関口 宏
ある日、視聴者の方から、こんな質問を受けました。
「番組によって、司会者が、耳にイヤホンをしているのは何故ですか?」
確かにそのような番組があるのですが、テレビというメディアは、実にいろんな事が気になるメディアでもあるのですね。
放送終了後、視聴者から寄せられるご意見の中には、「皆さんが飲んでいたお茶の種類は何ですか?」とか「○○さんのブラウスは何処で買ったのですか?」と言うような、番組の内容・発言とは全く無関係な問い合わせもあり、スタッフも対応に困るときがあるのです。
それにくらべ、この「イヤホンの質問」は、どこかテレビ屋として捨て置けないものを感じ、「それが何か、気になりましたか?」と聞き返してみました。
すると、「まずは、目障りですし、一体司会者は、何を聞いているのか気になるのです」とのこと。さらには「その司会者が誰かに操られているような感じにもなりますし、もし操られているなら、司会者とは単なるロボットなわけで、なら、陰で操っている本人が司会をすればいいのに、と思ってしまって、興味が半減してしまうのです」
なるほど、ごもっとも。・・・・・これは良きご指摘を戴きました。
そこで、「実はアレ、飛び込みのネタ(情報)が入った時とか、時間調整のためもありますが、一番は、生放送中に間違いがあった場合、即座に訂正できるように、内容をチエックしているスタッフと繋がっているのです」とお答えしたのですが、どうも納得が行かないというような顔をされていました。
さてそこで、この良きご指摘を吟味するなら・・・・・・
テレビとは、当然、視聴者に向けた視聴者のためのメディア。
そのためには、制作者は常に「視聴者がどう感じるか」を意識していなければならず、そのためにも、間違いはあってはならないはずなのですが、悲しいかなそこは、人間のなせる業。ときには不測の事態も起こる訳で、その対処方法としての「イヤホン作戦」なのです。
しかしそれが、視聴者の不興を買う結果になってしまうなら、この作戦は失敗なのでしょう。視聴者のために、間違いなくスムーズに放送されることを目指す作戦でありながら、視聴者が白けている矛盾に、テレビ屋が気づかねばなりません。
でなければ、視聴者のためといいながら、何時の間にか、制作者の都合優先で、番組が放送される事になってしまいます。
私事で恐縮ですが私は、あのコードが耳の後ろで絡まったり、すぐ耳から抜け落ちてしまう煩わしさが嫌で、ロケ(スタジオ外での生放送)で、返しの音が聞き辛い場合をのぞき、イヤホンは勘弁してもらっているのですが、質問された視聴者のご意見を聞けば、結果オーライだったのでしょうか。
しかし、どうしても自分達の都合が優先されてしまって、視聴者を忘れがちになる現象は、残念ながらテレビのあちこちに見られる時代になりました。
過剰演出、しつこい番組宣伝、あざとい編集等々、「理解不能、面白くもなんともない!」とスイッチを切る視聴者が増えている現実を、テレビ屋は重く受け止めねばならないでしょう。
更には、ナイターの季節を迎え、それこそテレビ局の都合優先で、試合が途中でチョン切られる腹立たしさに、怒る視聴者が今年も出る事でしょう。
そして、こうした自分達の都合優先現象は、テレビに限った事ではないのかもしれません。
商品の不当表示やら、医療ミス、一部だろうと思われますが、学校関係者の自分達の都合優先、はたまた「知らなかった」で許される政治とカネ・・・・・
ため息が出そうです。
そして「国民の生命・自由、幸福の追求」が目的という集団的自衛権の議論も、何かの都合優先でなければ良いがと心配しています。
テレビ屋 関口 宏