Netflix 日本進出 そのテレビ市場への影響

Kazu Shimura

Kazu Shimura

志村一隆  Netflix(ネットフリックス)が9月2日から日本でサービスを開始する。といっても、メディア業界以外の人には馴染みがないと思うので、その概要と日本のメディア業界への影響を考えてみよう。

 Netflixはインターネットで映画やテレビドラマを加入者向けに有料配信する米国企業。2000年にレンタルDVDビジネスで創業し、2007年にインターネット配信ビジネスを開始した。(この辺の詳細は、Yahooブログに書いている記事を参照してほしい→ コチラから  )定額制で見放題というビジネスモデルで世界60ヶ国に進出、会員は約6,000万件もいる(世界最大の映像配信会社である)。2014年度の売上は6,500億円、株価はこの3年で5倍になっている。

 

Netflixの革新性 – IT革命を映像市場に持ち込んだ

 

 こうしたビジネス面の成功だけでなく、インターネット以降起きているビジネスモデルの変革を映像市場で実践し成功した企業でもある。

 

赤ちゃん_テレビ

 

 彼らの特徴や革新性は下記3点。

 1)安価な利便性を提供し既存プレイヤーを代替するIT革命を映像市場で実践した。競合相手だったケーブルテレビより90%も安い値段を打ち出し、有料映像ビジネス市場のシェアを奪ってしまった。

 2)いっぽうで、家電メーカーや多チャンネル放送、それにレンタルDVDが開拓してきたホームシアターというコンセプトをインターネット的に実現した企業ともいえる。店舗や録画機といったハード資産を持たずに、家庭に映画やテレビドラマを届けている。

 3)配信会社でありながらドラマ制作にも成功している。優秀なテレビドラマを表彰する米国エミー賞ノミネート作品は通算70を超す。インターネットの普及以降、お客さんの行動データをもとに小売りが商品開発を行うというマーケティング革命が起きているが、それを映像ビジネスで実践した。ユニクロやセブンイレブンの映像ビジネス版である。

 

Netflixが見れることを打ち出すSamsungのプレゼン(CES2014)

Netflixが見れることを打ち出すSamsungのプレゼン(CES2014)

 

日本市場での課題 – 有料放送市場を狙え

 

 コンテンツもお金もある米国企業が日本市場に参入する。課題はなんだろうか?

 まず考えられるのは、テレビのインターネット接続率の低さである。インターネット対応テレビは出荷全体の50%程度。米国と同じく日本でもリモコンにNetflixボタンがついたテレビが東芝やソニーから売り出されている。(東芝のプレスリリースはコチラ  。ソニーのプレスリリースはコチラ )

 問題はそれでもテレビとインターネットが繋がらないとNetflixが見れないことだ。仮に接続率を20%とすると、実際にインターネットに接続しているテレビは現在約400万台強だろうか。今後の年間テレビ出荷台数500万台とすれば、約50万台ずつがNetflixの潜在顧客となる。それほど大きなマーケットではない。

 また、日本の有料放送事業者の多くは、すでに会員向けにインターネット配信をしている。Netflixの最初のターゲット層は、1,200万件いる有料放送加入者である。インターネット配信を躊躇していたケ−ブルテレビを尻目に、スマートフォンやタブレット、それにスマートテレビへの配信を実現、加入者を伸ばした米国での成功体験とは少し事情が違う。

 

中国メーカーTLCのスマートテレビに内蔵されているNetflix(CES2014)

中国メーカーTLCのスマートテレビに内蔵されているNetflix(CES2014)

 

Netflixの本質的影響 – テレビはライブに特化

 

 ただ、これからはスマホやタブレットで見るためだけにNetflixに契約する人が多くなっていくかもしれない。Netflixは年間4,500億円をコンテンツの権利獲得に使う。潤沢なお金を使い、米国発のオリジナルだけでなく、日本向けのコンテンツが増えてくれば、テレビの外側にコンテンツ市場が成立してしまう。いままでのインターネット配信会社は、独自コンテンツの制作にまで手が回らなかった。そのため、配信会社の成長はテレビ局が配信権利を売るかどうかにかかっていた。ところが、Netflixは投資資金とマネタイズの両方を日本に持ち込む。つまり、テレビ局がコンテンツを売る売らないに関係ない独自の回路が成立してしまう。

 そんなコンテンツ商流の変化こそNetflixがもたらす本質的な影響であろう。

 その結果、ライブで見なくてもいいコンテンツはオンデマンド(自分の好きなときに好きな場所で)で見る習慣がますます増え、その分テレビ(放送)の役割はスポーツ・報道といったライブに収斂されていくのではないか。

 2000年以降テレビはインターネットを取り込もうとしてきたが、結局テレビはテレビらしさを追求し、インターネットは新たな映像市場を作っていくのだろう。

 


(Netflix Hastings CEO、Sony Press Conference at CES2014にて)

 

 (参考)ちなみに、Netflixの米国以外の会員数は2,165万件(2015年6月末現在)。海外ビジネスの収支はいまだに赤字。ヘイスティングスCEOは2016年までに海外進出を終え、2017年に海外ビジネスの収支を均衡させるとアナリスト向け会見で述べている。また、日本は、Netflixにとって普及が”slowest”な市場になるだろうとも言っている。

2015年8月24日、日本でのサービス価格が発表された。一番安い月額料金は650円。1ドル=119円換算で5.43ドルと、米国の同等サービス7.99ドルと比べて安めの設定。ヘイスティングスCEOが2015年2Qの会見で「日本はかなりアグレッシブな価格体系になる」と述べていたが、その通りになった。(Netflixの価格体系は3プラン。650円:SD画質、950円:HD画質・同時2配信、1,450円:4K・同時4配信)

 

Netflixのドル建て価格

Netflix 料金(各国ドル建換算)

 

 (参考)米国以外に有力な有料放送事業者が存在する国に進出した事例には、英国やフランスがある。
2014年9月に進出したフランスにはCanal+という950万件以上の会員がいる衛星放送が存在し、そのCanal+のインターネット配信サービスCanalplayは60万5千件の会員がいる(2014年末現在)。米国Variety誌によれば、Netflixはそのフランスで10万件の会員獲得に2週間で成功したそうだ。(フランスの人口は6,600万。日本の半分)