ちきゅうすくい -「掬う」と「救う」の新たなテキ屋スタイル

ちきゅうすくい 神作光孝

M. Kansaku

神作 光孝

 僕は44才。既婚者です。12年間経営していたバーを閉店し、各地のイベントで「ちきゅうすくい」という出し物をやって、暮らしています。

 どんなものかというと、直径5センチほどのウレタン製の地球儀のボールを、水を張った金ダライに浮かべて、金魚すくいでよく使われている「ポイ」ですくう遊びです。そう。「掬う」と「救う」を掛けたくだらない駄洒落です。

 1回300円。最高3個、すくえなくても1個はちきゅうが貰える仕組みです。洒落で始めた「ちきゅうすくい」ですが、イベントに出店するたびに、人気なのです。一年間は、バー経営と並行でやっていたのですが、2年前からは、「ちきゅうすくい」一本でやっています。

ちきゅうすくい 神作光孝

 

「ちきゅうすくい」で気づく家族のカタチ

 

 出店会場に着くと、僕はいつも地面にゴザを敷いて座ってみます。子どもたちの目線で会場を眺め、金ダライやノボリなど道具を設営していきます。いちばんのお客さんは子どもたちですから、彼らの目線を意識しているのです。

 何気なく、そしてかなり意識的に「ちきゅうすくい」の存在を、子どもたちだけにアピールすると、感度の高い子供達は遠くからでも、すぐに怪しい「ちきゅうすくい」を発見します。ここから僕とその子とのジャムセッションが始まります。いわば「ちきゅうをすくう」為の共同作業です。

 子供と目と目が合った瞬間に、僕はまず小さく頷きます。発見してくれた子どもたちに、「間違ってない。あってるよ。安心だよ。」とメッセージを送るのです。そうすると、子どもは、たいてい『ねぇー、あれ、なーに?ねぇー、あれ、なーに?』とまったく「ちきゅうすくい」に気づいていない親の関心をひきます。出店の前に連れてこられた親と子ども。ここまで来たら、説明は要りません。なぜなら、「ちきゅうすくい」ですから。ちきゅうをすくって悪いことはありません。

 強引に連れて来られた親はおそらく、「地球をすくう」んであれば、「後々勉強にもなるし悪くないな」と思うんでしょう。一人また一人と列の長さが増えていくのです。

 なかには、「あなた、いつも失くすでしょ!地球なんてすくって、その後どうすんの!」と真顔で叱る母親もいますし、ちょっとやるかやらないか悩んでる親御さんには「是非お子さんの地球をすくう姿を目に焼き付けてください!家族の歴史的瞬間ですからね!中々地球すくう姿見れないですよ!」と一声掛けると、たいてい財布の口が緩くなります。

 いままでの「ちきゅうすくい」最高記録は小学5年生の男の子の「48ちきゅう」です。この記録は僕でも不可能かもしれません。この子が来たときは、300円でそのままやってもらいました。

 水の上でぐるぐる回る地球を通して、お客さんを眺めると、家族や親子のカタチが浮かび上がってきます。

ちきゅうすくい 神作光孝

 

シャレがわかる関西のお客さん

 

 出店するイベントの場所は、関東近県から京都や沖縄まで津々浦々出没しています。人数は小さな地元の朝市だと1日で10人位。大規模なフェスだと1日中列が途絶えなく、トイレ休憩も行けない位すくってくれるビッグバンが起こります。

 ゆったりとしてる時は一人一人デモンストレーションして見せますが、長蛇の列が並んだ時は僕の周りに輪になって貰ってやります。子供も親も僕の一挙手一投足を食い入る様に見ます。

 軽く3個すくって見せると、皆さん安堵の表情を浮かべます。こんなの簡単、誰でも3個すくえるでしょと思うんでしょうがそうは問屋が卸しません。勢いよくポイを水に入れたら一瞬で破れますし、1個すくえると油断して2個目は手際が荒くなります。

