米国テレビ放送市場の動向・ローカルメディアの再編

Kazu Shimura

Kazu Shimura

志村一隆

 先日、米国の有料放送を中心にしたメディア再編について書いた。地上波テレビについても簡単にまとめておこう。全米にテレビ局は1,784局。自分が住んでいたアトランタには11局。彼らが独立独歩で番組を作って経営が成り立てば多様な情報が世間に溢れて面白いが、そうもいかない。そこで、NBCやCBSといった人気コンテンツを作っているテレビ局から番組供給を受ける。大手テレビ局にとっても、全米で番組が流れれば、視聴者数が増え、広告売上も増える。これが放送局のネットワークの考えである。インターネットでは、各地に点在する拠点をネットワーク化する必要はないのだけれど。。

5636610087_3b39d218ff_z

 

 一番多くの放送局をネットワーク化しているのはNBCで217局。ABCやCBSも200局以上、FOXは188局。他に、CBSとTime Warnerの合弁会社CW(94局)や、スペイン語放送のUnivisionのネットワーク(44局)もある。ABCやCBSといった大手テレビ局は、自前で30局弱のテレビ局を各地に持ち、それ以外の場所は、地元のテレビ局と契約して、番組を流す。どのネットワークにも参加していない独立系テレビ局は144局。他にも、数十局をネットワークするIONのような会社もある。

 米国のテレビ局経営は、点在するテレビ局の陣取り合戦のようなものだ。少数で多くの視聴者をカバーできれば、一番効率がいい。アトランタにあるGray Televisionという会社は、テレビ局を96局保有している。彼らはネットワークを組むことはなく、傘下のテレビ局をCBSやFOXなど4つのネットワークに振り分ける。

 

新聞は新聞、テレビはテレビ

 

 Gray Televisionは19世紀末に新聞社として創業、その後テレビビジネスに進出した。その後新聞部門は売却してしまった。彼らのようにテレビの世界を選ぶ会社もいるが、新聞を選ぶローカルメディア会社もいる。ローカル局と新聞社を運営していたテキサスの中堅メディアBelo社は、2013年に傘下のローカルテレビ20局をまとめて、USA TODAYを発行するGannet社に売却してしまった。彼らは新聞社として生き延びる道を選んだ。さらに、Gannetも元々持っていたローカル局とBeloから受け継いだテレビ局43局を、まとめてTegnaという会社にした。つまり、Gannetも新聞は新聞、テレビはテレビと分けたのだ。その後、TegnaはCars.comやCareerbuilderというサイトを買収し、現在は放送とデジタルビジネスのミックスさせた経営形態となっている。

 もっと大きなところでは、マードック師匠率いるNews社は、2013年に映像と新聞・出版部門に分割された。いまは、映画・テレビ会社の21世紀FoxとWall Street JournalやロンドンのTimesなど新聞・出版部門のNews社になっている。つまり、新聞は新聞、テレビはテレビである。

29532920034_6444e052f7_o

 

 ちょっと視点が変わるが、CBSは2014年に売上の9%を稼いでいた屋外看板部門を分離した。CBSの屋外看板ビジネスは全米2位、ロンドンの二階建てバスや地下鉄広告にも進出していた。CBSも映像ビジネスに特化したのだ。

 ともかく、ビジネスな側面から見ると、新聞とテレビは年々ベクトルの違いが顕著になってきたんだろう。それは規制市場かどうか?の違いなのか。それとも、もっと本質的な違いなのだろうか。

 

新聞とテレビの分離、記号論的な意味合い

 

 かの「メディアはメッセージである」とのマクルーハン先生の言葉は、「メディアとメッセージの間に固定的な対応関係を想定」したものだったと、石田英敬氏の「大人のためのメディア論講義」にある(218頁)。英国TIMESの初期ネット版は、紙面そのままの構成だったように、紙に固定されたニュースは、そのままネットに載った。つまり、新聞は文字メディアであるように見えて、紙面=画像メディアだったのだろう。

 

7494431078_c0b3350cf3_b

 

 ところが、文字も映像も全てを0と1で数列化されると、情報は受け手の関係性でその都度、組み替えられ、抜粋され目の前に提示される。今では、ニュースはその人の好みや、スマホかパソコンかといった受け手の状況に応じてカスタマイズされる。石田先生の本では、こうした仕組みを受け手側が逆に利用し、なぜメディアがこのような提示をしているのか?といった関わり方が、デジタル時代のメディアと我々の在り方であることが主張されている。

 石田先生によれば、モノゴトを理解する時のシンボルやインデックスという記号は、同時にインターネットでも機械処理されながら提示されるという。「行く川の絶えずして」ではないが、常に組み替えられるという側面から見れば、放送後には何も残らないのテレビの特性は、デジタル的ではある。テレビ=映像として捉え直すと、デジタルの流れに乗りやすいのかもしれない。3秒後には違う情報が提示されるテレビと、同じ文章が載っている新聞では、元々そのメディア特性が違っている。そうした違いが、ネット勃興から20年で漸く明らかになってきたのだろう。もしかしたら、テレビ局と紙のないウェブだけの新聞という組み合わせはあるのかもしれない。

(参考)

  1. PBSは384局ネット。NBCとCWといった複数のネットワークに参加するテレビ局もある。そうしたテレビ局も合わせると、NBCのネットワークは223局となる。FOXには、もう一つ”My Network TV”というネットワークもある。10局を保有し、190局をネットワークする。1700局以外に「Low Power Station」というコミュニティTVも存在する。
  2. 通信・放送規制は、1934年情報通信法(Communication Acts)などに基づき、4年毎に見直されるFCCの運用によってなされる。ネットワークできるテレビ局数は、テレビ視聴世帯数等で制限される。世帯数は、ニールセン測定のDMA(Designated Market Area)に基づく。1ネットワークは全米視聴世帯の39%を超えない。但し、UHFは視聴世帯を50%としてカウント、といった規制がある。
  3. Tegnaの2015年度売上は30.5億ドル、営業利益は9.1億ドル。2013年に比べ、売上は約2倍、営業利益は3倍になった。
  4. 21世紀FOXの2016年売上は273億ドル。News社は86億ドル。

米国地上波テレビ局の売上推移