ニュースアプリの可能性とその未来

Kazu Shimura

Kazu Shimura

志村 一隆

 先日、日経CNBCというテレビチャンネルの「NEWS CORE」という番組で、ニュースアプリ「NEWS PICKS」の佐々木紀彦編集長と、その可能性について議論した。(番組ストリーミングはコチラ  10/1まで)

 ニュースアプリとは、ネット上のニュースをキュレーション(集めて、選択)し、スマホに配信するサービス(アプリ)のこと。扱うニュースカテゴリは、国際、政治からグルメ、エンタメまで多様である。興味のあるニュースを選んだり、有料版、動画など、サービスもどんどん進化している。

 ただ、新聞だって、同じ紙面で政治からライフスタイルまで扱うし、嗜好に合わせたニュース配信も、ネット上にすでにある。そして、ニュースアプリ独自のコンテンツがあるわけでもない。

 それでも、SmartNewsグノシーといったニュースアプリは、400-500万もダウンロードされている。

 これは、パソコンからスマホへの変換期におけるニュースの流通革命なのか?

 それとも、ジャーナリズムを変える可能性があるのか?

 ニュースアプリの可能性は、どこにあるのか?ちょっと考えてみたい。

 

ニュースアプリ

ニュースアプリの概要

 

急速なスマホの普及

 

 まず、スマホはどれくらい普及しているのかみてみよう。

 MM総研によれば、2014年3月末時点で、スマートフォン契約件数は、5,374万件で、ケータイ契約全体の39.8%。(ちなみに、ガラケーは6,468万件、同44.9%)双方を足すと、日本のケータイ契約は1億1842万件。

 スマートフォンとガラケーの普及割合は6対4である。東京の地下鉄で見る体感度からはやや少なく感じる。「スマホをイジって云々」なんて、やっぱり東京だけなのか。とあるECサイトでは、スマートフォンからの購入は、ほぼ関東圏のみという話を聞いたことがあるし。

 そこで、スマートフォンの地域別利用データがないか探してみた。すると、博報堂メディア環境研究所から「全国47都道府県メディア接触調査」が出てる。それをみると、ケータイネットを利用する層が多いのは、やはり関東と福岡のみであった。

 なるほど。

 全国津々浦々、誰もがスマートフォンを利用する環境ではないってことがわかる。

 ただ、そうはいっても、これからスマートフォンはどんどん普及するのではないか。いま6対4の割合が今後どのくらいのスピードで、スマートフォンに置き換わっていくのだろうか?

 たとえば、2013年ドコモが販売した端末のうち61%(1,378万台)はスマートフォンである。KDDIは79.5%(856万台)がスマートフォンだった。(ソフトバンクは不明。合計販売台数は1,418万台)ドコモとKDDI、それにソフトバンクのスマートフォン販売台数を仮に1,000万台とすると、3キャリアで、3,234万台。

 そのうち、仮に40%がガラケーからの置換需要(元々スマホを持ってる人の買替ある)だとすると、1,293万台が新規スマートフォン需要となる。

 いま、ガラケー利用件数は6,468万件だから、机上の計算では5年でガラケーは無くなる。そこまでいかなくても、年間3,000万台以上のスマートフォンが市場で売られているのは確かである。

 つまり、スマートフォン市場は急速に普及している。

 これからテレビやラジオもスマホで見たり聞いたりするかもしれない。

 この5年で全国津々浦々のメディア消費行動も変わるのではないか。

 

ニュースアプリ参入の余地

 

モバイル

スマホでニュースをチェック(バルセロナにて)

 では、スマホ向けのニュースアプリは、なぜ成長できたのであろうか。

 理由1:オリジナル記事を作っている大手新聞やテレビ局が、このスマホのニュースアプリ市場に参入しなかったから?いや、スマホ普及の拡大スピードに大手メディアが対応できなかったから?

 テクノロジーとメディアの関係は、いつの時代もイノベーティブである。過去とは非連続に、既存領域の外側で新たなサービスが始まる。

 たとえば、映像市場では、アメリカのネットフリックスが、スマホ、タブレット、それにスマートテレビに映像をいち早く配信した。その結果最大手ケーブルテレビの加入者数を5年で抜き去った。(ヤフー個人に書いたこの記事を参照してほしい。)

 グノシーは、2013年2月にサービスを公開し、わずか19ヶ月で500万件までダウンロード数が伸びた。今年6月から3ヶ月で100万件も増えている。こうした急成長は、まさにこのネットフリックス・パターンを彷彿させる。

 

アメリカであまり聞かないニュースアプリ

 

オンラインニュースと新聞社のアクセスランク

オンラインニュースと新聞社のアクセスランク(ニューヨークにて)

