コスタリカへ!40歳の決断

K. Sekine

K. Sekine

関根 健次(ユナイテッドピープル代表)

 しばらくの間、コスタリカに住もう。そう思い立って家族4人で日本を出発したのは今年の4月下旬のことです。この旅は、長年の夢でした。40歳になったら1年間かけて世界を一周しながら、世界を知ろうというのが20代の頃からの長年の夢だったのです。人生が80年だとすると、ちょうど折り返し地点である40歳に、その後の40年間の挑戦のために、じっくりと世界を知りつつ自分の考えを深める学びの時間を作る考えでした。

 若い時に立てた計画だったので、その後変更した点がいくつかあります。まず、結婚して2人の子どもが出来たことで、家族で出発することになったことです。もう一つは、世界を旅し続けるのではなく、どこか気に入った場所で暮らそうと決めたことでした。そのどこかが中米コスタリカでした。

首都サンホセでコスタリカ国旗を広げる男性

首都サンホセでコスタリカ国旗を広げる男性

 

 数年前からコスタリカで暮らしている友人にお世話になって、家が決まり暮らし始めて数ヶ月。12歳の長女と9歳の長男の2人は、スペイン語がほとんどできないのですが、無謀にも公立の小学校に放り込んでしまいました。彼らにとっては大変なハンディキャップの中でサバイバル学校生活が続いています。親としてはこういう逆境を何とか乗り越え、世界のどこに行っても暮らしていけるタフさを身に着けてほしいんです。さて、なんとかこちらの生活が落ち着いてきたところで、コスタリカを選んだ理由や実際に住んでみて感じたことを途中報告します。

 

「兵士よりも多くの教師を」

 

 なぜコスタリカを選んだのか?理由はいくつも挙げられますが、コスタリカが平和と環境を重んじる21世紀の理想的国家ではないかと思ったからです。コスタリカは1949年に制定された憲法で常備軍を廃止しました。同じく軍隊を持たないという平和憲法を持つ日本と異なるのは、本当に軍隊が存在せず、警察だけで国を守っていることです。また、日本のように米軍基地など他国軍の基地も存在しません。名実ともに平和国家なのです。

 1948年に軍隊廃止を宣言し、その後大統領になったホセ・フィゲーレス・フェレールのスローガンは有名です。

 「兵士よりも多くの教師を」

 今ではGDPの8%を教育費とすることを憲法で定めている教育立国でもあるのです。2013年のOECD各国の平均が5.2%だからこの数字は群を抜いて高い水準です(参考:”What Proportion National Wealth is Spent on Education?“, OECD)

 幸福度も高く、国連発行の「世界幸福度報告書2016」では日本は53位ですが、コスタリカは14位と上位にランクイン。イギリスのシンクタンク、ニューエコノミクス財団(NEF)の発表する「地球幸福度指数(Happy Planet Index、HPI)」の2016年度のランキングではコスタリカが世界一に輝いています。

 

99%が自然エネルギー

 

 環境保護については国土の4分の1以上を国立公園と自然保護区で保全しており、地球の地表面積の0.03%しかない国土に、地球上の約6%の生物種が存在する「生物多様性のホットスポット」となっています(参考:在ワシントンコスタリカ大使館ページ)。自然エネルギーの雄でもあり、去年実績で電力の99%が自然エネルギー由来でした。そして、2021年には自然エネルギー100%を達成し、カーボンニュートラル国家の実現を目指しています。

 このようなコスタリカの魅力を知れば知るほど興味や関心が湧き、ついにはコスタリカに暮らすことを決めたのです。

 コスタリカに出発する前に、コスタリカに暮らした経験のある日本人何人かに話を伺いました。「日本人らしいと言ったら、気配りや、和を重んじるといった評価ことがあるように、コスタリカ人のアイデンティティーは、平和を愛し、環境を愛する、ということになっているんです」という返事でした。平和については、その意味が段々と理解できるようになってきました。

 去年視察下見に来た時のことですが、訪問したコスタリカ国会の広報官リカルド・ルイスさんはこう言っていました。

 「君たちは軍隊がない国のことを想像できないと言う。

 私たちは、軍隊が存在する国のことを想像できないんだよ。」

コスタリカ国会内を案内して下さったリカルド・ルイスさん

コスタリカ国会内を案内して下さったリカルド・ルイスさん

 

「軍隊を見たことがない」人たち

 

