今年の重大ニュース

M. Kimiwada

M. Kimiwada

君和田 正夫

 「戦後70年の節目」と言われた2015年も終わろうとしています。沢山のニュースがありました。中でも国や社会の在り様を根本から問い直すニュースや被害が格段に大きい自然災害のニュースが目立ちました。

 日本の在り様を根底から揺るがしたのは、なんといっても安全保障関連法を巡る動きです。十分な論議を経ていない法律や憲法の解釈変更で日本の進路が決まる、ということに大いなる不安を覚えます。

 国際社会ではイスラム過激派によるテロ事件、とりわけIS(イスラム国)によるテロ事件が相次いでいます。過激派への空爆そして難民問題と負の連鎖は広がる一方です。報復合戦で平和がもたらされることはない、と分かっていても、連鎖を止める手がかりひとつ見つかりません。

 もう一つ、自然災害も世界各地で起きています。異常気象、地震、火山の噴火が続きました。地球温暖化の影響も指摘されています。

 いずれも今年限りの出来事ではありません。世界は激動期に入ったのでしょうか。

 私が考える重大ニュースを挙げてみます。

① 安全保障関連法の成立

 9月19日未明、安全保障関連法(注)が成立し、集団的自衛権の行使が可能になりました。「戦後政策の大転換」(日本経済新聞見出し)が行われたわけですが、多くの憲法学者が「違憲」の判断を示す中での成立だったことと、憲法を変えなくても実質的な「改憲」が可能であることを見せつけたことで、私たち日本人の憲法観は大きく揺らいだと思います。実際国会周辺で大規模なデモが久しぶりに行われました。国際的にも「海外派兵できる国」になった日本を見る目は変わりつつあります。

 日本は新しい安全保障体制の下で、将来の姿を求めていくことになります。その最初の選択が夏に予定されている参議院選挙です。

② イスラム過激派によるテロが続発

今年の重大ニュース/イスラム過激派によるテロ

今年の重大ニュース/イスラム過激派によるテロ

 1月7日、フランスの風刺新聞「シャルリ―・エブド」社が襲撃され、12人が死亡しました。イスラム教の預言者、ムハンマドの風刺画が原因でした。デンマークでもムハンマドを犬として描いたスェーデン人の画家を狙ったとみられる銃撃事件があり、この時点では言論活動の許容範囲なども議論の焦点でした。

 しかし、宗教対立は激化して、6月にはクェートのモスクで自爆テロがあり、IS(イスラム国)が犯行声明を出しました。11月13日には、パリでコンサートホールやサッカー場など複数の場所で同時多発テロが発生しました。この事件もISが犯行声明を出しました。IS壊滅を目指す米、仏、ロによる空爆、それへの報復、安住の地を失った難民問題、事態は泥沼化しています。

 日本の安全保障関連法の成立と関連して、海外の勤務経験を持つ商社マンが次のように言ったことが印象的です。

 「いままで日本人だということで狙われることは、まずなかった。これからは注意が必要になるね。自衛隊の海外派遣の状況やそれに対する海外世論の反応などに、これまで以上に関心を持たないといけないだろう」

③ ISによる日本人殺害

 「シャルリ―・エブド」の事件から間もなく、シリアでISに拘束されたジャーナリスト後藤健二さん殺害のビデオが流されました。その前に拘束されていた湯川遥菜さんも殺害されました。後藤さんは飢餓のない世界を目指して、途上国の子供たちの取材に熱心だった、と聞いています。

④ 自然災害

<台風> 今年は台風が二つ続けて発生することが多かったようです。また各地で豪雨が見舞いました。そのうち18号台風は東北地方に大きな被害をもたらしました。9月9日に東海地方に上陸した後、日本海に抜けて低気圧になりましたが、北関東と東北に300ミリ(24時間で)を超える豪雨を降らせました。

 このため茨城県では鬼怒川が氾濫、宮城県では渋井川が氾濫するなど各地で大きな被害が出ました。このため「関東・東北豪雨」と名付けられました。

<火山> 国内だけ見ても、火山の噴火活動が各地で観測されました。昨年9月、御嶽山が噴火して多数の犠牲者を出した記憶が生々しく残っているのに、今年4月には蔵王山(山形)に噴火警報が出ました。以後、毎月のように日本のどこかで噴火活動が観測され、噴火警報が出たり、入山規制が行われたりしました。

