『ニッパチの2』

H.Sekiguchi

H.Sekiguchi

関口 宏

 「商いが振るわないニッパチ」つまり2月と8月。厳しい寒さと暑さに、客足も遠のく事を意味するものですが、昔は映画演劇の世界でもよく言われたことでした。

 では、どこか似たようなテレビ業界はどうなのか。

 やはり8月はあまり振るいません。ただそれは客足が遠のくと言うよりも,遠くへ行き過ぎてしまう夏休み。視聴率調査の機械のついたご家庭に誰もいなくなって、スイッチが入らないのです。

 これを業界では「セットイン数の低下」と呼んでおりますが、それはそれで頭の痛い季節ではあるのです。

 そして一方の今月、2月とは・・・・・

 どんよりとした空のイメージとは違い、実はテレビ屋にとってはチョッピリ嬉しい季節なのです。

 寒い寒い表に出るよりは、火燵にもぐりこんで「テレビでも見てよーっと」と仰る方が増え、「セットイン数」が上がり、当落スレスレ番組の担当者にも、ホッとしたひとときが訪れるのです。

 でも、すべてのテレビ屋という訳にはゆきません。

 中には雪雑じりの2月の寒空同様、暗い気持ちで仕事を続けるテレビ屋もいるのです。

 つまりは、春以降も担当番組が続投されるのか、それとも打ち切りなのかの最後通告が、前年の暮れに出されているのが業界のパターンであって、打ち切りになったテレビ屋は、まるで敗戦処理のような仕事をせざるを得ない季節でもあるのです。

 でも「セットイン数」が上がるこの季節、打ち切り決定番組が突如、高視聴率を弾き出す奇跡が起こったりして、「なんだよー!続けてりゃー良かったじゃないか!」との声も時々聞こえるのですが、覆水盆に返らず。組まれたスケジュールは冷たくも淡々と消化されて行くのです。

 「しょうがない。あとは有終の美を飾ろう!」と励ます人も出てきますが、やはり敗戦処理にはもう一つ力が入らないのが人情。

 かく言う私も、何度も力の入らない有終の美を目指したものです。

 そしてこの季節、もうひとつのテレビ屋集団が、密かに活動を始めています。つまり、打ち切り決定枠の後を、この春から請け合うことになった実戦準備中のテレビ屋達です。

 情報は漏れてはいけません。綿密に手抜かりなく、春の勝負に賭けているのです。使命感と不安感とが交錯する中、着々と今、新番組が練り上げられているはずです。

 そこで同業者としてのアドバイスと申しましょうか、お願いと申しましょうか・・・・・

 この春、新しく衣替えする番組の中でも、とりわけ報道・情報系の番組に視聴者の熱い視線が送られているように感じるのです。
昨年暮れあたりからチラチラ噂話しが流れたり、また担当者の降板宣言があったりで、この春からどうなるのかを見極めようとする空気が、いつもとは違う緊張感を作り出しているようです。

 その中身についてまで、とやかく言う資格は私にはありませんが、なんとかレベルの維持向上が期待できるものであってほしいと願うものです。

 

BS-TBS「関口宏の人生の詩」 毎週日曜日 22時〜

BS-TBS「関口宏の人生の詩」
毎週日曜日 22時〜

 

 先日、すでに100歳を越えられた「むの・たけじ」氏にお会いしました。先の大戦中、大手新聞社に籍を置きながら、あの戦争を止められなかったとの悔いから、戦後新聞社を辞して、自力で平和を訴えるメディアを立ち上げたジャーナリストです。
 むの氏は私の問いに、当時の世の中の『空気』にのまれ、メディアはその使命を見失った。それほど世の中の『空気』とは、瞬く間に大きな力となって、あらゆるものを飲み込んでしまう。この『空気』を侮ってはいけない。この『空気』をしっかり監視するのがメディアの大切な使命なのだが・・・・・というようなお話をして下さいました。

 ひと頃「K・Y」という言葉が盛んに使われた事がありました。確かに「空気を読む、読まない」は一人の人間として大切な神経ではありますが、その『空気』を読んでどうするかが肝心なところ。付和雷同では、むの氏が仰る失敗を繰り返すことになりかねません。

 寒い日がまだまだ続くこの2月。今日も着々と新番組を練り上げているだろうテレビ屋諸君。是非ともこの「むの・たけじ氏」の忠告に耳を傾けて下さい。そして諸君の春のスタートを,首を長くして待っています。

テレビ屋   関口 宏