志村 一隆
10万人。アメリカでジャーナリズムに関わる人たちの数だ。テレビのレポーターやキャスターが57,600人。新聞記者は36,700名。
ジャーナリストを生み出す大学の新聞学科(Journalism School)は全米で512校あり、新聞社は1,400社ある(と言われている)。ただし、新聞記者は2000-2013年で18,400名減少。レポーターは今後10年で7,200名減ると予測されている。
ジャーナリストとして暮らしていくにはどうしたらいいの?
先月書いたニュースアプリのようなキュレーションや市民ジャーナリズム、それにオープンデータを利用するデータジャーナリズム、ドローン・ジャーナリズムなんてのも紹介した。テクノロジーを利用するニュースメディアのカタチは出来上がりつつある。
広告収益が全体の80%、それに購読料が20%で運営される典型的なメディアとは違う経営モデルもなんとか可能になっている。過去15年、アメリカの新聞社は、創業家から新たな資本家にオーナーが変わった。企業運営のハコも整いつつある。
そこで、最後に残るのは、個人がジャーナリストとしてどうやって暮らしていけばいいの?という問題だ。ソーシャルメディアを利用したニュースも面白いが、プロフェッショナルなジャーナリストの書いた記事へのニーズも廃れることはないだろう。
骨太の調査報道ほど、費用はかさむのに、広告売上の見込めないコンテンツはない。
これからジャーナリストを目指すには、やはりどこかと契約するのか?個人で発信すればいいのか?
NPOで運営するというカタチ
そのひとつの解決策が、コンテンツと資本主義を切り離す手法。たとえば、寄付金を集めて、コンテンツ制作資金を賄うモデルである。
アメリカには財団が少なくとも12万あり、その総資産は5,800億ドルを超えてている(らしい)。
これらの財団のなかに、ジャーナリズムは民主主義の礎という考えのもとに調査報道に寄付をする財団がある。
たとえば、Knight FoundationやEthics and Excellence in Journalism Foundationといった財団は、調査報道のNPO団体に寄付をする。
その代表例が2007年に設立されたPro Publicaである。彼らは設立以来7年間で6,148万ドルの寄付を貰っている。2013年は1,36o万ドルの寄付。オンラインで受け付ける寄付金も21.5万ドル集めた。記事を他メディアに売ったり、広告売上は、15.3万ドルに過ぎない。ProPublicaのページビューは月間133万件。ユニークビジター数は56.1万人だ。
年間13億円の予算で、雇っている記者は62名。その平均給与は12.6万ドル(約1,200万円)である。
記事を売ったり広告を集めなくても、骨太の調査報道と生活が両立している。
ただ、Pro Publicaは特殊事例である。いや、3年前までは。
というのも、数年前まで老舗のNPO団体の記者給与は3万ドルぐらいだった。それが、最近2倍に増えているところもある。
たとえば、1977年カリフォルニア州で創設されたCenter for Investigate Report。社員の平均給与は、この5年で3.1万ドルから6.8万ドルに増えた。その原資となる寄付金のここ3年間(2011-2013年)合計額は、それまでの3年間の3倍にも増えている。
つまり、Pro Publicaの成功なのか、調査報道の灯火を消さないためなのか、NPOモデルのジャーナリズムというカタチは、いま旬である。
データ参照:
アメリカ労働統計局:ニュースレポーター数
American Society of News Editors :新聞記者数
Educational News:新聞学科数