マスメディアからオンラインへ

M.Toizumi

樋泉 実          
(北海道テレビ放送取締役相談役)

 「asahi.com」などのネットメディアが日本に登場して4半世紀。スマホの登場で生活者の情報空間は、従来のマスメディアからオンラインが中心に移り変わっている状況を毎日実感している。最近は更に変化して、生活者はネットから取る情報とマスメディアから得る情報を、上手に切り分け、すり合わせをし、自ら必要とする情報にたどり着いているのではないか。マスメディアへの視点が変化してきた。そう感じることが多い。それゆえ逆に、「信頼できる情報」の価値がますます高まっていると思う。
 
地域医療番組・信頼情報への強い期待
 
 当社は2009年から、地域医療と向き合った「医TV」を放送している(毎週日曜16:25~16:30)。
 

 
 この番組は来年で10年目を迎える。北海道は国土の22%を占める。九州と四国に山口県、広島県の2県を加えた広さだ。この広い北海道では、地域医療の課題、特に医療情報の地域格差は大きなテーマである。番組で紹介しているのは北海道大学や札幌医科大学など先端医療の紹介が主ではあるが、「インフルエンザ」などの季節性の情報、高血圧をはじめとする地域の健康づくりの情報など、多岐にわたる情報を提供している。録画率も高く、「家庭の医学」の映像版として活用されている。
 当然、放送だけでなく、多彩なネット展開も行っている。
番組ホームページには過去に放送された番組アーカイブが用意されている(https://www.htb.co.jp/med/)
また、そのほかの自社制作番組であつかった医療・健康関係の情報を加えて再編集した医療情報専門サイト「医Pedia」(https://www.htb.co.jp/ipedia/)を開設している。
さらに、テレビ放送の最新技術ハイブリッドキャストを使ったサービスも24時間展開している(https://www.htb.co.jp/hybridcast/med/)。
スマホには、番組で取り上げた医療機関に関する詳しい情報、地図や案内が表示される仕組みもある。
 放送の翌週になると、番組を見た視聴者が道内各地区からその病院を訪ねるケースも多いと聞く。放送が仲介役を果たしていることになる。そこには、放送への強い信頼感がある。
 
地元制作の情報番組、視聴率上がる
 
 このところ当社だけでなく、地元各局の自社制作の情報番組の視聴率が上がっている。ネットにはない、地域の日常の情報。安全・安心情報への関心が高まってきたと感じている。
 

月〜金あさ6:00-/土あさ6:30- HTB


 
アジアに発信、インバウンド急増
 
 アジアを中心に海外発信を開始して今年で22年目を迎える。現在は「LOVE HOKKAIDO」のタイトルで、台湾・中国本土・ハワイ・タイなどで毎週放送している。
 

土あさ9:50- HTB


 
 SNSなども駆使している。視聴可能人口は約6億人。その結果、インバウンドが急増した。今や観光産業が地域ナンバーワンの産業になり、生産波及効果も2兆円超、地域経済を支えている。「継続は力」を改めて実感している。
 
地域情報衰退の米国に学ぶ
 
 日本は時差がなく山が多かったため、「地上波」が普及した世界でも稀有な国である。地デジでさらに「移動体」へのテレビ放送やネットとの接続も可能となった。全ての家庭に届く基幹情報基盤である。NHKと民放の2元体制で、安全・安心な情報源、地域情報が全国に行き渡り、人々が共有できる情報空間を作り上げた。アメリカではメディアのデジタル化により地域を支える地方紙が衰退し、地域課題を掬い取る情報基盤がなくなった。その結果、情報の分断化と孤立が一挙に進んだと感じる。その状況を見るにつけ、我々地域メディアの責務は大きいと思う。我々の原点は「地域」であり「信頼性」そして「継続する力」である。放送局も「オンライン情報空間」をもっと活用していけばいいと思う。まだまだやらなければならない事が、山ほどある。生活者はそれを待っている。日本の放送制度が築きあげた多様性や地域性が担保された情報空間を守り、更に進化させるためにも放送の価値や役割を広げていかなくてはならないと思う。