「知りたい情報」と「届けたい情報」をつなぐもの

M. Goto

M. Goto

後藤 暢子
PRディレクター

 今年の2・3月に福岡県庁の企画・地域振興部 広域地域振興課と糸島市の広域連携プロジェクトで、Facebookをメインとした情報発信講座の講師を担当しました。

 糸島さん」というFacebookページを立ち上げ、糸島地域の住民の方々に「自分たちで自分たちの地域の魅力を発信する」ことの「必要性」を知ってもらいたいと思いました。そのために「情報発信=高度なテクニック」という意識のハードルを下げよう、と考えました。住民が持つお薦め情報を発信するにはどうすればいいか、その「コツ」をつかんでもらうことが必要です。そこで『糸島地域広域連携プロジェクト推進会議「Facebook&Instagram 情報発信講座」』という講座を4回実施しました。

糸島市の山間部・井原山の中腹から望む糸島半島。福岡市内から車でわずか30分で拝める景色です。

糸島市の山間部・井原山の中腹から望む糸島半島。福岡市内から車でわずか30分で拝める景色です。

 東京でもすでに糸島ブランドは定着しつつあります。糸島市は九州最大の都市・福岡市の西に隣接する都市です。2010年に前原市・志摩町・二丈町が合併して誕生しました。福岡都市圏から車を走らせれば30分ほどで着くため、ドライブスポットとして非常に人気の高いエリアです。

 律令制時代の怡土(いと)郡と志摩郡が後に「糸島郡」になったそうで、特に「怡土」に関しては、魏志倭人伝に記述される「伊都国」との関係が今も学術的に研究されています。

 

日本で二例目、弥生時代の「硯(すずり)」が出土!

 

 そうした「伊都国」のロマンに拍車をかける出来事が、講座開催期間中に起きました。講座の会場にもなっていた伊都国歴史博物館のほど近くにある井原(いわら)遺跡から、国内で二例目となる「弥生時代の硯(すずり)」が出土したのです。

 講座参加者の中にも、「伊都国平原王墓保存会」の方が複数名いらっしゃり、とても大騒ぎになっていました。遺跡現場にいるかのような臨場感に溢れていました。

 ちなみにこの「伊都国平原王墓保存会」が大切にしているのが、「国宝・内行花文鏡」という国内最大の銅鏡と、この発掘に尽力された考古学者・原田大六氏の功績です。銅鏡は会場となった伊都国歴史博物館設立のきっかけにもなりました。

 「糸島」が「伊都国」だったとする説に起因する遺跡や発掘品の出土は、メンバーの方々にとって大きなニュースであり、それをリアルタイムで知ることができたことは、今回の講師業の副産物でした。

 

身近な情報の発信

 

 「Facebook&Instagram 情報発信講座」の目的は、糸島地域を愛する地元の人々が、より身近な情報を発信するきっかけをつくることでした。糸島市はすでに福岡都市圏から見て重要なドライブコースですが、それも海沿いの一角にすぎず、まだまだ知られていない山間部の魅力なども多いのです。そうした地域の情報発信にも寄与できればと考えました。

パソコンチームの皆さま。記事を作成後、目の前で文章にリズム感を付けたり、「読みたくなるポイント」を加筆して差し上げました

パソコンチームの皆さま。記事を作成後、目の前で文章にリズム感を付けたり、「読みたくなるポイント」を加筆して差し上げました

 九州も全体的に観光で地域を盛り上げようとする動きは強く、各地域が切磋琢磨しています。福岡で情報紙に携わっていた時代、九州全域を対象に行政向けの企画・営業を担当していたので、かなりすみずみまで足を運んできました。そうした経験を通して、いつも思っていることがあります。

 それは必ずしも、観光ポテンシャル(潜在力)が高い地域ばかりではない、ということです。

 全国に名を馳せる観光名所のある地域は別ですが、無理に新しく観光コンテンツを作ったとしても、地元の人にとってそれは本当に有益なのか、という疑問を常に抱いてきました。古くから守られてきたものを大切にすることは大事ですが、バブルがはじけて久しい現在の日本の経済状況で、新しいレジャープランを生み出すほどの原資も乏しく、また建設途中でストップしてしまった残骸も全国各地に残っていると聞いています。

 そんな虚しい状況を繰り返しても仕方がないことですし、体力もないのが現状でしょう。そう考えたとき、各地が「観光」を目標に研鑽していることには別の視点があるのではと思うようになりました。

