志村一隆
上海に来ています。暑い。とにかく暑い。昼間は外にいれません。夕方は毎日にわか雨。そんななか、巨大な会場でMWC上海というモバイル業界のイベントが開かれています。今回の話題は「5G」。5Gとは4Gの次の技術で、今よりケータイの回線速度が100倍早くなるそうです。日本では東京五輪に合わせ2020年に開始予定です。
5Gになると、スマホで高精細映像もカクカクせずに見られる、といったことは想像つきます。ただ、もっと違った、想像もつかない映像やメディアが出て来そうです。
たとえば、5Gになれば、VR(Virtual Reality:仮想現実)のようなサービスが気軽に楽しめます。VRはスクリーンで2次元の映像を見るのとは違い、ヘッドセットという外の空間が見えない状態で楽しむ映像体験です。つまり、わたしたちが普通にしているスクリーンを見るのと違う行為です。
あるトークセッションでは「VRは最後のスクリーンメディアになる」と言った人もいました。VRの後は、コンタクレンズやメガネに映像が投射される。そんなスクリーンレスな時代の入り口としてVRは位置付けられています。
VR視聴機器を開発する台湾メーカーHTCのAlvin Wang氏はトークセッションで「バーチャルこそが現実だ」と言っていました。そもそも、我々の世界も脳が作り上げているのだから、というのがその理由です。デジタル技術はそんな脳の働きの一部を再現するレベルに達しつつあるのでしょう。
10年前に「セカンドライフ」というサービスが流行りました。インターネット上でお店を開いたり、土地を買ったりして遊ぶサービスです。しかし、だんだんと、向こう側の世界が「セカンド」でなく「ファースト」と感じる人が増えるのでしょう。
MWC上海の会場には、親子連れがたくさん来てました。お目当ては、VRゲーム。HTCが広大な会場いっぱいにVRゲームのブースを出していました。戦闘ゲーム、カーレース、サッカー、それに勉強アプリもありました。たしか、幼児にVRを見せると目に悪影響があると言われていたと思うのですが、そんなことはまったくお構いなしです。
この光景を見て「スゴイ!」と思いました。子どものうちから、VRを体験する世代。彼らは消費者としても開発者としても、もう我々とは違う世界を切り開くに違いありません。トークセッションで「ブラウザを開いてコンテンツを見るインターネットはもう終わる」と語っている人がいました。今日、会場にいた子どもたちにとって、インターネットは、わざわざ起動するものではありません。ヘッドセットを被れば、そのまま現実として感じるものなのです。
そんなバーチャルな世界では、何もかもが取り替え可能です。来年春に公開されるスピルバーグの映画「Ready Player One」は、コンテナに住みながらVRを利用して、夜景の綺麗な部屋や旅行に行く若者をテーマにしています。
全てが自分の好きなモノに交換できる世界。それを悪用すれば、フェイクニュースになります。良い方向にも使うことができます。スペインの”BeAnother Lab”のGender Swapという作品は、VRを使って男性が女性、女性が男性のカラダを体験するというものです。VRを通して、他人の身に立つことを経験すれば、いがみ合いも減るでしょう。
2020年といえば、もう3年後。その頃には5Gが始まり、VRがもっと普通なことになる。iPhoneが発売された2007年に生まれた子どもたちが中学生になるのが2020年。彼らが生み出すメディアやコンテンツはいまでは想像つかないものでしょう。そんなことを実感したMWC上海でした。(つづく)