令和時代の読書と子供

M.Kato

朝の読書推進協議会
事務局長加藤 真由美
 
 
 1988年にスタートした「朝の読書」は、30年以上がたちました。11月5日現在、実施している小・中・高等学校の比率は76%、26,543校が取り組んでいます(トーハン内朝の読書推進協議会調べ)。その結果、子どもたちに学校生活に大きな変化が生まれています。
 「朝の読書」は、始業前の10分間、生徒と教師がそれぞれ好きな本を読む読書運動で4つの原則があります。
 ①毎日やる(習慣化)
 ②みんなでやる(協調性)
 ③好きな本でよい(主体性)
 ④ただ読むだけ(集中力)
 
本を読む習慣が続くと…
 
 本の虫の子どもたちには嬉しい時間です。ただ、導入当初は、本を読む習慣がない子どもたちには苦痛な時間でした。寝不足の子もしばしば見受けられました。ところが「朝の読書」を続けていると変化が出てきます。
 
 『継続は力なり』。子どもたちは毎日続けることで文字を読むことが苦痛でなくなり、読むスピードもアップするのです。一人では絶対に本を手にすることのなかった生徒は、みんなで本を読むため最初は仕方なく読み始めますが、続けるうちに抵抗がなくなり、読書が特別なことではなくなっていくのです。
 
 子どもたちはどんな本を読んでいるのでしょう。2018年度の実態調査(※注)によると、小学生では「かいけつゾロリ」「おしりたんてい」などのシリーズ化されたものが目立ちます。中学生と高校生から支持を集めたのは「かがみの孤城」「君の膵臓をたべたい」などで、有川 浩、東野圭吾などの人気作家の作品もあがりました。「朝の読書」を始めたばかりのころは学習漫画も人気です。小学生では「科学漫画サバイバル」、高校生では「あさきゆめみし 源氏物語」や文芸作品をコミカライズした「悪の教典①~⑨」も読まれています。
 
 よく言われる読書の効用ですが、自然と語彙が増え、読解力がつきます。当然、成績も向上します。そのためには、教師が「朝の読書」の時間を確保し、忍耐強く続けることが求められます。子どもたちの自主性を大事にすることがキーポイントです。学力への好影響については裏付ける結果が出ています
 「本の虫と本を無視」がいつのまにか本を話題に会話するようになります。本でコミュニケーションが生まれるのです。するとクラスが明るくなります。
 
頭を鍛えることと睡眠のバランス
 
 脳科学者で、東北大学加齢医学研究所所長でもある川島隆太氏の研究チームが2017年度にある調査をしました。仙台市の小学5年生~中学3年生約40,000人が対象です。
 平日1日の読書時間と主要4教科(国語・算数・数学・理科・社会)の平均偏差値の関係を調べたのです。調査は、睡眠時間と学習時間の長さで3グループに分類。その結果、勉強が30分~2時間で、睡眠が6~8時間のグループでは、読書時間が長い子ほど平均偏差値が高かったのです。頭を鍛えること(学習と読書)と休めること(睡眠)のバランスが改めて重要だと明らかになりました。
 
●平日1日の読書時間と4教科(国語・算数・数学・理科・社会)の平均偏差値の関係
 

出典:岩岡千景著「生きる力を育む朝の読書『静寂と集中』」(高文研 2019年4月刊行)
 
 今、社会で顕著化している貧困の問題は言い換えれば格差といえます。日本は、経済大国で、豊かな国というイメージが強いですが、国民生活基礎調査(厚生労働省)によると子どもたちの7人に1人が貧困という実態が浮かびあがります。子ども食堂など、支援の輪は広がっていますが、経済的困窮は、世代を超えて連鎖しやすく、子どもたちの教育をはじめ将来の日本に大きな影響をもたらすことは必至です。AIの台頭も脅威です。ただ、AIの現状は、高い頻度の確率の域。今こそ、教育現場である学校が何をすべきかが問われていると感じます。
 視点を変えて、先生の立場で『朝の読書』を探ってみます。普段の授業では先生の得手不得手が教え方にも影響しますが、静かに本を読むだけの「朝の読書」では教え方の差が生じません。先生も一緒に読むので本について共通の話題が増え、生徒との距離が縮まります。多感な学生時代に、子どもたちに本を読む習慣を身につけさせることができるのは学校です。落ち着いて本を読む時間を持てるゆとりが人生を豊かにします。出会った本が一生の友だちになってくれる可能性を秘めた大切な時期なのです。 
 人はゆっくりと大人になります。笑ったり、泣いたり、じっくりと時間をかけて大人になります。学校生活の中の毎朝10分。子どもたちに提供することはできないでしょうか。卒業した子どもたちの「朝の読書があって良かった」という声を良く聞きます。
 
時代に流されず原点回帰
  
 2017年に新学習指導要領が公示され、来年は小学校、21年は中学校、そして22年には高等学校で学習指導要領が改訂されます。
 情報化やグローバル化、話題となっているAIの台頭などを背景に急激に社会が変化しています。変わらなければいけないこと、変えなければならないことが多すぎて、情報処理能力がカオス状態。そんな中で、新学習指導要領の前文に、ホッとする一文を見つけました。
「予測困難な時代にあっても、未来の創り手となるために必要な資質・能力を確実に子供たちに育むことが必要」。
 この一文で考えました。時代の流れに圧倒されて、変えることばかりを考えていなかったかと。今こそ、原点回帰。
 
 2015年9月に国連総会の場で、国連に加盟している193カ国の首脳レベルが全会一致で採択した「持続可能な開発計画」(SDGs)は「誰一人置き去りにしない」というスローガンを掲げています。2030年までに17の目標を達成することを目標にしています。その4番目の目標は「質の高い教育をみんなに」です。学校は一人ひとりの個性を活かし、「誰一人置き去りにしない」場所であるべきです。提唱から30年を越えた「学校での朝の読書」は目標に到達するための具体的なアクションだという思いに至りました。
                          
(※注)朝の読書推進協議会が全国の小学校・中学校・高等学校に向けて定期的に実施している「朝の読書実態調査」に寄せられた「学校図書館貸し出しベスト5」の回答をまとめたもの