テレビの先を行くradikoプラットフォーム

F. Miura

F. Miura

三浦 文夫

 テレビのネット同時配信がにわかに注目されているが、技術、権利処理、ビジネスモデルのいずれも越えなければならないハードルは高い。一方、ラジオのネット同時配信サービスradikoは2010年に既に実用化している。現在では民放連加盟ラジオ101局のうち82局が参加、アプリの累計ダウンロード数は約2000万、月間ユニークユーザーは約1200万人と放送系最大のプラットフォームになっている。また、2014年4月、放送エリア外のラジオ聴取が可能な有料サービスが開始され、登録者は33万人を超えている。さらに、今年の10月11日から放送後1週間いつでも聴取可能なタイムフリーサービスが始まったが、開始後10月末までに140万人が利用した。また、番組の任意の箇所をSNSによって簡単に共有できるシェアラジオという機能により新たなメディア展開を見せつつある。

 「音声のみのメディアであるラジオだからできたのだろう」といった感想を持つ方が多いかもしれないが、その道は決して平坦なものではなかった。ここでは詳しくは触れないが、最も大変だったのは放送局の意識合わせだった。筆者がラジオのネット同時配信プロジェクトを立ち上げた2005年当時は、ライブドア事件や楽天のTBS株取得などの余波でネットは放送事業者にとって好ましくないという印象を持つ関係者が多かった。ただし、受信環境の悪化、若者のラジオ離れ、ラジオ広告市場の大幅な縮小という厳しい環境の中、メディアとしての衰退をなんとか食い止めなければならないという切実な思いは共通だった。

大阪6局で配信実験

 配信エリアなど様々な議論はあったが、放送の要件を整えるという条件で大阪での実証実験を行う方針が固まってからは、東京のラジオ局も協力して権利者交渉や行政対策などを進めていった。そして、2008年4月に大阪ラジオ6局(朝日放送、毎日放送、ラジオ大阪、FM OSAKA、FM802、FM COCOLO)による1000名のモニターによる配信実験にこぎつけることができた。その結果、利用者から想像以上に高い評価を受けたことから、2010年の実用化に向けての体制作りが始まったのである。

 ところで、若年層を中心としたテレビ離れは進んでいるものの、テレビ広告費は堅調であり、関係者にラジオほどの危機感はない。また、テレビは極端な東京一極集中型の産業であり、地方局にとってネット同時配信のビジネスモデルを描くのは難しい。そのため、対処療法的なネット配信の試みは続くと思われるが、中長期的なビジョンに基づくプラットフォーム構築の環境は整っていない。

技術・権利・ビジネスの視点で設計

 一方、radikoについては2010年の実用化に際し、10年スパンの長期的なビジョンを策定し、技術、権利処理、ビジネスモデルそれぞれの視点からプラットフォーム設計を行った。

 技術的には放送・通信・WEBソリューションが高度に統合したシステムだが、重視したのは拡張性とコアシステムの内製化である。放送のネット配信の実現には、各放送局で映像、音声をエンコード、IP化してCDN(コンテンツ・デリバリー・ネットワーク)業者のシステムに集約、ユーザーが使い易いポータルのインターフェースを用意、広告挿入、課金のシステムを導入するというのが定石だろう。ところがradikoは各局のベースバンド信号をプラットフォームに集約してエンコードするというアーキテクチャーを持っている。そのため、配信方法の変更、アーカイブ構築、広告差し替えなど自由度が高い。また、媒体価値指標の策定や広告、販促システムの基礎となるアクセスログも全てプラットフォーム内で保有している。

 権利処理については放送局関係者の「放送だから」「プロモーションになるから」といった態度に対しての反感を権利者側からよく聞いていた。そこで、放送の要件を整えているため新たな許諾の必要がない2008年の大阪の実証実験についても時間をかけ丁寧に権利者に説明、理解を求めてきた。その後の本配信、エリアフリー、タイムフリーについても、そうしたポリシーを貫いてきたため権利者側からも好意的に受け止められ、新しいサービスの実現に繋がった。さらに、権利者と協力してオンエア楽曲の捕捉、出演者の把握など、より公平で透明性の高い権利処理が可能なシステム構築を目指している。

新たなメディアと再規定

 ビジネスモデルについては、ラジオの媒体価値を高めることがradikoの最大の目的のため、マネタイズを急がなかった。ただし、増加する配信コストやタイムフリー・シェアラジオなどの新しいサービスの開発のため、ある程度の収益を得る必要があり、エリアフリーという有料モデルが導入された。

 今後はラジオをブランディングとレスポンスを兼ね備えた、新たなメディアとして再規定し、様々な広告、販促ソリューションを提供していくことが求められる。また、ラジオ番組にとって欠くことのできない音楽やプロ野球などのマーケテイング拡大にも寄与することも忘れてはならない。そして、何よりも良質で面白い番組を送り続けることが大切である。

 ラジオ局は地域での様々な活動を通じてリスナーとの絆を深め信用を培ってきた。今後は、radikoという位置情報を持つアプリの特性を活かし、地域文化、経済の活性化、災害時のきめ細かな情報提供などの社会的な役割を果たすことを期待している。