 5月 永良部島(鹿児島)全島民避難
 6月 浅間山(群馬・長野)、箱根山(神奈川)
 7月 雌阿寒岳(北海道)
 8月 桜島(鹿児島)硫黄島(東京)
 9月 阿蘇山(熊本)

 海外でもチリのカルブコ火山が4月に4噴火しました。43年ぶりの噴火ということで話題になりましたが、住民5000人が避難した、と伝えられました。
 
 こうしたことに加えて、地震や灼熱地獄のような猛暑も、世界で観測されました。

⑤ 「川内1号機」再稼働、「もんじゅ」には「最後通告」 自然災害

 九州電力の川内原子力発電所仙台1号機(鹿児島県)は、原子力規制委員会の検証を終えて、9月10日に営業運転を再開しました。新しい規制基準が導入されてから初めての営業運転です。営業運転の原発は関西電力大飯原発4号機(福井県)が定期点検のため停止して以来、ほぼ2年間ゼロが続いていました。11月には川内号機も再稼働し、今後、再稼働は増えそうです。

 一方、国の核燃料サイクルの中核を担う高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県)に対して、原子力規制委員会は、11月13日、炉の運営主体である日本原子力研究開発機構について「安全に運転する資格がない」として別の運営主体を探すよう、文部科学相に勧告しました。要するにナトリウム漏れや機器の点検漏れなど、度重なる管理不備で「失格」の裁定が下った訳です。といって規制委が求める半年以内に代わりが見つかることはないでしょう。「もんじゅ」は廃炉の瀬戸際に立たされたのです。規制委は13年にも点検漏れ、虚偽報告などで、無期限の運転禁止命令を出しています。私たちはそのようなところに、「夢の原子炉」の夢を託してきました。「もんじゅ」に投じられた費用は建設と維持管理費で1兆円に達する、と朝日新聞は報じています。3.11以降、原発は日本の大きな政策テーマになりましたが、原発の将来を担う当事者自らが、将来への道を断とうとしているように思えます。

⑥ 18歳以上に選挙権

 公職選挙法が6月17日、参院本会議で可決・成立し、現在20歳以上と規定されている選挙権が18歳以上に引き下げられます。1945年以来70年ぶりの改正と言いますから、ここでも戦後が姿を消すことになります。来年夏の参院選から実施されます。国会だけでなく、地方自治体の首長や議会の選挙、最高裁判所の裁判官の国民審査にも適用されます。2007年に成立した憲法改正のための国民投票法では既に18歳以上とされており、公職選挙法が後追いした形です。すでに世界の国の9割が18歳を採用している、とのことです。
 そこで気になることがあります。若者たちが新聞を読まなくなり、テレビを見なくなっているということです。新聞通信調査会が10月に発表した「メディアに関する全国世論調査2015」によると、1日の閲読時間は18~19歳で8.9分。前年の13.1分から4分減っています。

 この年代にとって「情報源として欠かせない」メディアは、新聞20%、NHKテレビ22.9%、インターネット60.0%となっています。これを60歳代で見ると新聞65.7%、NHKテレビ54.8%、インターネット22.9%になります。インターネットの位置づけが圧倒的に異なります。

 ところが各メディアの信頼度を見ると、18~19歳が1位に挙げるのはNHKテレビで71.1 %、次いで新聞の68.3%、3位は民放テレビ62.1%、そしてインターネットはラジオに次ぐ5番目で51.5%になります。信頼度の高いメディアへの接触が減り、低いメディアが「欠かせない」メディアになっているという皮肉な調査結果です。

 若者が投票の判断をするデータを、既存の新聞、テレビが提供できるかが、日本の未来を決めることになるだろう、と感じています。

⑦ 東京五輪の国立競技場、エンブレム問題取り下げ

 2020年開催の五輪は、旧態依然の政治、スポーツ界を国民の前に晒しました。国立競技場は英国のザハ・ハディド氏のデザインに一度は決まりましたが、建設費が当初予定を大幅に上回る3000億円超になることに批判が湧きあがり、7月に安倍首相が白紙撤回を表明、あらためて公募することになりました。

