核兵器保有国への道

君和田 正夫

 日本は「核兵器保有国」を目指して一歩一歩、進んでいるように思えてなりません。11月27,28日に広島市で核軍縮について、日本政府主催の「賢人会議」が開かれたばかりだというのに、その「賢人会議」すら保有国へのスタートラインに見えて来ます。気が付いたら「核大国」、いやそんなことは「有りえない」というのが常識だろうと思いますが、気になるのは北朝鮮です。29日に弾道ミサイルを発射しました。北朝鮮が何かする度に、日本では「待ってました」とばかりに防衛力強化が謳われます。来年度予算でもミサイル防衛体制の強化などを柱に防衛費は膨らみ続けることでしょう。では、その先に待ち受けているものは一体なんでしょうか。

 「賢人会議」は保有国と非保有国の有識者16人が集まり、核廃絶に向けた道筋を確認し合おう、という狙いでした。来年4月、核拡散防止条約(NPT)の関連会合に向けて提言をまとめる予定ですが、核兵器禁止条約への考えが国により、人により異なるため、提言の取りまとめに苦労すると予想されています。

[戦争の記憶]  鎌倉市の大船観音(大船観音寺)。昭和4年、建設に着手。 第二次大戦中、米軍機が東京や横浜を空襲するため、目印にして侵 入してきた、と戦後になって大人から聞かされた。小、中学校時代 、まだ整備されておらず、折れ曲がった鉄筋コンクリートが頭のて っぺんに露出して、もじゃもじゃの毛のようだった。

 

 

 

 

「禁止」に反対、奇妙な理由

 

 この会議がなぜ「核保有国へのスタートライン」となる恐れがあるのか。日本政府の核政策の曖昧さが凝縮されているからです。

 7月7日にさかのぼります。122カ国が賛成した核兵器禁止条約に、日本は反対し、不参加を明らかにしました。日本は北朝鮮の核実験を批判しているのに、なぜ「核兵器禁止条約」に反対したのでしょうか。

 この単純な疑問に対して、当時の岸田外相は「北朝鮮の核・ミサイル開発の深刻化などに直面している中、禁止条約は核兵器国と非核兵器国の対立を一層助長し亀裂を深める」と説明したものでした。核保有国と非保有国の橋渡しをすることが日本の役割、という意欲が表明され、それが「賢人会議」につながったわけです。

 現在の河野太郎外相もブログ(11月21日)で「禁止条約不参加」について次のように言っています。

 「この条約には米国、ロシア、英国、フランス、中国といった核兵器国が反対している」「条約ではこれらの国を動かすことができない」としたうえで、「国民の生命と財産を守るためには、日米同盟の下で核兵器を有する米国の抑止力に頼る以外ないのが現実」「核兵器禁止条約は、こうした厳しい安全保障環境を十分考慮することなく、核兵器の存在自体を直ちに違法化するもの」と条約への反対理由を述べています。

 河野外相は、「地道に核軍縮を進める道筋」として、世界に1万6000発あるとされている核兵器を核兵器国が削減していくことだ、と提言しています。

 

「廃絶」のために核兵器を持つ?

 

 これが日本外交の基本かと思うと、暗澹たる気持ちになります。日本の安全は「米国の抑止力に頼るしかない」ということになれば、核兵器廃絶など主張できなくなります。河野外相は同時に、唯一の被爆国として「わが国が核兵器の廃絶を目指すのは当然で、今後それは変わらない」と言っているのですが、廃絶を目指すためには「抑止力」から抜け出さなければいけない、という理屈になります。抜け出すためにどうするか。答は日本が独自に核兵器を持つ、ということです。核兵器廃絶のために核兵器を持つ、なんという皮肉でしょうか。

 米国では「日本が核兵器を持つことを認めよう」という議論が出始めている、と報道されています。「自分の国は自分で守れ」と最近の米国は言いたげです。日本の核保有を認める時が来ることを想定しておかなければいけないでしょう。その時どうするか。国内でも若手国会議員などの間で自衛のための保有がなぜ悪いのか、という議論が出ていると聞きます。

 

「廃絶決議」支持国の失望

 

 河野外相、核兵器廃絶決議案については、どう考えたらいいので しょう。禁止条約から3カ月ほどたった10月27日、国連総会の第1委 員会(軍縮・安全保障)に、日本が主導した廃絶決議案が提出され 、144カ国の賛成で採択されました。1994年以来、24年連続の採択 でした。

 にもかかわらず、賛成国は前年の167カ国から23カ国減ってしま いました。「禁止条約」には反対した国が「廃絶決議案」を主導的 に提案する。誰が考えても理屈が通りません。決議案の内容も核兵 器保有国への配慮が目立ったようです。過去、日本の提案に賛成し てきた多くの国々の失望が目に見えるようです。日本の核兵器政策
の混乱・矛盾が浮き彫りにされたのです。

 直前の10月6日には 核兵器禁止条約の成立に貢献した「核兵器 廃絶国際キャンペーン」(ICAN)に対して、ノーベル平和賞が決 まったばかりでした。

 

安倍政権が苦手な「民主」「公開」

 

 様々な矛盾や曖昧さが重なっている日本政府の核政策。日本政府は「賢人会議」などの場を使ってその弁明をしたのでしょうか。正当化したのでしょうか。曖昧にしているのはなぜか、核兵器保有が念頭にあるからではないでしょうか。

 勇ましい言葉が受け入れられる時代になりました。私たちがなすべきことは、はっきりしています。核兵器に対する政策を原爆体験国の原点に返って固めることです。昭和29年、原子力の研究・開発・利用に当たって「民主・自主・公開」の3原則が決められ、原子力基本法に明記されました。今の安倍政権は「公開」や「民主」が苦手な政権です。核兵器を持つためには憲法を避けて通れません。不透明な政治、曖昧な政治をさせないために、国民の責任はますます大きくなっています。