志村一隆
中国では、GメールもMAPもFacebookもTwitterも使えない。SNS中毒からの解放(嬉)。ただ、中国には中国のSNSがあって、若者が地下鉄でスマホを見てるのは、世界中どこでも同じだ。
色々なサービスの利用者数もすごい。中国のTwitter→”WeChat”は利用者9.4億人、中国のドコモ→”チャイナモバイル”加入者は8.6億件、中国のアマゾン→”アリババ”は、昨年11月11日に1日で1,207億元(1兆9300億円)の取引があり、東京のタクシーでも使えるモバイル決済”Alipay”は4.5億人利用者がいる。
外資を規制しながら、海外のテクノロジーをコピー、国内企業を育成すると、どんどん大きくなる。検索、eコマース、SNS、ライドシェアなどなど。13億人も人口がいるとなんでも世界シェアトップになってしまう。
ただ、欧米の先行者がいる国外では通用しない。そこで、海外企業に投資し、仲間を増やす。アリババやテンセントはハリウッドに出資し、大連万逹集団は、欧米の映画館チェーンを買収する。万逹は青島に映画スタジオを作り、アジアのハリウッドを目指している。(下図参考)
2016年、中国のネット動画のオリジナルコンテンツは、2,500作品を超えた。2年前の4倍。数年前、日本のテレビドラマやジャニーズの海賊アップロードの温床だったイメージとは違っている。中国も、早晩Netflix的なオリジナルコンテンツが溢れる配信市場に進化するんだろう。
ユーザー数4.8億人の動画配信サイト”iQiyi(愛奇芸)”のコンテンツ制作費は年間78.65億元(1,258億円)。同社幹部は「映画1本に1,000万元(1.6億円)を注ぎ込む」と語り、アリババ幹部は「2017年から3年間でコンテンツに500億元(8,000億円)投資する」と言う。
そのソフトパワーは中国の「一帯一路」戦略を補完するに違いない。
さらに、いまから2-3年後には、VR(仮想現実:Virtual Reality)がスクリーンメディアの外側を開拓していく。そのフロンティア領域には、HTCがいる。家電やスマホ領域では、中国製ブランドは格安なイメージだったが、HTCはVRのトップブランドの一つである。そこには、パナソニックも東芝もいない。(参照:HTC VIVEの講演 @MWC上海と、虚似現実第一 – MWC上海にて)
コンテンツも配信プラットフォームもメーカーも、急速に進化する中国。映像市場で、中国メーカーが世界ブランドになり、中国コンテンツが世界をリードする日は近い気がする。
エンタメの越境プラットフォーム
では日本はどうしたらいいのだろうか。おそらく単発でコンテンツを売り込んでもダメだろう。TBSの2016年度番組制作費は981億円、日本テレビは979億円。制作資金の違いだけでなく、集金手法もネットプラットフォームに移行しているのが世界の潮流だ。
であれば、中国の3社や韓国企業と組んで、日韓中の配信プラットフォームを作ったらどうだろうか。インフラ整備がまず必要である。なんせ、中国だけで、北米・南米・EU合わせた人口と同じ。インドやアフリカを考えたら、クラクラする。
それに、映像だけでなく、ライブチケットを購入できたり、エンタメの総合プラットフォームを作れたら面白い。決済はカードでもAlipayでもいい。上海まで飛行機で2時間半、格安航空券なら数万円で行ける。
ネットや放送など国境を感じさせる規制と、飛行機、決済などそれを跨いでしまう現実。上海のホテルでテレビのリモコンをイジっていたら、NHKの番組がやけに古ぼけて見えた。中国や韓国、それに台湾の番組の方が洗練されたように感じたのだ。そんな印象、今ままでなかった。日中や日韓関係は、やたら勇ましい主張ばかり目立つが、そろそろ、メディア業界から、文化安全保障的な汎アジア構想を出すべきだろう。
(参考1)
バイドゥ、アリババ、テンセント(頭文字をとってBATと呼ぶ)の売上は2012年から2016年までの4年間で3倍。バイドゥ(百度)は検索、テンセント(騰訊)はメッセンジャー、ゲームの会社。テンセントは、時価総額が世界で10番目に大きい。
(参考2)
バイドゥ傘下の”iQiyi”の売上は、2013年から2016年までの3年間で8倍。2017年2月に15億ドルの資金調達に成功、近日中にIPO予定と噂されている。ちなみに、アリババのコンテンツ部門も2016年度は前年比271%である。同時期のEBITAは65.42億元のマイナス。アリババ最大の赤字部門である。また同部門の売上は全体の9%を占めるほどでしかない。テンセントは、モバイル動画のシェアが1位。月額20元の課金ユーザーが2,000万人いるという。
(参考3)
2017年3月、中国商務相は「中国企業の海外買収の一部は非合理的だ」と発言。それ以降、中国企業による海外買収案件は急速に減少している。
(参考3)
中国国内で上映できる外国映画は年間38本に制限され、動画配信サービスの海外コンテンツは30%までに規制されている。2016年、映画館で封切られた作品は423作品。
China Daily, Chinese online film industry: new prospect on smaller screens, 2017年3月31日
(参考4)
現状、中国の動画サイト掲載の動画は、まだ無料動画である。視聴前に、30-70秒の広告を強制的に見せられる。TOP画面に掲載される動画は、公開後5時間で60-70万回も再生される。主なクライアントは、飲料、化粧品など。
(参考5)
中国のケーブルテレビ契約件数は2.5億件。ネット動画の月額課金利用数は1.4億件で、2020年までに2億件を超すと予想されている。その頃には、中国は米国を抜き、世界最大のネット動画配信市場となる。
中国のOTT世帯普及率は、2013年の13%から2017年には49%に成長する。2010年に44億円だった市場規模が2020年には4,000-5,000億円まで成長する。
動画広告ではモバイルシェアが50%を超えている。2015年のモバイル動画広告市場規模は1,800億円。2016年は第3四半期までの9ヶ月間だけで、2,200億円まで成長している。インターネット広告全体の市場規模は4,100億円。