 この騒ぎで森喜朗・東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会会長や武藤敏郎事務総長、さらには国立競技場の審査委員長安藤忠雄氏らの責任を問う声が上がりましたが、責任の所在が追及されないままになりました。

 またエンブレム問題はアートディレクター佐野研二郎氏のデザインが、ベルギーの劇場のロゴに似ている、という指摘で、これも白紙撤回、再公募になりました。デザイン業界のもたれ合い体質などが指摘されました。

⑧ スポーツ界のスキャンダル

 国際、国内を問わずあきれるほどの不祥事、スキャンダルが飛び出しました。

  最大の話題は国家ぐるみと指摘されたロシアのドーピング問題です。世界アンチドーピング機関が11月9日、ロシア陸連のドーピングを認定し、資格停止を勧告しました。国際陸連はこれを受けて資格停止を決めたため、ロシアは国際的な競技への参加ができなくなり、リオ五輪への参加も危ぶまれる状況になりました。ロシアだけの問題なのか、陸上競技だけの問題なのか、国際的な広がりを感じさせる事件です。

 またワールドカップ(W杯)の放映権などの権利や、開催地の誘致などを巡って不正があったとして、米司法省は国際サッカー連盟(FIFA)の現役副会長を含む14人を起訴しました。この汚職ではブラッター会長にも疑惑の目が向けられており、同氏は5月29日に5期目の会長選に勝ったものの、4日後の6月2日に辞任を表明しました。米司法省が捜査の対象にしているという報道もあり、FIFAの倫理委員会は90日間の活動停止処分を決めました。

 そして日本では野球賭博が発覚しました。本当に巨人の3選手だけで終わるのでしょうか。

 スポーツが商業化すればするほど、利権が肥大化します。スポーツとメディアの関わりを、あらためて見直す必要が生まれる可能性があります。とくにテレビは、これから生き延びていくためにはスポーツ中継が不可欠のものになります。スポーツが真剣勝負であること、激しい動きの中に美しさがあることで、スポーツ中継は視聴者に感動をもたらしてきました。その前提が崩れた時、テレビはスポーツとどう向き合うのか、考えるべき時が近づいているようです。

⑨ 企業もスキャンダル

 スキャンダルはスポーツ界だけではありませんでした。経済界ではフォルクスワーゲンの排ガス不正問題が世界中を驚かせました。日本でも旭化成建材などによる杭打ちデータ改ざん問題が発覚しました。マンションが傾いてしまった、というのですから、驚き以上の企業犯罪です。いずれの場合も消費者を裏切る行為です。賠償金なども巨額になるでしょう。名の売れた企業といえども信じてはいけない、という教訓だけが残るとすれば、企業の倫理など無いに等しくなります。

 東芝の不正会計もありました。2015年3月期決算の発表が大幅に遅れました。過去三代の社長、社長経験者が辞任しましたが、こちらは株主への背信行為でした。
⑩ 言論の自由は武器ではないのか

 安倍政権になってからメディアとの軋轢が増えた、という印象を強くしています。このことは当コラムで何度か取りあげました。

 「報道が公平でない」と言った場合、「公平」とは何か、をまず明らかにしなければなりません。その線引きができるはずはないのですが、「自分たちに不利」な報道は不公平、という無茶が通り始めたのです。メディアが「言論の自由」を声高に主張することは当然のことですが、それを言う前に、言論の自由が脅かされている実態を、オープンにすべきでしょう。

 4月、NHKとテレ朝は、自民党に呼ばれました。なぜ呼ばれたのか、報道ステーションが自民党の狙いだったと言われますが、どのような議論があったのか。呼び出された後、テレ朝の役員は自分たちの考えを説明できて良かった、という趣旨の発言をしました。どのような考えを説明したのでしょう。こうした個々の事案を国民の前に広げて見せることはメディアの責任であり、その自由を確保することが、自らを介入から守ることになります。

<注>安全保障関連法
新法=国際平和支援法
現行法10本を一括改正=改正武力攻撃事態法、重要影響事態法、改正PKO協力法、改正自衛隊法、改正船舶検査法、米軍等行動円滑化法、改正海上輸送規正法、改正捕虜取り扱い法、改正特定公共施設利用法、改正国家安全保障会議(NSC)設置法