プロ野球から学ぶ『外国人枠』と『移民』

Z.Ikuma

ザック 生馬

 私が日本でプロ野球を取材しはじめたのは2013年だ。千葉ロッテマリーンズのリポーター・ヒーローインタビュアーの仕事を得て、ニューヨークから東京に引っ越してきた。その前25年間は北米で生活をしていた。スポーツの現場はアメリカで何年も取材してきたので慣れていたが、日本語での取材は人生でほぼ初めてだった。来日した当時は日本語がたどたどしかったり、不慣れな質問だったりで選手たちに違和感を持たせたと思う。

 「あのリポーターはどこの誰だろう?」。日本語より英語の方がネイティブなので、自然と英語圏の国からきた選手と仲良くなり、日本人選手や周りのメディアにはそう思われたのは当然だろう。日本で5年野球の取材をし続け、当初は多少浮いた存在の自分を感じながらも、次第に日本の空気に馴染んできたように思う。しかし昨年横浜DeNAベイスターズのアレックス・ラミレス監督とランチをした際に、メディア陣の取材スタイルなどの話題となり「だって、ザックは白人(アメリカ人)のリポーターだろう」と監督に言われた。ベネズエラ出身のラミレス監督にさえそう思われていることにびっくりして答えが出てこなかった。

アレックス・ラミレス監督

 

居場所を選べる「アウトサイダー」

 

 私は日本生まれで、日本人の母親とカナダ人の父親を持つ。アメリカやカナダにいる時はアジア系、日系の移民だと認識している。では、はたして14歳まで育った日本ではどうだろう。外国人、もしくは移民として見られているのだろうか。アメリカ、カナダで「英語がうまいね」と言われることもあれば、日本では「日本語が上手ですね」と言われることもある。日本で日本語のリポーター、アナウンサーをやっているのに「え、英語実況じゃないんですか!?」とちょくちょく業界の人に驚かれた。やはりどこに行っても自分は「アウトサイダー」なのだなと常に感じる。ただそれはなんの障害にならない。世界中どこでも、とまでは言わないが、自分がいる場所の選択肢があるからだ。この「アウトサイダー」的なユニークな経験ができることは有難いことなのだと思う。

ザック 生馬

 大谷翔平が凄まじいメジャーリーグデビューを果たした。アメリカで「二刀流ベーブルースの再来」ともいわれている大谷は、スポーツ専門メディアだけでなく一般メディアにも取り上げられるようになってきた。経済誌「フォーブス」は「スター誕生!」と4月に大きく掲載した。大谷本人は今きっと目の前のことで必死。周りにどう捉えられているかなど、思う暇もないだろう。大谷もアメリカでは「アウトサイダー」なのかもしれないが、この短期間ですっかりおなじみになり、国境を超えた存在になってきた。岩手県生まれの大谷が「世界の大谷」に成長してきたのだ。

 

日本プロ野球の狭い「外国人枠」

 

 今シーズン、メジャーにはアメリカ生まれでない254人の選手が開幕ロースター入りした。つまり全体の29%が「外国人」だ。これはメジャー新記録。そのうち、日本人選手は9人いる。一方、日本のプロ野球には今シーズン外国人選手が66人いる。支配下選手804人の8.2%だ。(3月30日現在)しかしメジャーにいる外国人選手のように結果さえ出せれば出場の機会が増える、ということになっていない。日本のプロ野球には外国人枠があるからだ。

 日本プロフェッショナル野球協約第82条の規定で、1993年までは1軍の試合に出場できる外国人選手は2人までと決まっていた(1952年―1965年は3人)。2002年から支配下選手として契約できる人数の制限はなくなったが、1軍の試合に出場できる「1軍登録選手」は投手、野手合わせて合計4人までとなっている。従って2軍などで好成績を残しても、枠の関係で1軍の試合に出場できないというケースも多々ある。

 規定改正は2002年以降、行われていないが、外国人枠の拡大や、撤廃を求める声は少なくない。2016年11月にプロ野球のオーナー会議で東北楽天ゴールデンイーグルスの三木谷オーナーは外国人枠の拡大を提案した。「プロの興行は選手が日本人だろうが外国人だろうが関係ない。世界レベルのチームにするためには、国籍にこだわる必要はない」と述べた。

 90年代に中日ドラゴンズで活躍したアロンズ・パウエル氏は「外国人選手が増えれば、日本人選手もそれに負けじとレベルアップに努める」という。野茂英雄など数々の選手のエージェントを務めてきた団野村氏は「外国人枠はただの偏見にすぎない」とまで発言している。

 反対派は外国人枠が撤廃されたら日本人選手の出場機会が奪われ、育たなくなるという見方をしている。プロ野球の選手会は外国人選手枠の拡大に懸念を抱いている。

 

スーパースターは日本人に限らない

 

 日本の野球人口が減っていくなか、野球王国日本はどんな未来をイメージしているのか。プロ野球が「日本らしさ」を保つ必要性はあるのか。そもそも「日本らしさ」とは何なのか。実際プロ野球の往年のスーパースターもみんな日本人というわけではないのだ。NPB(日本野球機構)で歴代最高の本塁打記録保持者、王貞治は東京生まれだが国籍は台湾。NPB歴代最高の安打を放っている張本勲も広島生まれだが、国籍は韓国。

 今年ベイスターズの監督として3年目を迎えたラミレス氏は、2001年に日本でプレーを始めた。在籍年数の累積によりFA(フリーエージェント)の資格を獲得して外国人枠から対象外になったので、2009年から2013年までは”日本人選手扱い”だった。ラミレス氏は現在帰化申請中で、年内にも日本国籍が取得できる。「日本を愛している。妻も日本人。もちろん息子も日本人。日本が私の住む場所。何年先になるかわからないけど、日本人として日本代表のユニフォームを着る、代表の監督をやるというのが最高の夢」と語っている。

 

外国生まれの人口がG7で最低の日本

 

 日本の将来の大きな問題の一つは人口の高齢化と減少。人口が減って労働力が低下する。GDP(国内総生産)も伸び悩む。いわゆる「G7」の7か国(アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、カナダ、イタリア、日本)で人口が減少し続けているのは日本だけだ。(2010年―2015年:国連調べ)

 さらに日本はG7国の中で外国生まれの人口の割合が最も少ない。最も高いカナダは21.9%(2013年国連調べ)。日本の1.9%はカナダの10分の1にも満たない(アメリカはちなみに14.3%で3位だ)。

 プロ野球の外国人枠の議論はさておき、現在プロ野球にいる外国人選手は全体の8.2%なのだから、プロ野球はすでに日本の全体人口よりも掛け離れて国際化しているということだ。そして、メジャーは今、一人の日本人「世界の大谷」に便乗している。国際化のメリットを最大限に生かしている。

 日本の社会も将来を考えるときに、野球界からヒントを得られるのではないだろうか。
そして違った見地に立つ「アウトサイダー」をさらに受け入れることによって、より豊な国になれるのではないだろうか。

取材するザック氏