志村一隆
上海や台湾に行くと、ファミリーマートがどこにでもあってホッとすることがあります。店内に入ると、ポッキーやカッパえびせんなど、日本でも馴染みの商品が売られています。それにまたホッとします。
日本の商品も、単独で現地に輸出するのは大変でしょうが、国内のコンビニといったプラットフォームがまず進出すれば、そこに日本の商品が陳列されるのは単独進出よりは楽にできるでしょう。
それと同じで、映像コンテンツも作品単独で輸出するより、まずはプラットフォームで進出すれば、国産コンテンツも商品棚の片隅ではなく、いい場所に陳列されるのではないでしょうか。
その意味で、島ぜーんぶでおーきな祭で吉本興業が発表した「沖縄・アジアエンターテイメントプラットフォーム構想」は注目に値します。これは、国産コンテンツを、国産プラットフォームで、アジアに配信していくという構想で、教育や社会課題などテレビとは違う切り口のコンテンツを広くアジアに配信するとしています。(筆者は4月から株式会社よしもとクリエイティブ・エージェンシーの取締役に就任しています)
ネット配信といえば、4月の終わりに、インドネシアで開催されたメディアのカンファレンス「APOS」に参加してきました。ネット配信会社、通信会社、ハリウッドメジャースタジオなどメディア・エンターテイメント業界の方々が集うイベントです。今年は、顧客単価をあげるため、通信会社がネット配信(OTTと言います)を開始する動きが目立っていました。
アジアのネット配信事業者は、HOOQ、iFlix、Viuの3社が有名です。HOOQは、シンガポールの通信会社Singtelとワーナー、ソニーの合弁会社です。Singtelは、マレーシア、インドネシア、フィリピンなどの通信会社に出資し、加入者5億人、売上1兆円を超える巨大企業で、その通信会社の単価向上のためにHOOQに期待しています。
iFlixは、マレーシア発祥の独立系ネット配信事業者です。アジアだけでなく、中東、アフリカに進出、加入者は1300万人と言われています。Viuは香港PCCWが運営するネット配信サービスです。
彼ら3社のサービスは、通信会社が提供するサービスに組み込まれていて、消費者は通信会社と契約すると、3ヶ月無料キャンペーンで見れたりします。また、Singtel系の通信会社はHOOQしか見れないということもなく、複数のネット配信サービスが見られます。
通信会社は顧客単価の向上を期待しますが、ネット配信サービスがどこまで貢献できるのか悩みどころです。なにしろ、ネット配信サービスに月額払う金額は2ドル以下です。
そこで、iFlixは広告で収益をあげる無料動画サービスを開始すると発表しました。私もアジアの動画サービスは、この無料モデルだと思います。インドと中国を除いて、アジアには20代以下の若者が3.4億人います。彼らは、これから30年間エンタメを消費しながら年をとっていくでしょう。日本でいえば、昭和の高度成長期と同じです。
人口が多く、経済が成長している時期は、消費財や飲料・食料品メーカーといった企業の広告宣伝できるメディアを欲します。それに、まだ若くて貧しい人たちは無料の娯楽を欲しているでしょう。
イノベーションの法則は、最初低レベルだけど安価サービスが市場に突如現れ、既存プレイヤーが相手にしないうちに、多くの顧客を獲得、あっとう間にサービスを改善していくと習いました。
であれば、沖縄アジアエンターテイメントプラットフォームのような、社会課題や教育を、アジアの若者に配信しながら心を掴んでいく戦略は長期的に生き残る可能性が高いのではないでしょうか。