数値

H.Sekiguchi

H.Sekiguchi

関口 宏

 

 「数値、また上がってますよ」 「あぁ・・・・・はい」。
 「酒、タバコ、止められませんか?」 「あぁ・・・・・はい」。
 年に一度、医者と私が決まって取り交わす会話です。

 

数値

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 上がって悪い数値、下がって悪い数値、最近では検査がより細かくなって、いくら説明されても覚えきれず、数値よりも、医者の顔色を伺いながら、どの程度アウトなのかセーフなのか判断している私がいますが、(齢も70を越えりゃ、多少、どこかは悪くなるよなー)てな自己正当化とともに、(人それぞれ個人差もあるだろうし・・・・・)と、素人ごときが、数値そのものに疑いを持ったりしています。

 思えば何時の間にか、周囲は「数値」だらけの世の中になりました。
 出かけるときの「降水確率」、何か食べに行く時の「食べログランキング」など手軽なものから、人生に大きな影響を与えかねない学校の「偏差値」にいたるまで、「数値」「数値」に判断を委ねる時代になったのでしょうか。

 それはそれで便利な反面、「数値」を鵜呑みにして、自らの感性、つまり分析力とか洞察力が発揮されず、大切な個性を失ってゆくことにならなければ良いがと、老婆心、いや老爺心がはたらく時代でもあるのです。

 「数値」は参考データであって、絶対ではないと、老爺心はうったえます。

 

数値

数値

 

 例えば、景気を判断するとき、「失業率」、「株価指数」、「円ドル相場」、「物価指数」、「消費者○○指数」、「輸出入○○指数」、「設備投資○○指数」そしていま話題の「GDP成長率」などなど、様々な数値が示されます。
 そのひとつひとつには、それなりの結果が表れているのでしょうが、そこから確実に未来を見通すことは、正直、専門家ですら分からないと言います。
 そういえば、「トリプルA」だの「Bマイナス」だのとランキングをつけて、いかにも信用のありそうなデータを公表して、世界の金融市場を混乱させた事件もありましたね。

 また時々発表される新聞、テレビの「世論調査」。
それらを比較してみると、なんとなく傾向は分かるものの、相当なズレがある時もあって、どれを信じるべきか悩まされることもあるのです。

 それは質問、設問の仕方や、新聞社、テレビ局の体質による違いが反映されてしまう結果であって、真に公平な「世論調査」は実現し難いとも言われています。
 さらに時代は携帯、スマホ。
 固定電話を持つ若者が激減していて、固定電話による「世論調査」は限界に来ているとのこと。
 つまり、固定電話を持たない若者の意見が聞き取り難くなっている訳で、その打開策は見つかるのでしょうか。

 そして、もっとも「数値」に振り回されているのが、恥ずかしながら我が業界。
 寄ってたかって「視聴率」。寝ても覚めても「視聴率」「視聴率」「視聴率」。

 

数値

数値

 

 まるで「視聴率」以外、番組を評価する「物差し」はないのか、と言いたくなるような勢いですが、そうなのです。「視聴率」以外の「物差し」はないのです。

 ひと頃、テレビ屋が集まると、様々な番組の分析、評価で話が盛り上がり、視聴「率」はさておいて、視聴「質」を大事にしようとする時代がありました。
 そのテレビ屋達の想いには、「いくら数字を取ったって、あれじゃーなぁ・・・・・」という、「質」を伴わない仕事に対する厳しい姿勢を感じました。
 しかし残念ながら、「質」は、形になりません。「率」なら数字やグラフで表せるのに。
 やがて形にならない「質」は遠ざけられ、分かりやすい「視聴率」の天下となりました。

 更にその「視聴率」も、M1,2,3、F1,2,3,(Mは男性、Fは女性、1,2,3,は年代を表す)と細かく分析されるようになり、なにか有り難いような気持ちにもなるのですが、逆に、そのデータに囚われるあまり、目的を見失うテレビ屋も増えてきました。

 そして今では、テレビ屋の集いは、「視聴率」の数字較べに終止することが多くなり、「視聴率」が取れず、打ち切りになった番組はサッサと忘れて、「視聴率」が取れている番組の仕掛け方、テクニック論に話が集中、「上手いことやりやがったなー」と、口には出さずとも、羨望と嫉妬の渦巻く場になることが多くなったような気がします。

 だから、だと思うのですが、最近のテレビは同じような番組ばかりで、なかなか新しいものが生まれて来ないのでしょう。
 こうした議論からは、せいぜい、今「視聴率」の取れている番組の仕掛け方や、テクニックの模倣、真似ものしか出てこないことに、なりはしないでしょうか。

 「表現したいものがある」「伝えたいことがある」。

 これがテレビ屋の原点だと思うのですが、どうも最近の我が業界は、「視聴率を取りたい」が堂々とした最優先課題となり、「それの何が悪い!」と開き直っているように思えます。

 話は変わりますが、今年1月に誕生したこの「独立メディア塾」。
 お陰様で来年も続ける事ができそうです。
 でもこの世界にも、PV(ページビュー)という「視聴率」のようなものがあるとか。
 気になるといえば気になりますが、出来るだけ囚われることなく、淡々と続けてまいる所存です。
 どうか来るべき新しい年も、ご指導ご鞭撻、よろしくお願いします。
 良いお年を・・・・・・

テレビ屋  関口 宏