参院選に向けて – 政治のイノベーション

Kazu Shimura

Kazu Shimura

志村一隆

 先日、姫路の立ち飲み屋で女将さんが、タイガース戦を見ながら「自分の息子がこれから戦争に行くことになるんでしょ。それはイヤよねぇ」と言った。突然だったので、ちょっとビックリした。隣にいた50歳くらいのオジサンも「うーん。まぁ経済だよなぁ」と続くと、ひとしきり政治談議が始まってしまった。次の日、大阪新世界の串焼き屋に行ったら、ここでも隣に座ったお姉さんが、いきなり「戦争にって、いったい誰が行くねん。今の日本男子が行っても負けるやろ」と自分のお爺さんらしき人と話している。姫路

 次の週、早稲田で飲んでいたら「定年したシニアを雇用したら補助金出すとか、しないとダメだよ」とか言う80歳のお爺さんがいた。その後大森に行ったら「モンスターママってのはおかしい。学校に預けたら文句言っちゃダメ。日本はおかしくなってる」という話で盛り上がった。

 会社の飲み会で、政治の話をすることはないし、これほど政治の話題で盛り上がることは今まで身近でなかった。そういう世代なのか、そういう季節なのか、どうなんだろう。

 

データ羅列の討論

 

 今度の参院選は真面目に投票しようと、党首討論をいくつか見てみた。やはり、政治家の直接の言葉を聞くのは面白い。特に、小政党の主張はタマに良いこと言ってるなぁと思えた。例えば、新党改革は「脱原発で保守」だそうだ。経済政策は大事だけど「なんで脱原発しないの?」とモヤモヤしていた。他にも、大阪維新の会は「消費増税永遠に凍結。社会保障財源は構造改革で捻り出す」これも納得した。民進党の「社会保障費の財源が無いから消費増税延期に反対」という論点はどうもモヤモヤしていたのだ。Tax Payerの身からすれば、増税はイヤである。


自民党 
ただ、自民・公明党と民進党の議論は、お互いにやたら違う数字を連呼するので、どう判断していいのかわかりにくかった。最初に見た山尾志桜里さんや稲田朋美さんたちの政調会長同士の議論だからそうなのかなと思ったが、その後で見た党首討論でも、同じ話だったので少しがっかりした。

 データを示すのも一つの手法だと思うが、基準値が示されないので、それくらいいいのか?悪いのか?わからない。それに、こうした数値目標、コミットメントといった姿勢は、「出来る人がまず引っ張る。そのために効率性を重視する」という安倍政権の経済・社会運営、つまり21世紀初頭の米国新自由主義的な思想から生まれるのだと思うが、リーマンショックや大震災後の環境変化後の今、こうした効率性重視の考え方は、少しそぐわなくなっていると思う。

 

オトナの意見と政治のイノベーション

 

 自分は、そんな数値の羅列よりも「2030年の日本はこうあるべきだから、今こうしなければならない」といった話を聞いてみたい。自分と同世代やもっと上のオトナたちも同じ意見であろう。残念ながら、いまそんな未来を語るのは、政治家でなくデジタル業界の人たち(それも米国の)の役目になってしまっている。

大阪 最近のインターネットのイノベーションは、既存の破壊だけでなく、新たな仕組みを創造する段階に来ている。例えば、討論でも出てきた奨学金問題。教育制度だって、いまや米国やら世界の有名大学が無料でオンライン講座を開講し、修了証も出しているし、貧困層に向けて初級の数学などの無料動画もたくさん出回っている。つまり、知識を得るという意味での教育・学校制度は大きく変化しようとしている。

 それなのに、現状の大学進学を前提にした「給付型奨学金を用意します」というのは、いかにも夢のない硬直した話ではないだろうか。それよりも、大学とは違う新たな教育の仕組みを作り、世界中から優秀な学生を集めます。みたいな話をする政治家がいないのか。国家の価値観の押し付けに学校を利用しようとしていてはそんな発想は生まれないだろうが。

 

政治と理想

 

 討論でも出ていたが「政治は実行力であり財源である」という考えは、権力としての政治・政治力に偏りすぎた見方だ。先月の君和田塾長の「リンカーンの演説を覚えよう」にこんな一節がある。

「愚かな政治家が増えてしまった私たちの日本。「理想」などという言葉が死語になりかかっている日本。」

 政治こそ、もっと理想の旗を掲げる存在であってほしい。蓮

 千葉である政治家との対話会に行ったら、70歳代くらいのお婆さんが「もう老人にはお金かけなくてもいい」と言っていた。顔の見える対話会に行くと、こうした意見も拾える。なにも、有権者はネトウヨやパヨクだけではないのである。我々消費者はニーズを知らないかもしれないが、有権者や納税者としては、それほどバカではない。

 最後に「憲法改正」をどこでも取り上げていたが、これはメディアが権力を監視するという役割を果たした結果であると思った。国家を国民を縛るという思想の自民党草案は全く好きになれないが、そうした認識を持てたのも、改憲阻止議論のおかげだ。安倍さんは、改憲論議はまだ議論が熟しておらず、草案通りに行くとは思っていないと言っていた。自分の印象では、草案通りにならなければいいと思うが、それは甘いのだろうか。ともかく、2/3をとって、国民投票に掛けられたら、また吟味するしかない。