未来の教科書

<志村一隆>

 共謀罪審議が続いている。反対派は歴史に学べと言い、法案が通れば言論抑圧の世の中になると言う。未来が暗くなる。なので、なんとなく反対と思っていた。そんなとき、安倍内閣の支持層は20代だという世論調査を読んだ。

 「えっ?!」抑圧的な世の中が好きなのか。それに、全体の支持率も全く下がらない。不思議に思っていた。新聞を読まないから反対議論にも触れてないだけなのか。それとも、もっと何か社会の本質が変化しているのか。素直に考えてみるべきだと思った。

営業と管理部門

 先日、とある出版社から手紙が届いた。中小企業庁の改善指導により、支払いサイト(原稿を書いてから原稿料が払われるまでの日にち)を2ヶ月から1ヶ月に短縮するので、今まで払った原稿料について遅延分の利息を払うと言う。なんと。下請法の運用厳格化らしい。

 そういえば、小さな会社をやっている友人たちが、突然連絡が来て社会保険を負担するように言われたとこぼしていた。今まではなんとなくで済んでいたのだ。長時間労働、働き方改革も然り。なんだか、労働者の味方?なんて思えてくる。

 会計や労務部門が急に厳格に動き始める姿は、ベンチャー企業の成長局面を彷彿させる。会社が大きくなると、清濁合わせ商売を成長させてきた創業メンバーと途中から入ってくる管理部門がぶつかる。

 もしかして、日本株式会社も、営業優先で業績を伸ばす時期から組織運営を優先する時期なのか。安倍政権は、戦後復興から大きくなった日本の組織固めをしているんだろうか。そう考えると、色々な施策=戦後レジームからの脱却という言葉が腑に落ちてくる。

グレイ大広 市橋立彦

ハミ出すフェイク

 日経電子版にオリックスの宮内義彦氏が「整然としたサラリーマン社会の限界」というコラムを寄せている。画一的なエリートからは新しいアイデアは生まれない。それが日本経済の停滞の原因だという。たまたま実家の本棚に「ハミ出し思考を伸ばせ」という本があった。40年前の本である。私たちはずっと同じことを言い続けている。言い続けなければ「ハミ出す人」がいないんだろう。

 安保法制、特定秘密保護法、通信傍受法、共謀罪などなど管理体制を強化する空気感で、ますますハミ出しなんて無理な気がする。いや、そんな幻想を持つのは新聞の読みすぎなのか。

 おそらく若者にとって、通信傍受法やら共謀罪なんて、もう普通の「前提」なのだろう。SNSや広告会社に自分のプライバシーはもう渡しているし、LINEで無視されたり、悪口を流されたり。何か問題が起きればネット民に丸裸にされる。つまり、彼らは、国家に監視されなくても、すでに一億総監視社会の中で生きている感覚なのかもしれない。ハミ出したいヤツは、ニセのアカウントでも作りながらハミ出していくのだろう。

分散型社会と国家

 シェアリングエコノミーやブロックチェーンがキーワードな未来で、国家は緩やかに弱体化するのではないか。メンバー全員で全取引を記録するブロックチェーンは、中央集権型の権威付けが不要だ。スマートフォン時代のメディアは、自前のメディアは持たず分散型配信で稼ぐ。さらに、スマホで国民全員が一斉投票する時代が来るかもしれない。そのとき、代議員制度は残るのか。安倍政権の強権的な姿は、こうした非中央集権・分散型の未来を否定したいのだろうか。

 「戦後復興で世界第2位の経済規模まで発展した日本社会も21世紀に入ると停滞期を迎えた。そんな時期に登場した安倍政権は、復古主義と経済政策で一時的に景気回復をし、新しいデジタル社会への基盤整備をしたが、時代の流れには逆らえず、日本は再び輝くことはなかった」未来の教科書には、安倍政権の説明がこんな風に載るのではないか。

(オマケ)

  1. 「共謀罪を巡る議論」国立国会図書館、調査及び立法考査局、長末亮、2016年9月20日:共謀罪議論のポイントが一番よくわかる論文。
  2. 加計・森友でも揺るがぬ安倍内閣支持率、朝日新聞、2017年5月29日
  3. <共謀罪について街の声を拾っている地方新聞の記事>
    「共謀罪」強行採決・・・県民から疑念の声 監視に不安、議論は尽くして、埼玉新聞、2017年5月19日(掲載された街の声8名のうち7名は60歳代以上)
    「共謀罪」に危機感「物言えぬ社会つくるな」 各地でデモ更新、東京新聞、2017年5月22日 (4名のうち3名が60代以上)
  4. 「整然としたサラリーマン社会の限界」宮内義彦氏の経営者ブログ、日本経済新聞 電子版、2017年5月26日