AAコンビが演ずる笑劇「膿(うみ)の親」

君和田 正夫

 失言、放言、暴言、何でもありの国会劇が上演されています。演出は安倍総理、主役に起用されたのは麻生太郎副総理・財務大臣というAAコンビ、脇役は優秀な官僚群です。不規則、不用意、不穏当、無責任、各種発言のオンパレード。さらに、「ウソから出た実」「破綻百出」「ウソがウソを生む」という腹を抱えて笑える劇中劇まで用意されています。この傑作の脚本を書いたのは誰でしょう。実は安倍総理でも麻生副総理でもありません。私たち国民なのです。

 

「麻生節」の数々

 

 早速、舞台を拝見しましょう。麻生主役のセリフを「麻生節」などと持ちあげる演劇評論家もいるようです。本気でしょうか。「麻生節」の数々です。

 「森友の方がTPP11より重大だと考えているのが、日本の新聞のレベルだ」(18年3月29日)

 TPP(環太平洋経済連携協定)の署名式の記事が一行も載っていなかったと、新聞をなじりましたが、朝日、毎日、読売、日経など各紙は報道しており、麻生氏は新聞を読んでいないのではないかという疑念を持たれ、弁明に追われました。

 佐川宣寿前国税庁長官の証人喚問では「人民裁判をやっているのではない」(3月28日)、福田前財務事務次官のセクハラ問題では「はめられたという説もある」(5月11日、同日撤回)。

 麻生氏は昨年8月29日に麻生派の研修会で「(政治家は)結果が大事なんですよ。いくら動機が正しくても何百万人殺しちゃったヒトラーはダメなんですよ」とナチス政権の動機を肯定したとも取れる発言をしましたが、「誤解を招いた」と翌日撤回しました。

 これより前の2013年にも前歴があります。憲法改正問題について「ある日気づいたらワイマール憲法が変わってナチス憲法に変わっていた。誰も気づかないで変わった。あの手口を学んだらどうかね」

 

「問題なし」の閣議決定

 

 ところが不思議なことに、相次ぐ無理筋発言に対して「問題なし」という閣議決定が行われているのです。

 13年のヒトラー問題では、「ワイマール憲法が十分な国民的理解と議論のないまま形骸化された悪しき前例として挙げたところであり、ナチス政権の手口を踏襲するとの趣旨ではない」という答弁書を閣議決定しました。(13年8月13日)

 「人民裁判」発言も「極めて不適切などという指摘はあたらない」という答弁書を決定しました。(4月6日)

 と、ここまで書いていたらまた出ました。森友問題の文書改ざんについて「白を黒にしたというような悪質なものではない」(5月29日)

 並みの国会議員がこれほど自由奔放に物を言ったら選挙では落選の恐れが出て来ます。それなのになぜ、麻生氏は許されるのでしょう。

 

超エリートの世襲議員

 

 答えは落選する心配がないから、としか考えられません。彼の祖父は吉田茂元首相、さらに遡ると明治の元勲と言われた大久保利通にたどり着きます。つまりはエリート世襲議員です。さらに地元福岡の実家はかつて「麻生セメント」で知られた名門企業です。私たち有権者はこういうことに弱いのですね。封建領主を連想させます。

 加えて世襲議員と小選挙区制の相性の良さが挙げられます。一選挙区で一人しか当選しないのですから、昔言われた「地盤」「看板」「カバン」の恩恵を今でも十分受けられるわけです。

 世襲問題については別の機会に改めて考えてみたいと思いますが、最近、「小泉進次郎と福田達夫」(田崎史郎著、文春新書)を読んで、彼らが世襲の有難さを感じていないのではないか、と驚きました。小泉氏は4代目の政治家で、父親は小泉純一郎元総理です。福田氏は3代目で、父親は福田康夫元総理です。

 

本気で自立を目指せ

 

 彼らは世襲批判の厳しさはよく理解しているようです。小泉氏は言います。「あれだけ世襲で批判されて、そして自民党だということだけで批判されて、しかも相手の候補は地盤看板カバンなしという、反世襲の設定で挑んできた。僕は生まれてきちゃいけなかったのかなとか、そういったことを考えるぐらい、落ち込みました」

 そこで小泉氏は「独り立ちした戦いというのに挑まなければ、誰も認めてくれない」と、父親の支援を受けず、比例代表との重複立候補も拒否した、と言います。福田氏も「親父、おふくろについてはもう完全に協力はしないでもらった」。

 本気で自立しようとしたのでしょうか。いくら親の支援を受けない、と言っても「今でも僕の演説会にうちのおじいちゃん(小泉純也。池田内閣や佐藤内閣の防衛庁長官)の青年部だった人が来ますよ」(小泉氏)というくらいですから、世襲の恩恵をたっぷり受けていると思えます。

 自立するなら、他の選挙区から立候補すべきでしょう。東京で生まれ育った福田氏がなぜ群馬から立候補するのでしょう。安倍総理も同じです。優秀な小泉、福田両氏が「前車の轍」を踏まないことを願っています。

 今月の「オープントーク」に小林恭子さんの「英国で議員になるには」という論文が載っています。その中で「英国で『二世』の首相がいないのはなぜか」を分析されています。是非お読みください。

 

日大騒動は国会のミニ版

 

 国会劇をさらに面白くしているのは加計・森友問題です。加計側が総理と会ったのか、会わなかったのか。加計学園は愛媛県と今治市に出した情報は誤りだったと発表して、舞台は新展開しています。安倍総理はご自身や夫人が国有地売却に関与していたら「首相も国会議員も辞める」という歴史に残る名セリフを吐いたのに、「増収賄はまったくない」と、関与の定義を金銭授受に絞ってしまいました。

 国民は人気俳優の真似をします。国会が大舞台だとすれば、国会のミニ版のような小劇場が日大のアメリカンフットボール騒動です。反則を「指示した」「しない」から始まって、質問に正面から答えない、反省すると言って何を反省しているのか分からない。危機管理の片鱗もない。

 「膿を出し切る」と言って膿の元に触れようともせず、論点ずらし、論点外しの答弁を繰り返す国会の完全な引き写しです。

 上から下まで、「我が身が可愛い」の国になってしまいました。寂しい限りです。