未来への渇望

K.Nakaya

中矢 健太

 自分の描く未来に向かって努力している、大切な親友がいる。

 彼と出会ったのは、中学1年のときだった。当時は話をしたこともなかった。顔がいかつい上に、近寄りがたい空気を醸し出していた。私はビビってしまったのだ。クラスも違っていた。私が聞いていたのは、彼がバスケットボールで推薦入学してきた、ということだけだった。

 しかし、中3の初めに、彼は同級生からのいじめに遭った。彼は女の子とメールをしていたが、実はそのメールは、同級生の男子がなりすました偽物だったのだ。中3になり、バスケがうまく、しかもモテることから反感を買ったのだろう。あまりにも汚いやり口を人づてに聞いて、友達ではなかった私でも腹が立った。

 メールの内容をすべて公開された。辱めを受けた彼のそばには誰も近寄らなかった。そんな時、初めて話したのだった。なぜ話そうと思ったのか、何を話したのかはあまり覚えていないが、外見はいかついのに、話してみると案外いいヤツだったことを覚えている。私がラグビー部で、互いにハードな部活をやっていたこともあり、それ以来私たちは急速に仲良くなった。

 その頃から彼は、1つの夢を公言していた。「俺なぁ、バスケのプロなりたいねん」それは今でも変わらない。大学では体育会のバスケ部に所属していたが、半年前に辞め、今ではプロの下部組織で強化選手として契約している。だが、その契約もいつまで続くかわからないことから、日本全国のプロチームのトライアウトに参加している。他にも、北海道まで単身で足を運び、ドリブルのうまい選手から手ほどきを受けたり、自宅から2時間かけて、自身のトレーナーの元でトレーニングを積んだり。さらにはバスケットボールの本場アメリカに武者修行を敢行したりしている。ちなみに彼は英語が話せない。ここまで彼を動かすのは、自身の描く未来像への渇望だろう。そのための努力は怠らない。妥協を許さないその姿勢にいつも刺激を受ける。

 私が東京の大学に進学したので、地元神戸の彼とは離れ離れになってしまったが、泊まりに来たり、一緒に風呂に入ったりと、まるで遠距離恋愛しているかのようだ。先日も東京で行われたトライアウトのために、私の家に泊まりに来た。その時着ていた彼のTシャツがダサくて、おもわずツッコむと「俺の中に恥ずかしさなんて概念もうないわ!」と豪語していた。渡米した際に、思ったことをストレートに表現し、自分のしたいようにするという現地の自由な文化に感化されたそうだ。これを聞いた時は、さすがに付き合いの長い私も苦笑いしてしまった。でも、自分の未来や夢に貪欲で、なおかつそれを恥ずかしいなど思わず公言する彼を私は尊敬している。

 そうして2ヶ月前、彼は岡山県のチームとプロ契約を交わした。ついに長年の夢を叶えたのだ。だが、彼は満足していない。より強いチームへの移籍を求め、既に交渉を始めているそうだ。「もっと上手くなりたい」「もっと強くなりたい」未来への気持ちが彼を動かす。私も自信を持って、自分の描く未来や夢を公言できる人でありたい。