 実はかなりメンタルに左右される遊びなんです。逆に慎重に慎重に集中力を切らさない子は3個すくえます。それと友達同士や兄弟の複数で来た場合は「誰が最初にやる?」と聞くと勢いよく「やりたい!やりたい!」って言う子と「どうぞ、どうぞ、どうぞ。」って言う子に分かれます。意外と長男は弟や妹にやらせて自分は最後にやる子が多い気がします。長男としてのプライドがあるんでしょうね。

 それと地域によって、家族の様子も変わってきます。。関東は子供達がやりたいと言っても、親が洒落が通じないのか中々すくわせようとしないんですが、関西は逆です。子供がそんなにすくう気がなくても、「なんやこれ。オモロイな」と、親の方がノリノリで無理やり子供にすくわせようとする謎の逆転現象が起きます。

 たまにお祭りに地元の議員さんが秘書を連れて挨拶回りをする光景を目にします。その時に周りのギャラリーが多かったり、メディアの取材とかが来てるとオーバーアクションで積極的にすくってくれますが、逆にそういう事がないと素通りか苦笑して終わります。先日も地元の市長が来てたので『市長、ちきゅうすくって行きませんか?』と声を掛けたんですが苦笑いされて通り過ぎて行きました。

 これはまだ「ちきゅうすくい」が市長がやってみるレベルに達してないって事だと思い、日々精進を続けていく所存です。いつかは総理大臣にすくって貰いたいですね。

 

ちきゅうすくい 沖縄 鶴英樹

沖縄で「ちきゅうすくい」のれん分けをしてきた。右)沖縄支部:鶴英樹さん

 

「ちきゅうすくい」地方支部募集

 

 救うと掬うの語呂合わせで始めた商売ですが、水に浮いたちきゅうを掬ってもらうことで、小さな子どもたちが、少しでもちきゅうに関心を持ってもらえていると実感しています。そこで、この「ちきゅうすくい」運動を広めようと、都道府県に一人ずつ「ちきゅうすくい屋」をやってくれる仲間を募集してみました。

 すると、鹿児島県と栃木県から応募があり、現在2箇所でやってもらっております。鹿児島の人はご夫婦で有機野菜を作ってまして、栃木の人はフェアトレードのお店をやってます。二人共本業のイベント出店の傍らで「ちきゅうすくい」も一緒に出してくれてます。フェアトレードや有機栽培の商品の横に、ちきゅうすくいを置いておくと、お客さんとのいい話のきっかけになるそうです。何しろ、どちらもちきゅうを救ってくれる活動ですから。

 また、この12月に沖縄で開かれた「オキナワマルクト」というイベントに出店したのをきっかけに、沖縄支部ができました。これで3箇所です。

 まだまだ少ないですが、もっと増えれば世の中がちょっとざわつくんじゃないかと密かに思ってます。何十年後、よぼよぼの爺ちゃんになったわたしが「ちきゅうすくい」を出店ていると、「おい、ジジイ!ちきゅうすくいの偽物だろ!」と子供たちに石を投げられる。それくらい、広まっていたら、もう死んでも良いかなと思ってます。

西千葉「呼吸」

 

すくいすくわれる人生

 

 元々僕は千葉大学のキャンパスのあるJR西千葉駅近辺で、「呼吸」というヘンテコな呑み屋を、12年間営んでおりました。考えてみれば、バーでもちきゅうすくいでも色々な人を見て来ました。

 「呼吸」の時はずっと同じ場所に無呼吸状態で12年居続けたのに、「ちきゅうすくい」では常に地球と共にグルグルどこにも留まらず過呼吸気味に回り続けております。

 そして、ちきゅうをすくう子ども達の姿を見てると、この混沌とした世界をすくってくれる希望が見えてきたりもします。少し大袈裟ですが、小さなたらいでぐるぐる回っている「ちきゅうくい」を広めることで、「地球がすくわれる」きっかけになればと、切に願ってます。

 【ぐるぐる まわる ちきゅうを すくうよ! ちきゅうすくいは いっかい さんびゃくえん!】

 『あなたも一緒に地球をすくってみませんか?』

ちきゅうすくい 神作光孝