喋り方の癖

H.Sekiguchi

H.Sekiguchi

関口 宏

 「棚上げ会議」・・・・・ご存知ない方も多いと思いますが、これ、なかなかのアイディアです。
私の知人の会社で始めてみたそうですが、それまで型通りの意見しか出なかった会議が、俄然活気づいたというのです。
 つまり、「自分のことは棚に上げて」の会議。

何か気になることがあっても、それを発言すれば、「と、言うお前は何なんだ」と言われかねない社会。
 そこで、すべて棚上げを許して、発言の機会を与え、問題点をあぶり出すのだそうです。

 前段が長くなりましたが今回は、私のことも棚上げさせていただいて、話を進めることにいたしますので、是非ご了解のほどを。

テーマは「喋り方の癖」

 はい、はい、私は決して上手い喋り手ではないのですよ、ともう一度念を押しておきますが、仕事柄、他人様の喋り方には敏感なところがありまして、とくに、テレビに出ておいでの方々の話し方をいくつか、私なりに分類しましたので、ご参考までに。

1 「えー、あのー、連発型」

 これはもう言うまでもなく、初歩の初歩。次の言葉が出て来るまで「えー」「あのー」でつなぐ単純な喋り方。これは、連発されると、何を仰りたかったのか、ぼやけてしまいますし、「さっさと言え、さっさと!」と思われてしまう損なパターンです。

2 「あいうえお 接続型」

 これは政治家の方がよくお使いになる喋り方で、「わたくしは、あー、皆様に、いー、お願いしたく、うー、思いますので、えー,どうぞ、おー」と、言葉の最後の口の形のまま、音を出し続けながら、次の言葉を探すものですが、聞いてる側はイライラしていても、本人は上手く喋れていると思う、いたって始末に悪いパターンです。
 そういえば、「あーうー宰相」と呼ばれた方もいらっしゃいましたし、「はーはーはー、ふーふーふー」がお得意だった方もおられましたね。

3 「まぁ、要するに、結局、と言って終わらない型」

 つまり、簡単でもなければ、要してもいないし、結論が出る訳でもなく、「そろそろ終わるかな」と思わせて、まだ喋り続けるのですから、聞く側をがっかりさせるだけで、これも1、2と同じく、ただの接続詞でしかないのでしょう。

4 「そうですね、始動型」

 これはどんな質問にも、「そうですね」と言ってからでないと、エンジンがかからないタイプで、評論家の方や、最近ではスポーツ選手に多くみられるようになりました。しかしこれも上手く答えているようにみえて、実は、まったく意味のない会話になったりしますから要注意です。

「見事な勝利、おめでとうございます」
「そうですね、ありがとうございます」
「最後の一球はスライダーですか?」
「そうですね、フォークです」
「・・・・・!?・・・・・」

 この「そうですね」は一瞬、相手に同意しているようにみえるので、いま流行りの「受け言葉」になっているのでしょうが、実は口を開くためだけの言葉と化していて、聞く側にとっては耳障りになってきています。

5 「と、いうことです、症候群型」

 テレビを見ていますと、相変わらず「と、いうことです」が連発されていて、これにつきましては、このコラム欄で、昨年の6月ご紹介しましたので、今回は省きますが、若きテレビ屋諸君には気づいてほしい「喋り癖」になっています。
(カテゴリー・コラムに、「常套句」として、まだ残っております)

6 「丁寧語、無理使い型」

 誰でも、人様に気遣う気持ちは大切ですが、それが高じて、「悪く思われないように」の神経が過敏になりますと、使わないでもいい丁寧語が多くなり、自分で舌を噛むようなことにもなりかねません。そもそも丁寧語とは、気持ちが伴わないと伝わらないもので、「無理しなくてもいいのに」と思わされる事しばしばです。
「○○していただいて」「△△なさっていらっしゃる」「□□とおっしゃっておられる」・・・・・読むだけでも噛みそうですね。

 そして、「野良犬が亡くなりました」「窃盗団の方々が」・・・・・????
これ、打ち合わせの段階でしたから笑い話ですみましたが、こんなことも起こりかねない時代になりました。

最後に7 「言い切り型」

 最近、「粛々」という言葉が話題になりましたが、その他に、「しっかり!」とか「はっきり!」とか「きっちり!」という言葉を、よく耳にするようになったと思いませんか。
とくに政府関係者の答弁によく使われるようになったと感じるのですが、国民に向けて、それこそはっきり言い切った方が良いという判断があったのでしょうか。国民も、はっきりしてくれたほうが分かりやすいと思うのかもしれません。
 しかし今、この国が抱える様々な問題は、はたして、「しっかり」「はっきり」「きっちり」と言える事なのでしょうか。
「言い切っちゃって、いいのかなー」と、テレビを見ていて、感じることが多いこの頃です。

テレビ屋  関口 宏