群像の時代とクリエイティブの自動化

Kazu Shimura

志村 一隆

 5月25日に新著『群像の時代(ポット出版)』が発売された。前回の本が、2011年発売だから、もう4年も経ってしまった。

 あの頃は、デジタル技術を使った新しいサービスをみるとなんでも面白かった。映画をスマホで見たり、好きなドラマがレコメンドされたり、そんなことに興奮していた。いま振り返ると、そうしたサービスが生まれても、結局楽しむコンテンツは、映画や小説、写真といった既存の表現フォーマットだった。つまり、それまでのコンテンツをネットの流通にのせることがイノベーションだと思っていた。

 そんな変化は、この4年でもっとラジカルになりつつある。機械が安価になったことで、生産者と消費者の枠組みが緩やかになり、表現点数が爆発的に増える。そのなかから次世代の表現フォーマットが生まれるだろう。

 つまり、いちばん面白いのはメディアでなくコンテンツの変化に注目することだ。『群像の時代』では、その辺のことを書いている。ゼヒ参考にしてほしい。購入はコチラから

群像の時代

群像の時代

 

 そして、コンテンツビジネスの未来を思い描くとき、その出発点として書いた記事がある。JB Pressにこの4月に書いたものを転載しておこう。

 20世紀初め、アメリカ東海岸でエジソンが発明した映写機を使って映像を見せるビジネスをしていた人々が、その利用料支払いを逃れるために、西海岸に移動したのがハリウッドの始まりと言われている。

 雨の少ないハリウッド地区に撮影スタジオが建てられ、映画館も作られた。いまでも、ロサンゼルスのノース・ハリウッド地区には、昔ながらの映画館が立ち並んでいる。1927年に最初のアカデミー賞が開催された「El Capitan」や、いまでは中国家電メーカーTCLの冠がついている「Chinese Theater」などなど。

 

ロサンゼルス・ハリウッドのTCLチャイニーズシアター

ロサンゼルス・ハリウッドのTCLチャイニーズシアター

 それ以来、約100年間、映画業界は著作権の複製で利潤をあげてきた。同じ作品を何度も売ることで儲ける。そのためにオリジナルの権利は守る。これがコンテンツビジネスの基本だ。

 著作権を複製する技術がフィルムだけだった頃は、そのビジネスも単純明快だった。それこそ、フィルムを持ち歩き、地方で上映会をする旅の行商人のような人もいたらしい。

 時代が下り、記録媒体がデジタル化され、ネットワークが高速化、作品もクラウドに格納されるようになった。

 記憶媒体が多様化するとともに、作品数も年々増え続ける。考えてみると、映像ビジネスとテクノロジーの関わりは、こうした増え続けるアーカイブの効率的なソリューション探しともいえる。 そして、そのソリューションコストは低下し続ける。30年前、早稲田で見たクレイジーキャッツの「無責任男シリーズ」オールナイト上映5本は1000円くらいだった(多分)。いまやフールーに月額料金1000円払えば、見切れないほどの映画作品が揃っている。

 

3種類しかないコンテンツのビジネスモデル

 

 YouTubeが成長した2006年からこの10年間、映像業界はインターネットやデジタル技術の取り込み局面にあった。著作権の保護、課金システム、配信インフラなど次々と開発されるテクノロジー。そのたびに、ビジネスの見た目は変化しているように見えた。

 しかし、よくよく考えると、コンテンツのビジネスモデルは、(1)単品、(2)セット、(3)無料の3種類しかない。
 つまり、映画館やDVDのような単品販売、ケーブルテレビのベーシックやフールーのように複数コンテンツの定額制、そして広告モデルである。

 

群像の時代とクリエイティブの自動化図2

 この観点でなにかデータがないか調べていたら、米国のとある業界団体が毎年統計をとっていた。劇場、DVD、オンラインといった区分けにこだわらず、単品売りかまとめ売りかで市場規模をまとめている。

 このデータを信じるとすれば、映像コンテンツ市場は少しだが成長している。劇場でのチケット売上やDVD市場、すなわち(1)単品販売ビジネスの縮小を(2)セット販売の成長が補っているのだ。なるほど、売れるコンテンツさえあれば、メディアのイノベーションを乗り越えれそうである。

 

群像の時代とクリエイティブの自動化図1

 

 

課題は新たなコンテンツ保護とビジネスモデルの開発

 

 この3つのビジネスモデルの発見は、クリエーターやアーティストを国家や資本家の保護から自立させた。反権力であっても、コンテンツクリエーターとして自活できる道が切り開かれたのだ。

 ただ、テクノロジーは複製技術の独占を崩し、著作権を有名無実化していく。

 作品にお金を払ってくれないような環境下で、この3つのビジネスモデルを成立させるには、アーカイブや配信のコスト、それに集金手段の多様化といった経営のリエンジニアリングしか方法がない。

 

クリエイティブの自動化

 

 それよりも、もっと面白いのはクリエイティブの機械化である。すでに、自動で記事を書く機械は米国通信社で利用されている。もっと踏み込んでセンサーが集まるデータをもとに映像や音楽を組み合わせ提示したり、古今東西の物語のプロットを分解し、気分に合せて自由自在に物語を組み合せたり。

 もし次世代コンテンツビジネスにプラットフォームが機能するなら、それは映画や音楽などの作品を集めたものでなく、プロットを集めて提示するものになるだろう。