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TikTokめぐり米中データ冷戦

元テレビ朝日モスクワ支局長 武隈 喜一

 ポンペイオ米国務長官は、7月6日夜のFox Newsの番組で、TikTokなど、中国に拠点を置く企業が米国で展開するソーシャルメディアのアプリの使用禁止を検討していることを明らかにした。国務長官によれば、アプリの利用によって、個人データが中国共産党によって収集される恐れがあるため、としている。
 かつての冷戦は米ソ間の核兵器開発をめぐる重厚長大な軍需産業による戦いだったが、現在、米中間で激しく繰り広げられているのは、データをめぐる冷戦だ。ポンペイオ長官の発言によって、Huawei製品のボイコットと同様、女の子の楽しいダンスや笑えるシーン満載の短尺動画プラットフォームTikTokが、米中のデータ冷戦の真っただ中に置かれていることを示した。
 TikTokは中国に拠点を置くByteDance社が運営するアプリだが、5月以降はDisneyの動画配信の旗艦プラットフォームとなるDisney+の立ち上げを成功させたケヴィン・メイヤーがCEOに就任している。

  世界のユーザーは3億を超す

 米国内のユーザー数は今年3月末で1億6500万人にのぼり、世界全体では3億1500万人がアプリをインストールしているとされているが、新型コロナのStay-at-homeでさらに使用者が伸びたと言われている。DAU(デイリー・アクティブ・ユーザー)は公表されていないが、2019年の米国広告業界誌AdAgeのリポートでは、米国内のDAUは3000万件と推定されている。
 ポンペイオ長官はFox Newsの番組で、「もしあなたのプライベート情報が中国共産党の手に落ちてもいいのなら、ダウンロードすればいい」と語ったが、米国政府は、ヘビーユーザーである16歳から24歳までの年齢層のデータが集められ、そのまま北京に送られている、と見ている。すでに昨年の公聴会で、共和党のハウリー上院議員が「TikTokはあなたの子供たちがどこにいて、どんな格好で、どんな声で、何を見て、どんな動画を友人と交換しあっているかを知っている。中国政府のお墨付きを得てだ」と中国製アプリの脅威を語っている。それによれば、TikTokは位置情報だけでなく、電話番号、携帯のシリアルナンバー、私的なメッセージ、履歴、IPアドレスなどを収集し、中国政府に渡しているという。
TikTok広報は「TikTokのCEOは米国人であり、米国内の安全性やセキュリティ、パブリックポリシーに関してはキーとなる幹部が対応している。ユーザーに安全とセキュリティを提供することが最高のプライオリティであって、中国政府にユーザーデータを提供したことはないし、要請されてもそのつもりはない」と答えている。またデータについては「米国内のTikTokユーザーのデータはすべて米国内にストックしている。データセンターはすべて中国国外にあり、中国国内法の対象となるものではない」としている。

  冷戦は党派を越えた既定路線

 しかし、先週すでに、中国との間で軍事的な緊張を高めるインド政府はTikTokを含む58の「中国製」アプリを、国家安全上の問題とプライバシーへの懸念からインド国内で使用禁止とし、豪州政府も禁止を検討中だ。
 トランプ陣営では、中国政府が、収集したデータをもとにトランプ大統領に不利な偽の情報を大量に流し、11月の大統領選挙を混乱させようとしているのではないか、と見ている。しかも、真偽のほどは不明にしても、6月20日のタルサでの支持者集会をTikTokの若者ユーザーたちによって潰されたという報道を苦々しく思っているトランプ陣営としては、TikTokを排除することは選挙戦にとっても安心材料であることは間違いない。
 ただ、TikTokなどの中国製アプリと中国政府とのつながりについては、トランプ大統領に対抗する民主党側も否定することはできず、米中冷戦の最前線であるデータ戦争は米国内の分断した党派を超えた既定の路線になりつつある。
(2020.07.07)

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