「積極的・・・・・」

H. Sekiguchi

H. Sekiguchi

関口 宏

 「積極的平和主義」・・・・・

 はじめてこの言葉を耳にした時、「それは素晴らしい!」と拍手しそうになりました・・・・・が・・・・・
よくよく聞いてみれば、それは武器の輸出やら、同盟国の戦争に参加する事によって得られる「平和」なんだそうで・・・・・?
・・・・・
うーむ・・・・・。
なら・・・・・言葉の使い方が違うのではないか・・・・・ と感じたのは私だけでしょうか。

 「積極的」・・・・・たしかにポジティブな響きのある言葉ですが、これを今の我がテレビ業界で考えてみますと、「積極的視聴者第一主義」、てなことになるのでしょうか。
なんだか、すでにこの時点で、腹の中見え見えに思われてしまいそうですね。

 「なりふり構わず数字(視聴率)を取りに行け!」と、暗に号令をかけられているかのような昨今の我が業界。視聴者を、時には騙し討ちに掛けてでも欲しい数字。その結果得られる営業チャンス。それが良きスポンサーを引きつけ、局の利益に結びつくという構図。それが積極的になればなるほど、いつの間にか、一番大切にしなければならなかったはずの「視聴者」の存在が、忘れられていくような現象も起こりがちになるようです。

 もっと笑わそう、もっと泣かそう、徹底的に字幕を出して、もっと分からそう。
こうした一見「積極的」に思える手法が、実は、「視聴者離れ」を起こす過剰演出になっている場合もある事を、テレビ屋は肝に銘じておかねばなりません。

 皮肉な話ですが、「積極的」になればなるほど、視聴者のヒンシュクをかう一面を、テレビが持ち合わせているのでしょう。

 それは番組の出来、内容だけにとどまりません。
「積極的販売促進主義」・・・・・この分野にも及んでいるような気がするのですが・・・・・

 つまりこれは、「CM」、コマーシャルメッセージのこと。これがなくては成り立たない民放では、何をおいてもスポンサーありき、その存在に感謝しつつも、時々、「それって・・・・・少し積極的、過ぎません?」と御意見申し上げたくなることが増えて来たように思われます。

 先日、今や飛ぶ鳥を落とす勢いの俳優さん出演のドラマを観ていたのですが、コマーシャルタイムになるや、その俳優さんを使ったコマーシャルが、次から次へと、出るわ出るわ・・・・。

 それだけその俳優さんが今、人気がある証しではあるのでしょうが、それを見ているうちに、ドラマの中のキャラクターと、コマーシャルの中のキャラクターが混同し始めて、ドラマの面白みが半減するわ、コマーシャルが、うざったく感じられるようになるわで、それで一儲け企む業者を除き、「視聴者、制作者、俳優さん、そして肝心のスポンサー。誰にもプラスしていないのではないか・・・・・」と思われたのです。

 

monitor

「積極的・・・」

 

 一昔前までは、こうしたケースになりそうな時には、制作現場から、局の編成・営業に申し入れ、スポンサーにお願いして、その俳優さんがコマーシャルに登場しないように気を配っていたものです。

 それがいつの頃からか、そうした配慮がなくなってしまいました。

一儲け企む側は、「積極的に、積極的に」と、方針を変えてしまったようです。

 ついでに申し上げるなら、それこそ一昔前までは、どんなスポンサーでも大歓迎、という業界ではありませんでした。スポンサーがどれほど大金を積み上げようと、業種によっては、丁重にお断りする場合もありましたが、その壁も今や、あって無きが如し、になっているようです。

 そして最近、ほとんど見かけなくなってしまったのが、「企業イメージ」を紹介するコマーシャル。
 直接商品を売り込むのではなく、美しい自然や、ほほえましい人の表情、動物の営みなどを、きれいな音楽にのせて、企業のイメージを伝えるコマーシャル。
 ひとつひとつの商品名は知らずとも、それによって覚え込んだ企業名は沢山ありましたし、この手のコマーシャルは、過激さもなく、けたたましさもなくて、時には視聴者を、ホッとさせてくれる効果がありました。
そうしたコマーシャルが激減し、直接的なコマーシャルだらけになったことも、「積極的・・・」現象と捉えるべきなのでしょうか。

 50年ほど前、海外渡航が自由になって、初めてアメリカの地で見たテレビ。
そのコマーシャルの多さに驚き、何と言っても、商品の値段の連呼と、電話番号の連呼、連呼、連呼に、辟易としたことを思い出しました。

 アメリカは、半世紀前、すでに「積極的・・・」な国だったのですね。

 

hotpick

「積極的・・・」

 

 それこそが、アメリカ型資本主義の原型であって、やがてそれがグローバリズムと称されて日本にも押し寄せ、日本のテレビも変わらざるを得なくなったのでしょうか。

 ちなみに申し添えておきますと、コマーシャルのないNHK。
「だから落ち着いて見られる」と喜んでいた年配の視聴者から、「最近、番組宣伝がやたら多すぎる」という苦情を、よく耳にするようになりました。
民放のコマーシャル分を、NHKは番宣で・・・・・とお考えになっているのかどうかは定かではありませんが、間違いなくNHKも、「積極的・・・主義」に、飲み込まれているものと思われます。

 テレビ屋   関口 宏