 福岡県庁の「広域地域振興課」は、まさにそうしたニーズに市町村の行政とプロジェクト方式で取り組む全国的にも珍しい部署です。

 時に観光プラットホームの整備に、時に定住促進にと、扱う案件は多岐にわたります。観光プラットホームの整備と言う点では、特に複数の市町村が一体となることに意義があると思います(今回のプロジェクトは福岡県庁と糸島市単体で、広域地域振興課内のプロジェクトでは珍しいケースです)。通常、観光に行く人は「○○市へ遊びに行こう」と、行政区画で行き先を判断することはあまりないのではないでしょうか。訪れた地の市町村まで意識せず、地域全体を楽しみに行くと思います。

これまであまりタブレットを使われていなかった参加者も、講座の回数を重ねるうちに、撮影されている素材もたまっていきました。「あ、これ!」と気になったシーンを「とにかく撮影しておく!」この動きこそ、最初の一歩だと感じました

これまであまりタブレットを使われていなかった参加者も、講座の回数を重ねるうちに、撮影されている素材もたまっていきました。「あ、これ!」と気になったシーンを「とにかく撮影しておく!」この動きこそ、最初の一歩だと感じました

 また、必ずしも目玉となる観光スポットがあることだけが重要ではなく、景色がきれいなところや美味しい食材がリーズナブルに手に入る物産所めぐりなど、リアルタイムでその地域に行きたくなるような、生活と非日常の中間くらいの情報こそが、実は「ふらっとでかけたくなる」動機だったりします。さらには「この町に移住して、車で仕事に通おうかな」といった定住促進のきっかけにもなるかもしれません。今回の糸島地域広域連携プロジェクト推進会議の情報発信講座も、そんな想いで企画させて頂きました。

 “大きなイベントや施設がなければその地域に魅力がないのかというと決してそんなことはなく、例えば裏山でうぐいすが普通にBGMを歌ってくれるなんて、都心からしたらそれだけでレアだったりするじゃないですか。

 それをどんな写真や動画と言葉で伝えたらいいのか。そんなことを一緒に考えていきながら、私も糸島の知られざる魅力を一緒に探したいと思っております。”

 これが講座への参加者を募集する時の私の想いでした。

 

情報を持つ中高年層と発信する若年層

 

講座の中では「Instagram」の実技もしました。複数の写真を一枚に集約できるアプリ「Layout」を使って、サクサクと作業をされる皆様に感動!

講座の中では「Instagram」の実技もしました。複数の写真を一枚に集約できるアプリ「Layout」を使って、サクサクと作業をされる皆様に感動!

 講座には、プロジェクトの目的通り、「発信したい内容は持っているけれど、どうしたらいいのかわからない」方々が参加してくれました。その中で感じたのは、「情報提供者と情報発信者は必ずしも同じでなくてもいいのではないか」ということです。
 パソコンやスマートデバイスに親和性のない中高年層の方々が中心の講座でしたが、皆さんにメディアの歴史と現在の情報の流れについてざっくりとご理解頂き、「SNSでの個人の発信で人が動く時代になったのだ」ということを4回にわたって何度も何度もお伝えしました。講座の後、操作ができるようになった方もいれば、届けたい想いを文章にするまでに時間がかかりながらも、一生懸命作成されている方もいらっしゃいました。

 興味深かったのは、初回で参加者同士がFacebook上の「お友達」になり、その横つながりの情報でピックアップされたしだれ梅のきれいなお寺の記事をきっかけに、複数の方がそのお寺に注目したことでした。まさに「糸島さん」アカウントで一般の方の興味を惹くことができた瞬間です。人が情報を目にし、行きたいと思い、実際に行動に移し、情報を拡散して次の人の行動を呼び込むという一連の流れを実体験いただけました。

 SNSの理解度には差はでましたが、それでも随分と前進したと感じています。それは、「こういう情報発信の仕組みがあるのだ」ということを知り、自分たちが愛する糸島という地域のことを、もっとエリア外の人に知ってもらえる手段があるのだ、という大きな枠組みをご理解いただけたからです。情報を持つ中高年層の方々が、発信力のある地元の若者に、「こんなことを伝えたい」と情報提供をするだけでも、これまでよりぐっと情報の階層が増えると考えています。

 SNSやネット、デジタルなどで世の中は進化しているように見えます。しかし、それらはあくまでツールであり、「知りたい情報」と「届けたい情報」の間をつなぐもの、それはやはり「人」だと思う、というお話でした。

全四回の講座を終えて、参加者の皆さまと記念撮影。これから「糸島さん」のメンバーとして、糸島をもっともっと盛り上げます!

全四回の講座を終えて、参加者の皆さまと記念撮影。これから「糸島さん」のメンバーとして、糸島をもっともっと盛り上げます!