2020,2025年は衰退の道標か

M. Kimiwada

M. Kimiwada

君和田 正夫

 黄金色の稲穂と真っ白いソバの花が揺れる福井県池田町は大自然に囲まれた美しい町です。にもかかわらず、東京都知事選に立候補した増田寛也氏が「編著」した『地方消滅』(中公新書)では「消滅可能性が高い」自治体に挙げられています。9月下旬、池田町に行ってきました。

 

「地方消滅」と戦う

 

 町は2005年から二桁の人口減が続いています。町の「人口ビジョン」によると、1850年に8380人だった人口が今年の8月末現在で2748人まで減ってしまいました。現在の高齢化率(65歳以上)は42.88%。日本全体の26%と比べても、かなり早いペースです。このまま行くと、2040年の総人口は1468人に。20歳から39歳の「若年女性」の人数は、なんと66人にまで落ち込んでしまう、と『地方消滅』は予測しています。

 池田町はどうなってしまうのでしょうか。町長は「合併を拒否した」ことで知られ、一年前、この欄で紹介しました。(「地方消滅、冗談でしょ」)合併は人口減の危機を隠ぺいすることにもなりますので、この町の戦いぶりに注目したいと思います。次回のこの欄でレポートする予定ですが、今回は日本自体の「危機」を考えてみます。

 人口減少は日本が抱える深刻な問題であることは誰もが知っていることです。それにもかかわらず、人口集中が続く大都市圏、とくに首都圏にいると、具体的な問題として迫ってきません。20年の東京オリンピックは、さらに人口を首都圏に集中させることになるでしょう。

 

隆盛期の1964年、衰退期の2020年

 

 4年後のオリンピックは「復興五輪」として、東日本大震災からの立ち直りを世界に訴えよう、とう狙いもあります。しかし、復興どころか日本衰退の分岐点になるかもしれない、という見方が出ています。1964年の東京オリンピックと比べると、状況が全く異なるからです。

 年配の人たちはご存知ですが、64年五輪は敗戦から立ち直った日本を世界に訴える、いい機会でした。経済は高度成長に入っていました。池田内閣の「所得倍増計画」、それに続く「岩戸景気」。経済は二桁成長が続きました。五輪に合わせて東海道新幹線が営業を開始し、経済発展のけん引力になりました。66年には原子力の営業運転も始まり、まもなく人口は一億人を突破しました。すべてに上り坂の時代に国際社会に再登場したのです。

 しかし4年後はどうでしょう。五輪の感動と涙は、日本の衰退を示す道標になるかもしれません。安倍首相は9月26日に召集された臨時国会の所信表明演説で「2020年『夢』の舞台となるわが国は、国際社会の期待に応えなければなりません」と訴え、「互いに知恵を出し合い、ともに『未来』への橋を架けようではありませんか」と締めくくりました。

 

悲し過ぎる「貧困の世襲」

 

 首相は本当に覚悟して言っているのでしょうか。覚悟の中心には人口増の施策と財政再建がなければなりません。しかしながら消費税増税は見送られました。2020年までに基礎的財政収支を黒字化する目標は、とっくに不可能になりました。

 高齢化社会の中で、人口増を達成するためには結婚・出産・育児・教育といった直接的な少子化対策だけでなく、雇用の確保・賃金格差の是正などによる「安定した家庭づくり」が前提になります。「貧困の世襲」「貧困の連鎖」という絶望的な言葉が使われる時代に入ったことを悲しみます。失業率にしても3%と言うのは統計上は「完全雇用」に近いのかもしれませんが、「同一労働同一賃金」が実行されて非正規社員の生活が改善されない限り、貧困の実態を覆い隠す役割をしている、としか思えません。

 目先の施策に予算を使う余裕はないはずです。五輪に3兆円を使えるのでしょうか。

 

「団塊の世代」が「後期高齢者」に

 

 東京五輪が終わると待ち構えているのが「2025年問題」です。1947年から1949年に生まれた「団塊の世代」が、2025年に75歳以上の「後期高齢者」になります。労働厚生省の統計によると、3年間に生まれた人は47年に267万人、48年268万人、49年269万人、計800万人に上ります。最近の出生数は100万人を少し超える程度。その2倍以上になります。

 この年代は高度成長の時も高校の受け入れ態勢が議論になり、少し前には定年退職時に膨大な退職金を払わなければならず、加えて労働力が一気に減る、というので話題を呼びました。この時は65歳まで定年延長して凌ぐことができましたが、団塊の世代は早い段階から人口構成の不均衡として、さまざまな問題を社会に突き付けていたのです。

 「2025年問題」は日本が超高齢化社会に入って、急増する医療・介護など社旗保障費の負担が、一時的ではなく永続的に続くことになります。

 

高齢化と少子化の板挟み

 

 高齢者対策と少子化対策。両方を財政の基本に据えるしか、生き残りの道はないように思えます。財政再建のために、また格差是正のために、所得税、法人税などを含めた税制全体の見直しが必要になります。「いやそんなことはない」と言う意見もあるでしょう。「外国人を積極的に受け入れれば対応できる」と言う人もいます。そうでしょうか、外国人へのヘイトスピーチや蓮舫民主党代表の二重国籍問題などを見ると、外国人の受け入れに抵抗する人が多い、と考えざるを得ません。

 2020年の東京五輪、25年の「後期高齢者問題」が、衰退の道標にならないように、高齢者対策と少子化対策をすべての政策の中の最優先課題とすべきです。