彼らは「Sidewalk Labs」という会社を作り、カナダのトロント市と提携、港湾地区の一部をIoTを駆使したスマートシティとして再開発するそうです。

 Alphabetは、自動運転車のメーカー「Waymo」を持っていますし、人工知能プラットフォーム「Google Assistant」もあります。Google Assistantをクルマや家電メーカーに提供したり、Google Homeというスマートスピーカーを出したりしていますが、そんな個別の話でなく、街全体をゼロから作ってみようという話です。

 現状、スマートシティの骨格は、自動運転車の移動手段(モビリティ)とエネルギー供給(エナジーグリッド)でしょう。近未来は、車同士がネットを通じてコミュニケーションを取ります。そうすると、信号や車線なんてものは要らなくなるかもしれません。要はお互いぶつからなければいいわけですから、センサーがクルマについていればいいわけです。そうすれば、京都駅前のような混雑も減るでしょう。

 それに、クルマは常に街なかをぐるぐる廻っていて、必要なときに利用できるようになります。誰も乗らないクルマを長時間駐車させておくことはなく、常に誰かが乗っている状態です。トロントのスマートシティ計画のWaterflont TrontのPina Mallozzi氏は、「大規模な駐車場は要らなくなる。クルマは常に誰かを乗せて稼働している状態だから」と言っています。クルマは常に道路で人や荷物を乗せて仕事をしているので、駐車場を作る必要がないのです。

 自転車もレジャー以外には使わなくなるのではないかもしれません。自動車と自転車を、同じ道路上で共存させる苦労もなくなります。新聞に「2037年までに大阪市が御堂筋を完全歩道化する」という記事が載ってました。歩行者、自転車、自動車のいずれを優先するか?いまは、その選択にならざるを得ないのでしょうが、スマートシティになれば、そんな選択をしなくてもいいかもしれません。

共存と軋轢と

 我々は既存のサービスと新しいテクノロジーが共存し、ときに軋轢を引き起こす環境で生きています。東京のタクシーは小銭を気にせずカードで支払えますが、京都のタクシーはまだ現金のみ。コンビニはカードで支払えますが、こだわりのお店は現金のみだったり。ある世代はFAXをまだ使い、メールを消せば紙のように無くなると思っていたり。

 世代、住んでいる場所、貧富によって、普段使っているテクノロジーとサービスが違っていて、それが各々のコミュニティ間の断絶を引き起こしています。まさに時代の変わり目なのです。

 そんななか、Alphabetとトロントのスマートシティの話は生活空間自体を変えてしまおうという大きな構想の話です。過去20年間、インターネットビジネスは、プラットフォームを構築、成長させた企業が勝ち残ってきました。ECからコンテンツ配信まで、ユーザビリティを進化、効率化させるのが勝利の方程式の一つでした。スマートカーやスマートホームなど、テクノロジーがインターネットの外側に進出したとき、彼らがリアルな領域のプラットフォーム作りに関心を寄せるのは自然なことなのでしょう。

 新しいテクノロジーを使った街づくりが進めば、そのハードウェアのうえに成り立つ、我々の生活も変わります。そして、その生活に慣れた人々の意識、常識やその総体としての社会も徐々に変わっていくでしょう。

(参考)
入洛観光客延べ宿泊数(2016年) 京都市産業観光局