公益法人制度改革とメディアへの期待

H. Kaitou

H. Kaitou

海東 英和

 2020年夏。今まさに東京オリンピックが開会の時を迎えようとしている。今回のオリンピックは、選手を送り出す公益法人にとって記念すべき大会になった。そして日本の民主主義の成熟とハイテクが自然崇拝と共存する姿に、多くの人と国が21世紀の希望を見出すだろう。

 ソチの冬季オリンピックから東京までの6年間に、オリンピック種目を統括する競技団体(注)は進化を遂げ、充実した選手強化・ジュニア育成を行い、満を持してこの日を迎えた。それは公益法人制度改革によって、主務官庁の強い影響下から脱し、法人自らのガバナンスによる闊達な運営と透明化が可能になった成果だ。寄付に対する税制も変わり、支援者からの寄附が増え、財政力も強固になった。あたかもオセロの角の黒が白に反転して次々と好転していく如き展開を経験した。

 2009年11月に政府支出の内容を公開の場で議論した事業仕分けで、文科省や日本オリンピック委員会(JOC)の補助金配分について「マイナー競技もきちんと評価して補助金を交付しているか」と活動資金の不足を心配された法人もあった。しかし新しい公益法人としてのメリットを活かし、熱心なファンドレイジング(寄付・会費などによる資金調達)で国の補助金に頼らなくても活動できる堂々の体力を獲得した。海外遠征も選手・コーチはじめチームスタッフの費用まで支弁できるようになり、選手の受けいれや途上国での指導援助に関しては、最も理解ある国の一つと云われるまでになった。

 そして海外選手団・応援団のサポートはじめ、殆どの「おもてなし」の場面は、公益法人やNPO等の関係者が支えている。自らの意思で大会に貢献する歓びが真心のサービスを引き立てており、開会前から評判が高い。今や、民間非営利活動は、夢のある職業分野としても定着し、生き生きと働く若者の姿が社会を元気づけている。希望が持てるようになって出生率も上向きに転じたそうだ。

 これらには、メディアの多様化が大きく貢献した。インターネットとテレビと携帯電話が融合し、国民はテレビや大手新聞のマスコミ情報と併行して、様々なデータやコラムを楽しむようになった。公益法人関係の情報も増えた。スポーツ番組ではテレビのリモコンのd(データ)ボタンを押せば、そのスポーツの公益法人について事業計画や予算等の詳細情報が見られる。公益法人への寄附ガイドも大変分かりやすく、組織運営の透明性や寄附者の満足度が5つ星評価されていてとても参考になる。テレビからリモコン操作で寄附ができ、所得控除・税額控除の案内も親切になった。寄附を楽しむ社会は、公益活動が増進する寄附システムを、各種デジタルメディアがコンテンツの中に組み込んだことに始まり、それが社会のシステムとなり定着した。

 テレビ番組や新聞も変わった。公益法人が仲介し、記者会見や取材の機会は開かれ、独立系の専門性の高い中小メディアが存在感を示すようになった。何といっても署名記事が多くなった。スポーツ番組では綿密な準備をする解説者が増え、マラソンなどは解説者によってチャンネルを選ぶようになった。私は陸上競技では、増田明美さんと為末大さんの実況解説が気に入っている。仲間が集まってきた。さあ、東京オリンピックの開会式の始まりだ。

 

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 お察しの通り、以上は私の夢物語です。公益法人制度がうまく利用され、2020年にはこうなって欲しいという願いを込めました。しかし公益法人自身にまだまだ温度差があり、制度改革がもたらす夢膨らむ未来像に関心が高くないようです。

 

H.Kaitou

H.Kaitou

 

 明治29年以来110年ぶりに改正された民法の公益法人制度は、非営利活動分野に結社の自由を実現しました。これまでは主務官庁の意向が法人設立から人事・運営に至るまで大きな影響を及ぼしてきたのです。原子力発電所の安全性に警鐘を鳴らす公益法人などは、お上の意向に沿わないため生まれることができなかったし、天下り人事と高額な補助金や委託費によるコントロールの影響で、主務官庁の顔色を伺う癖が抜けなかったのです。

 今度の改正で、一般財団法人および一般社団法人の設立は登記で可能となりました。謎だった設立要件も財団が基本財産300万円以上、社団は志ある2人以上と法で定められました。そして公益性の認定は、法律で示された芸術、文化、環境、福祉、労働問題、医療、学術研究等23事業で公益認定申請をし、民間人で組織された合議制機関で認められれば行政手続きを経て公益法人となり、税の優遇も受けられるのです。公益性の判断が官僚の手から民間人の手に委ねられたことは大変革です。税の優遇という方法で国の手を通さなくても、民の力で公益サービスを増進していける。この民主主義の根幹に関わる制度改革が真価を発揮したのは、国難ともいえる東日本大震災でした。

 大災害に際しての公益法人とNPO等の活躍は、極めて具体的で迅速で効果的でした。とくに初動段階では、判断の速さが際立ちました。あまねく平等を追わず、優先順位をつけ、自らの資源を最大限に活かし、阪神大震災の折には越えられなかった旧主務官庁の枠を超えた支援が展開されました。例えばヤマト福祉財団(公益財団)は、ヤマト運輸から荷物1つにつき10円を寄附され、なんと130億円が集まりました。それを元手に、障害者福祉を主とする定款を変更して、南三陸の漁港施設の地元負担分を全額負担しました。そして秋のサケ漁に間に合わせたのです。

 また、カゴメ、カルビー、ロート製薬、の3株式会社が合同で「みちのく未来基金」という一般財団法人を設立し、速やかに公益財団法人の認定を受けて被災した子どもたちへの奨学基金を運営されています。1500を越える公益法人等が自らの人と資金と専門的経験を投入して果敢に支援活動を展開しました。NPO等とのネットワークをフルに活かし圧倒的実行力を示した日本財団(公益財団)や数千のご遺体を弔い被災者の悲しみに寄り添った本願寺維持財団(一般財団)など枚挙に暇がありません。「民による公益の増進」は、「一灯照隅、万灯照国」の教えの実践であることに気づきました。

 メディアにおいても、もっとこの制度改革の意図するところを理解し、広く国民に知らせて欲しいと願っています。また、メディア自身も公益法人制度を活用し、自主独立のパブリックなサービス提供者となってもらいたい。寄附等で運営基盤を強くし、特定のスポンサーの呪縛を離れ自由に表現・報道してほしいと願います。ジャーナリストはパブリックな使命を担っているのですから。

 多くの方々に民の立場で公益を増進する主体者になってほしい。更に多くの方に寄附者・支援者になってほしい。そして、メディアには、それによってもたらされる民主主義の成長と歓びを表現して頂きたい。さあ、夢のもてる話から始めましょう。

 

(注)

(公益財団法人)

日本オリンピック連盟、日本体育協会、日本陸上競技連盟、日本体操協会、日本水泳連盟、日本サッカー協会、日本バレーボール協会、日本卓球協会、日本バスケットボール協会、日本ラグビーフットボール協会、日本ハンドボール協会、日本レスリング協会、日本セーリング連盟、日本ゴルフ協会、全日本柔道連盟

(公益社団法人)

日本自転車競技連盟、日本トライアスロン連合、日本馬術連盟、日本近代五種協会、日本ホッケー協会、日本フェンシング協会、日本ボート協会、日本カヌー連盟、全日本テコンドー協会

(一般社団法人)

日本ウェイトリフティング協会、日本ボクシング連盟

(その他)

日本ビーチバレー連盟