君和田 正夫
このごろ、「日本の民主主義ってどのくらいの成熟度なのだろうか」とか「成熟した民主主義はどんな姿になるのだろうか」と考えることが増えました。「私の民主主義指数」とでも言ったらいいのでしょうか、3項目について考えてみます。一つは選挙で選ばれる人の問題、一つは選挙に投票する有権者の問題、三つ目は言葉の問題です。
安倍改造内閣の顔触れを見て、二世・三世議員の多さに驚かされます。「今に始まったことではない」ということは、よく承知していますが、発足当初は19人中9人の閣僚に「3等身以内」の議員、または議員経験者がおりました。(国会議員要覧平成26年8月版)。このうち議員同士結婚している人を除くと、8人がいわゆる世襲議員ということになります。小渕優子氏が辞任しましたが、後任も世襲議員です。自民党の新役員も5人中2人。いずれの場合も占有率は40%です。
議員要覧によると、3等身以内に政治家の身内がいた、あるいはいる議員は衆議院で126人、全体480人の26%、4人に1人の割合になります。参議院では242人中46人で19%、5人に1人。衆参合わせると172人です。
「世襲議員」「二世議員」の問題については、さまざまな議論が行われてきました。中でも政治資金管理団体については実質的に非課税の相続になっているのではないか、という批判が絶えません。親が政治家であるか、ないかで、選挙を戦うための政治資金に圧倒的な格差が生じ、一般の人が立候補しにくい状況を生んでいる、という指摘です。
選挙区割りでは「一県一人別枠方式」(注)が「一票の格差」を生み、その上、世襲議員を有利にしている、という指摘もあります。この方式に対しては最高裁が21年8月30日に行われた衆議院選挙での「一票の格差」を「違憲状態」として、その原因になっている別枠方式の廃止を求めています。
元最高裁判事の福田博氏は投票価値の不平等を大きな問題として、著書「世襲政治家がなぜ生まれるのか?」(日経BP社)で次のように述べています。
「日本では投票権の平等の問題を『相対的な平等の問題』」として倍率だけを議論しているが、他のすべての国は『平均からのかい離率の問題』として議論されています」
「『相対的な平等概念』と『行政区画』を選挙区割りに使用しますから、有力議員の選挙区割りが変わることは現実に起こらないことが多い。そこでその議員が引退するときは、後継ぎとして二世、三世、四世議員がどんどん出てくる。つまり『議員の世襲化』が容易になっています」
細る人材供給源
世襲議員が優秀か否か、を論じる気はありません。おそらく一般の人の平均と似た比率で、優秀な人もそうでない人もいるのでしょう。「世襲はなぜ悪い。政治家にも職業選択の自由がある」という反論を聞きます。もちろん職業の自由は保障されなければなりませんが、問題は親族に政治家がいない一般人にとって政治参加(立候補)の壁が、世襲の人たちより相当高くなっている、と言う現実です。
日本の政治は人材の供給源が細っているのではないでしょうか。それは世襲議員以外の人を見ても感じることです。官僚出身の議員が目立ちます。出身の職業のバラエティーがどんどん乏しくなっていくように感じます。
二つ目は有権者側の問題です。世襲議員を選ぶのも有権者ですが、投票率が私の民主主義指数です。
総務省が発表している統一地方選挙の投票率によると、23年は知事選、市区町村長選、都道府県議会議員選、市区町村議議員選は軒並み50%前後に落ち込んでいます。50%を切ったのが都道府県議会選と市区町村議会選です。昭和26年の統一地方選では、市区町村議員選が91%を記録したほか、一番低かった知事選でも70%を超えていました。
選挙結果が民意の反映にならない?