 今年、こちらに暮らし始めてからも同じような話を何人からも聞きました。

 コスタリカ、グアナカステ州のローカル紙、ヴォイス・オフ・グアナカステの広告部門ディレクター、セザール・ロドリゲス・バランテスさんはこう言いました。

 「軍隊を見たことがないから軍が存在する状態を想像できないんだ。6歳の頃アメリカでアミューズメントパークに行った時アミユーズメントパークの中に銃を持った軍人を見て驚いたよ。なぜアミユーズメントパークに軍人が必要なんだろうと思ったから今でも鮮明に覚えているよ。これは僕だけじゃなくて、僕の友人も皆、これからも軍隊がコスタリカに存在することなんて想像できないと言うよ」

写真中央がセザール・ロドリゲス・バランテスさん、写真左が筆者

写真中央がセザール・ロドリゲス・バランテスさん、写真左が筆者

 

 この後も何人に聞いても、今後含めコスタリカには軍隊が必要ないとの答えが返ってきました。平和がコスタリカ人のアイデンティティーになっているということは本当のようです。

グアナカステ州の海岸

グアナカステ州の海岸

 

 コスタリカに来て随分と自分の平和観が変わってきたと感じています。これまではどうしても戦争と平和を対で考えがちでしたが、軍事的なことが一切なく、平和しかないコスタリカでは、平和だけが存在しているのです。ここには広島の原爆ドームのような戦争を象徴するようなモニュメントがあるかわりに、圧倒的な手付かずの大自然が存在しています。最近は、平和を考えると自然のイメージが湧いてくるようになりました。自分にとっては大きな変化です。

 

「裕福ではないけれどユートピア」

 

 こちらに来て最初に住んだ家の大家で50代のオスカルは、コスタリカについてこう言いました。

 「あまり外国のことは知らないけど、ここはユートピアだと思う。裕福ではないけど、食べるものも、着るものもある。グアナカステ州は緑豊かで、海が美しく、とても静かで落ち着くところだ。庭からはマンゴー、レモン、バナナ、パパイヤが採れる。中にはもっと経済発展して豊かに暮らしたいという人もいるけど、私はこの暮らしが平和で気に入っている。舗装されていない道路ばかりで、隣町に行くにも以前は橋がかかっていなかったが焦る必要はない。川の水が多ければ、その辺で一泊して翌日出発するなんてことが当たり前だった。道路が綺麗になって開発が進むと、多くの人がやって来て、いろいろな問題も起こるだろうし、人生が忙しくなる。現状で満足しているよ。」

 オスカルの考えはどこか懐かしさを感じました。それは、恐らく「足るを知る」考えを大切にしてきた日本人と共通していたからでしょう。自然の中の慎ましい暮らしの中に、平和があり、幸せを見い出せるのではないでしょうか?

 

課題は下水処理、ゴミ…

 

 魅力が多いコスタリカですが、実際に暮らし始めると課題も知り始めました。例えば、コスタリカ全国で下水処理率は4%。首都サンホセですら、汚水が未処理のまま河川に垂れ流される状況で、去年日本のJICAの協力により下水処理施設が完成した際は、サンホセ市長のみならず、ソリス大統領も出席し、大喜びだったそうです。(参考:在コスタリカ日本大使館

 ゴミ問題も深刻で、家庭で分別したとしても、回収された後に一緒に埋め立てられてしまっているようです(参考 :JICAボランティアの世界日記 )。そして、コスタリカ大学の調査によると、2011年にはゴミの25%が河川に棄てられたといいます。(参考 The Tico Time News)このように「生物多様性のホットスポット」で豊かな自然を売りにエコツーリズムの人気訪問地となっているコスタリカですが、現実面では環境意識は日本人の方が遥かに高いというのが印象です。

 今後もしばらくの間コスタリカに暮らすので、もっと課題も知ることになると思いますが、恐らくそれでも変わらないだろうと思うのは、コスタリカが平和で持続可能な国家ビジョンや実際に実行に移し、挑戦を続けていることへの称賛です。

 20世紀に人類は、史上最大規模の世界大戦を2度も戦い、その後も人類自身を滅ぼすことのできる兵器の開発や保持を続けています。もはや国家間の戦争は選択肢として存在しないようにしなければならないと思うのですが、コスタリカは率先してその選択肢を取り除いているのです。

 20世紀はまた地球の限界を知る世紀でもありました。地球資源は有限で、地球の回復力を上回るような開発は、持続可能ではないことを人類は知りました。2021年までにカーボンニュートラル国家を目指すコスタリカは、この面でも21世紀に相応しい国家として光り輝いています。カーボンニュートラルというのは二酸化炭素の排出と吸収がプラスマイナスゼロの状態を指します。

 翻って日本はどうでしょうか?株価や経済成長ばかり気にかけ、大切な何かを見失っていないでしょうか?日本に欠けていること。それは、今のためだけではなく、未来の世代のために、どんな国作りをすべきなのかという長期的なビジョンだと思います。コスタリカの経験から学べることは多いと思っています。