消費税の平成、財政を放棄した平成

M. Kimiwada

君和田 正夫 
 
『一日(火)
 詔勅発布。悲壮の御声。
 日本史上空前絶後の暗黒の年あけたり。
 財産税、戦時利得税、財産増加税の輪郭発表さる。炉端その話多し。(以下略)』
 
 
 山田風太郎氏の「戦中派焼け跡日記 昭和21年」の書き出しです。といっても若い人にとっては「山田フー?」でしょう。2001年に亡くなった“異端”の小説家です。忍法物が有名ですが、私が初めて読んだ作品は「人間臨終図鑑(上・下)」でした。15歳で火あぶりの刑になった八百屋お七から始まり、121歳で亡くなった泉重千代まで923人の死を扱った、私にとっては奇想天外の書です。
 21年1月1日は天皇が神格化を否定した、いわゆる「人間宣言」の詔書が発表され、「戦後」がスタートした年と言っていいでしょう。
 「御声」に続いてすぐ税金が記されていることに、時代を問わず、職業を問わず税金が重大関心事であることを痛感します。

 
平成と共に始まった「消費税」
 

 10%への引き上げが決まった消費税は竹下登首相によって平成元年(1989年)、財政再建の一歩として創設されました。3%から5%、8%へ、そして平成30年、平成最後の年に10%への引き上げが決まり、次の時代に引き継がれることになりました。その意味で「平成とは財政再建の30年」であったはずです。ところが、です。
 「財政制度等審議会」(会長・榊原定征東レ相談役)は明快に「平成」を定義しています。審議会は毎年、予算の在り方などについて意見を具申する、財務大臣の諮問機関です。

 
政権と「フリーライダー」の責任
 

 昨年11月20日に発表された「平成31年度予算の編成等に関する建議」では、特例公債の発行額が30年度当初予算で27.6兆円に及ぶと批判したうえで次のように述べています。「特例公債」とは赤字国債のことです。
 「平成という時代はこうした厳しい財政状況を後世に押し付けてしまう格好となっている」
 「税財政運営は常に受益の拡大と負担の軽減・先送りを求めるフリーライダー(コストを負担せず利益だけを受けようとする人=筆者注)からの圧力に晒される。平成という時代は(略)受益と負担の乖離が拡大し、財政運営がこうした歪んだ圧力に抗いきれなかった時代と評価せざるを得ない」
 
 厳しい政権批判であり、フリーライダーになりがちな私たち国民批判と理解します。私たちはバラマキ、ポピュリズムを求め、時に惑わされたりしています。実は「建議」はもっと激しいことを言っています。政府系の委員会、審議会、懇談会、調査会といった組織は、おおむね政権に都合のいいことを議論する、というのが、社会の常識です。その常識が引っくり返りますので、お読みください。

 
赤字国債は大戦末期の水準
 

 「今年度末には平成2年度(1990 年度)末の5.3 倍に当たる883
兆円もの公債残高が積み上がり、一般政府債務残高は対GDP 比238%に達しようとしている。歴史的にみても第2次世界大戦末期の水準に匹敵している」
 大戦末期と言えば、日本が敗戦を目の前にして断末魔の叫びを挙げていた時代です。
 来年度予算案を見てみましょう。平成元年末に161兆円だった借金残高が、来年度末は897兆円に膨れ上がります。歳入は税収が増えて62兆4950億円を見込んでいますが、歳入に占める借金の割合は32.2%、要するに3分の1が借金ということになります。この借金は一体誰が返すのでしょう。
 
 この結果、当初予算としては初めて100兆円台(101兆円)に乗り、7年連続で過去最高になりました。
 使途は社会保障費が34.5兆円で7年連続して過去最大です。地方交付税が16兆円。これだけで予算の半分です。防衛費が初めて5兆円に乗りました。こちらも過去最大。高齢化社会で社会保障費が増え続けることは避けられません。防衛費も安倍政権のもとでは増え続けるだろうという予想されています。トランプ米大統領にすごまれて兵器を購入することは、財政健全化を考えたら、とても考えられない話です。

 
税金を使って儲ける人たち
 

 イタリア、フランスなど世界的に財政が悪化している国が増えています。日本の財政破綻は本当にないのか。消費税10%を機に税金の在り方と使い道の優先順位、そして国債について、私たち国民はもっと自身で考えてみようではありませんか。誰にでもいい顔をしたがる政府に任せると、国民負担はどんどん増え続けることでしょう。
 
 最後に、山田風太郎日記に戻ります。ここに出てくる「財産税」「戦時利得税」「財産増加税」について、当時大蔵省主税局長だった池田勇人氏(後に68代、69代、70代総理大臣)が解説書を出しています。現代風の文章に置き換えて紹介します。
 「大蔵省は戦時利得の徹底的徴収および国民の財産に対する累進税率に基づく課税により、未曾有の難局に直面しているわが国の財政経済の再建を図るため、(3税を)創設することになった(略)」
 
 戦争で儲けた人たちがいたのです。財政の支えがなければ戦争はできません。財政の柱は税金です。戦争中なのに、税金のおかげで潤った人たちがいた、と思うと不快な気持になりませんか。
 「財政再建」など絵空事であるかのように膨張し続ける予算。大笑いする人もいるでしょう、泣く人もいるでしょう。様々かもしれませんが、風太郎氏が言うように「暗黒の年あけたり」とならないことを祈っています。