もう一つ、過去の知事選投票率のベスト5とワースト5というデータもあります。それによるとベスト5はすべて昭和26年に記録されています。例えば島根県は95%でベスト5はすべて90%を超えています。
これに対して、ワースト5の一位は平成23年の埼玉で、24%です。ワースト5のうち4件が平成に入ってのものです。
私たちは民主主義について、なんとなく多数決で決める仕組みで、過半数を占めた方の意見に従う、と理解してきたのではないでしょうか。埼玉の24%を例に考えてみると、ほぼ4人に1人しか投票していないということです。当選するためには、12%を少し超えた票を取ればいい、と言うことになります。つまり8人に1人の有権者によって県政が決まる、ということになります。これは「選挙結果は民意の反映か」という深刻な問いかけに繋がっていきます。民主主義の形骸化と言っていいでしょう。
低投票率に加えて無投票当選という問題もあります。総務省の統計によると、23年の統一地方選挙では無投票で当選した議員の割合は、町村議会議員の場合、20%に上ります。都道府県議会で17%です。さすがに指定都市になるとゼロになります。
低投票率や無投票当選を考えると、地方政治に対する住民の関心が薄くなってきており、それが有権者による議会の監視を甘くする、という結果を呼んでいるのではないか、と思います。最近続く地方議会の議員の不正、不祥事はこうした背景があるためだろうと思います。
国政選挙の投票率は50%を切っていませんが、安倍内閣で2人の女性大臣が辞任したいきさつを見れば、選ぶ側にも大きな責任があることがはっきりします。
韓国より下位の民主主義指数
英国エコノミストの調査部門である「エコノミスト インテリジェンス ユニット」が世界167カ国・地域の「民主主義指数」を隔年に発表しています。選挙の過程、政府の機能、政治参加、政治文化、市民の自由の5つの分野について60項目にわたる評価をして、民主主義の成熟度をランク付けしたものです。このレポートは全体として「民主主義が淀んでいる」と指摘しています。
2012年版によると、ノルウェー、スエ―デン、アイスランドがベスト3です。日本はどうかと言うと23位です。20位の韓国、21位の米国の後塵を拝しています。中国は142位、最下位は北朝鮮、と言うことになります。
「日本は韓国より下位?」と思われる方も多いと思いますが、「政治参加」で後れを取っています。この分野は投票率や人種・宗教などによる不公平の有無、議会における女性の数などを評価対象としています。
いわゆる「一票の格差」が高等裁判所や最高裁判所で「違憲状態」あるいは「違憲」と言う判決がたびたび出ていることと、それにもかかわらず、格差是正がなされていない、といったことが影響しているのかな、と推測してみたりしています。
また調査の「市民の自由」の分野には、電子メディア、プリントメディアの「表現の自由」が入っています。この分野では日本は韓国より上位ですが、世界的に2008年以降、言論の自由が後退していると指摘しています。韓国の前サンケイ新聞ソウル支局長の在宅起訴問題などは、今後どう評価に影響するのか、また、日本の特定秘密保護法はどうなのだろう、と考えると、14年版を読みたくなります。
私が関心のある「成熟度」については、「full democracy」(条件を満たしている民主主義)の国は、25カ国しかありません。アジアでこの分類に入っている国は、韓国と日本だけです。「flawed democracy」 (欠陥のある民主主義) が54カ国、「hybrid regimes」
(混合体制) が37カ国、「authoritarian regimes」(独裁体制)が51カ国です。167カ国・地域の人口に対し、上位25カ国の人口はわずか11.3%にすぎません。
興味のある方は
Democracy index 2012
で検索してください。
対話を拒否する言葉
三つ目は言葉です。民主主義が危うくなっているのか、と思わせる言葉があります。「売国」あるいは「売国奴」です。言葉は本来の役割として、人と人のコミュニケーションを助けるもの、と理解していますが、この言葉はコミュニケーションを拒否してしまいます。使う側も相手との対話、会話をもともと望んでいないのかもしれませんが、異なる意見に耳を傾けなくなった社会は、戦前の挙国一致のような重苦しい社会になっていく恐れがあります。
朝日新聞の従軍慰安婦問題でも、この言葉を使った批判がありました。有無を言わせぬ言葉が増えてくると、日本の民主主義はもろいものなんだろう、と思わされるのです。前にも書きましたが、ネット文化の一つに匿名文化があります。これも言い放しになりがちです。対話が失われていく社会、それは民主主義からどんどん遠ざかっていく社会です。
<注>一県一人別枠方式=衆議院議員の選挙で、小選挙区の議席300のなかから、まず47都道府県に一議席ずつ「別枠」で配分し、残り253議席を人口に比例して配分する方式。完全に人口に比例させると、議席ゼロの県が生まれることになり、人口の少ない地域の意見を国政に反映させる目的で導入されたが、一票の格差の原因となった。