君和田 正夫
首相の一日を朝から帰宅まで追った記事が、毎朝、新聞に出ています。「首相日誌」「首相の一日」などタイトルは様々ですが、5月25日の記事は私にとって衝撃的でした。朝日新聞の4面「首相動静」から引用します。
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「6時41分、東京・赤坂の日本料理店『古母里』。テレビ朝日の早河洋会長兼最高経営責任者(CEO)、篠塚浩取締役報道局長と食事。10時8分、東京・富ケ谷の自宅」(時間は午後の時間)
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生臭さプンプンの会食
「この時期に?まさか」というのが正直な気持ちでした。
首相の関与があったのか、なかったのか、「忖度」があったのか、なかったのか、森友学園から加計(かけ)学園へと疑惑の火種が次々に拡大しています。憲法改正、共謀罪、天皇の退位特例法という大きな政治課題もあります。いずれも意見が大きく分かれたり、様々な意見が出たりしている案件です。生臭さがプンプンしている最中です。
しかも、イタリアでのサミット(7カ国首脳会議)に参加するため、翌25日、首相は羽田空港から出発することになっていました。その前夜というタイトな日程の中です。首相の行動が公表されることは双方、十分承知のことです。重要な話があったのだろうか、とメディア関係者の間では大きな話題になっています。
同じ25日の朝刊一面で朝日新聞は、文部科学省の前事務次官、前川嘉平氏のインタビュー記事を掲載しました。前川氏は加計学園問題で「総理の意向」が記された文書について、担当課から説明を受けた時に示された本物の文書だ、と認めました。「週刊文春」も前川氏にインタビューし、同日付で、大きな見出しのついた新聞広告を打っています。翌日には前川氏自身による記者会見が開かれ、問題がどこまで拡大するか、注目されています。
会食の前日、「組織的犯罪処罰法」が衆院を通過しました。「何が罪になるのか」という根本的な問題が明らかにならないまま採決されました。メディアの対応も割れました。名称からして「共謀罪」派と「テロ等準備罪」派の二派に分かれました。「共謀罪派」は法案に反対、「テロ等派」は賛成、といった色分けでしょうか。
「読売新聞で改憲構想発表」の異様さ
安倍首相は憲法改正について読売新聞の単独インタビューに応じて話題になりました。憲法施行70周年になる5月3日付朝刊一面で「憲法改正20年施行目標」という見出しの記事として発表されました。また、同じ日に開かれた憲法改正の集会にビデオメッセージを寄せて、「20年施行」を訴えました。国会や自民党ではなく、個別の新聞を発表の場に選んだ異様な事態に対して、与党内からも批判が出ました。
ビデオメッセージは質疑ができません。読売新聞のインタビューも質疑ができません。5月8日の衆院予算委員会で、首相の改憲構想と自民党の憲法草案との整合性について質問された首相は、なんと「読売新聞を読んでくれ」と答えてしまいました。国会の場での質疑さえ拒絶したわけです。インタビューはその材料に使われたのです。
朝日グループへくさび?
こうした緊迫した状況の中で「政治臭の強い会食」と捉えた人が多いでしょう。どのような狙いの会食だったのでしょう。首相側からすれば、難局故にメディアの味方を増やしたい、という強い欲求があったのかもしれません。朝日新聞などは安倍批判を強めています。朝日グループの一角を崩そうと狙ったのかもしれない、と考えてしまいます。メディア側の目的は何でしょう。会食の日程が公表されるメリット、ディメリットなどいろいろ想像しても思いつきません。会食することによって、「首相の腹心のメディア」と世間に認知される恐れを抱かなかったのでしょうか。
たとえ前から決まっていた日程だったとしても、時期に関係なく、また場合によって内容に関係なく、首相と会食する、ゴルフをする、といったこと自体が、メディアの在り様に深く関わってくる、と思います。
「忖度」する部下の恐れは
さらに私が危惧することは「取締役報道局長」が同席したことです。取材・報道に携わる者は取材先との距離感に敏感でなければなりません。癒着が疑われたら報道内容の信ぴょう性にまで影響します。社内的にもCEOと報道局長が、首相と親しいとなれば、「忖度」する部下が出て来る恐れがあります。そうならないことを願っています。
現役を退いてからテレ朝の経営や番組編成にはできるだけ口を出さないことにしてきました。今後もそうしようと思っていますが、首相のメディアへの対応について、様々な指摘、批判がなされている中での会食に、強い危惧と異様さを感じました。「書生っぽい議論」と言われるでしょうが、メディアが「越えてはいけない一線」を越えようとしているように思えてならないのです。