 ネットフリックスの話題ついでに、アメリカでニュースアプリってどうなのか?というと、これがあまり流行ってない。RSSリーダーを源流にもつキュレーションやアグリゲーション(集める)サービスはもちろんあるが、スマホ特化のスタートアップが急成長している事例はあまりない。

 理由1(推測):New York Timesなど大手新聞が早くからスマホに対応したから。2010年のスマートテレビには、すでにNew York Timesが映像配信していたし、数々発売されたタブレットやスマホのコンテンツとして必ず配信されていた。

 ニュースのオリジナル配信元が、スマホやタブレットなどの新しいデバイス進出をしていたので、スタートアップの活躍余地が少なかったのではないか。

 理由2(推測):メディアごとに主張が明確である。たとえば、PEW Research centerの2010年の調査「American spending more time following news」によると、New York Timesの読者の85%は中道とリベラル層であるが、Wall St. Journal読者のその比率は53%まで下がる。

 大手新聞の旗印が明確であれば、アメリカ人にとって自分と同じ主張(読みたい記事)を探す苦労がない。インターネット以降の情報の洪水と発見は世界共通の課題であるが、ことニュースに限れば、アメリカ人にとってキュレーションはそれほどニーズが無いのだろうか。

 

ニュースアプリの可能性

 

Write Your Story

自分の物語を語れ(ニューヨークにて)

 日本の大手新聞もスマホ向けニュースアプリを出している。しかし、インタフェース(見た目や操作性)があまり良くない。テキストが多く、読みづらく感じてしまう。

 なぜそう感じてしまうのだろうか?

 それは、画像を多用しカラフルなニュースアプリが出現したため、ニュースのインタフェース(デザイン)が相対化されたからである。新規参入がなかったら、このデザインでも読者はついていかざるを得なかっただろう。

 イノベーションが起きたとき、旧来のプレイヤーは、以前のノウハウをそのまま再現しようとする。紙面をそのままPDF化したり、そのPDFをパソコン上で紙のようにめくる機能を追加する。そんな進化方向になる。

 こんな作り手側の発想が許されるのは、競合がいないから。紙メディアには新聞社以外参入するのが難しかったのだから、作り手の発想に読者はついていかざるを得なかったのだ。

 しかし、いまやユーザーは、スマホ1台でチャット、写真撮影、添付、ゲームまで、なんでもこなす。そのときフツーに使ってる機能を当然のようにニュースアプリにも求めるだろう。

 他コンテンツと同居するデバイス環境でのニュース。そんな相対的ポジションは、機能だけでなく記事の表現方法にも影響を与えるのではないか。

たとえば、独立メディア塾2014年2月号で紹介した、米国ヤフーのスマホ向けニュースアプリ。そこで、マイヤーCEOは、スマホのニュースアプリは画像や動画表現が中心になると言っていた。

 ニュースアプリの可能性は、その相対的な環境から生まれ、それはコンテンツの透明性にこそあるのではないか。

 

ニュースの流通革命からジャーナリズム革命へ

 

What's going on? 身の廻りのニュースに関心が高まる

What’s going on? 身の廻りのニュースに関心が高まる(ニューヨークにて)

 

 さて、NEWS PICKSは、この9月からオリジナルコンテンツの制作に乗り出すという。

 これはとてもいい事だ。映画からテレビ、ケーブルテレビなどテクノロジーが進展し、メディアが成長してしばらくすると、そのメディアに適したコンテンツが確立される。連続ドラマ、バラエティなどなど。

 さきにみたネットフリックスもオリジナルドラマを制作している。プラットフォームからコンテンツ制作へという流れも、ネットフリックス・パターンの一つである。

 さらに、昨今のメディア・コンテンツの変遷を俯瞰すると、クリエイターの作品を受け身に楽しむだけじゃない関係性が作り手と受け手に生まれている。

 ニュースも同じである。今年の2月号で紹介した米国ヤフーニュース編集長は、こう言っている。「ニュースは、メディアが『これは知るべきである』と決めつけるのではなく、ユーザーが自分の知りたいことを選ぶものに変わっている」

 さらに、選ぶだけでなく読者も制作に関わる。そんな領域もますます拡大するのではないか。

 佐々木紀彦編集長は「NEWS PICKSは、ソーシャルメディアでもある」と言っていた。

 一方向的な情報の流れでなく、複雑系な思考回路をメディアとして持つ。それが、これからのニュースメディアの在り方であろう。それに、誰もが分析を加えながら広まっていくと、自然と中道な視点で議論できそう。

 オープンデータやオープンガバメントと結びつき、ニュースも参加型へ、より身近な生活視点なものになる。

 その視点こそがニュースアプリから生まれる新たなジャーナリズムのカタチではないか。