他人事ではありません。私だって老人世代ど真ん中。しかもこの現象が、私が半世紀以上も愛して来た「テレビ業界」で起きていることなので、一層複雑な想いに駆られるのです。
「ファミリー・コア」という言葉をお聞きになったことがありますか。これはTBS系列のテレビ局で使われている言葉で、他局では「コア・ターゲット」と呼ぶところもあるようですが、つまりはテレビ局が、見てもらいたいと思う視聴者の年齢・世代を、一定の枠に絞ることなのです。これまでは世帯視聴率と呼ばれるテレビ全体の視聴率調査が行われていたのですが、それをさらに細かく調査して生み出された結果で、時には全体の世帯視聴率よりも重視されるようになって来たのです。
その対象となるのが13歳〜49歳、13歳〜59歳と局によって違いがあるようですが、いずれにせよ60歳代以上は切り捨てられているということになります。60歳代以上の老人は、テレビのお客様ではないと言われたも同然なのです。
では何故このような調査結果が重視されるようになったのか。それは13歳という中途半端に思われる年齢にヒントがあります。13歳といえば中学生なのです。つまり、この調査の元では、13歳・中学生になれば、自分の意志で「もの」を買い始める年代とみられていることを意味しているのです。
スポンサーあっての民放のテレビ界。そのスポンサーは高い広告料を払ってまでコマーシャルを放映するのは、自社の製品を知ってもらい、買ってもらいたいとする意志が根底に存在するのは当然のことでしょう。となれば、「もの」を買ってくれる人、その世代にコマーシャルを見てもらわなければ意味がない、ということになります。
ある調査によれば、購買力が高いのは若・中年層で、老人はあまり「もの」を買わないという結果が出ているそうです。もう欲しいものがほとんどない。それよりもいざという時のために貯蓄しておく。そんな傾向が日本の老人達にはあるものの、子供・孫たちからおねだりされる時には財布の紐を緩める。でもその商品を詳しく知っているのは子供や孫。スポンサーはこの子供や孫たちにコマーシャルを見て欲しいのです。
そのスポンサーの意向に沿って動き出したのが「ファミリー・コア」。その動きは前々から徐々に強まって来たのですが、その動きと連動するかのように、ジャニーズ系の若者達、吉本系の若者達の活躍の場がテレビ界で広まっていったと思われます。若者達がテレビで活躍することは大いに歓迎すべきことですが、切り捨てられた老人、しかも今一番テレビを見ているのはこの老人達。ここを大事にしないでテレビはどこへ向かって行くのでしょう。
そして一方では、若者達のテレビ離れが進んでいます。一人暮らしの若者の部屋からテレビが消え、若者達は全てをスマホで済ませる時代になったのです。(余計なことかもしれませんが、NHKがスマホに神経質になるのも分かるような気がします)
若者がテレビから離れる。残された老人達は切り捨てられる。でもテレビは若者を追い求める。なんだか訳のわからぬ時代になりました。
テレビばかりではありません。過疎化する集落の高齢化問題。東京近辺でも、国道16号線沿いの高度経済成長期に作られたベッドタウンは今、伴侶に先立たれ、子供達も離れた一人暮らしの老人が増え、その介護の問題が大きくなっています。
茶の間の真ん中にテレビが鎮座して、夕食どきの一家団欒。テレビを見て笑い合い、意見を交わしたあの時代は終わってしまったのでしょうか。
テレビ屋 関口 宏